そもそもこの計画の歴史は古く、今から43年前、1970年の「全国新幹線鉄道整備法」にまで遡る。まさに高度成長の真っただ中で、3年後の73年に基本計画は承認される。当時の総理大臣は田中角栄で、田中が著した『日本列島改造論』が大ブームになっていた。その後、紆余曲折を経て、2011年5月、国土交通大臣によりJR東海が営業主体と建設主体に指名された。かつては国鉄主導の国家プロジェクトだったものが、現在では一民間のプロジェクトになっていることを示している。
このリニア新幹線は、東京・品川と名古屋を時速約500kmで走行し、約40分で結ぶものだ。現在の「のぞみ」では1時間半を要するので、50分ほど短縮されることになる。料金については、現行の「のぞみ」に700円程度の上乗せに抑えるとしている。この金額なら乗ってみたいと思う人が多いことだろう。しかしながら、車窓からの景色を楽しむということは、残念ながらほとんどできない。というのは、全長286kmのうち、地上を走るのは40kmほどで、しかもその地上も騒音対策の壁があり、トンネルとほとんど変わりがないからだ。
さらに、乗車時間が50分短縮されるといっても、品川駅は地下40メートル、名古屋駅は30メートルの地下に建設される。仮に地上の在来線との乗り継ぎに20分程度かかってしまうと、実質の時間短縮はたった30分になってしまう。こうしてみると、リニア新幹線は多くの利用者にとっては、魅力やメリットをあまり感じられなくなってしまう。
●JR東海が「リニア新幹線」を掲げる意義
次にJR東海にとってのリニア新幹線の意味を探っていこう。
まずは、かかる建設費用は総額約9兆円というビッグプロジェクトである。その費用は、当然すべてJR東海が負担する。そして負債額は一時的に5兆円まで膨らむことを想定しているが、この数字は同社の年間売上の約4倍に当たる。そして27年の名古屋開通時点での鉄道部門の売上高を1兆2130億円と見込んでいるが、これはほぼ現在と同じ水準で、45年の大阪開通時の予想売上高は10%増の1兆3540億円の見込みだ。
つまり、JR東海が9兆円の建設費用を投じ、5兆円の負債を抱える一方、売上はたった10%しか増えないのである。また経常利益については、ニュースサイト「THE PAGE」が27年は1740億円、そして45年は750億円まで落ち込むと試算している(http://thepage.jp/detail/20130920-00000003-wordleaf)。
JR東海はこのプロジェクトに取り組む理由を、東海道新幹線が開業後から49
年が経過しており、将来の経年劣化や大規模災害に対する抜本的な備えとして、
中央新幹線を実現させることで、東京・名古屋・大阪を結ぶ日本の大動脈輸送
を分散化させるため、としている。しかし、ここまで採算が厳しいと、JR東海の経営そ
のものの先行きを案じてしまうのは筆者だけではないだろう。
もともとは国家プロジェクトだった「リニア新幹線」。時代に翻弄されながらも、
約半世紀を経てようやく実現に向かって具体的に動き始めたわけだが、開業ま
での道のりはまだまだ険しく長いだろう。
(文=久保田雄城/メディア・アクティビスト)