困難な経営者の「学び」問題、どう解決?大学院、セミナー、独学…理論と実践の融合に難
「会社の業績は社長で決まる、その割合は少なく見積もっても90パーセント以上だ」
こう断言するのは新将命(あたらし・まさみ)氏だ。新氏は09年に出版されロングセラーとなっている『経営の教科書』(ダイヤモンド社)の著者であり、経営の神様みたいな存在として知られている。そして筆者が30年来親しく兄事している自分のロール・モデルでもある方だ。いくつもの外資系企業で社長を務められた新氏のこの指摘は正しく、経営者や幹部を任された責任はとても大きい。創業経営者はそのことを本能的に察知しており、業務に全身全霊を打ち込んでいる人が多い。もちろん従業員社長として就任した人も、組織の中で選抜されてきた最優秀者なので、他人からいわれるまでもなく自己陶冶に努めているだろう。
社長はどう勉強?
ところが意欲に富んだ経営者・幹部が「経営者としてのスキルや知識」を体系的に身につけようとすると、多くの障害が立ちふさがってしまう。
まず当然ながら時間の制約だ。社長や本部長などのポストは直接業績責任を背負っている激務なので、まとまった時間を取れない。社会人経営大学院が近年雨後の筍のように開講されているが、こうした人が2年間も通い詰められるわけがない。また筆者自身は社会人経営大学院に通いもし、教える側も経験しているが、経営者が行く場所ではなく将来経営者になりたい若手管理職、典型的な例としては「もうすぐ課長になりそう」な人などが学ぶ場であり、経営幹部クラス向けではない。
では、経営書を読んで独学するというのはどうか? 世には万巻の経営書、ビジネス書が出ている。筆者でさえ20冊以上、新氏に至っては50冊近くの著書を持つ。そして、それぞれの本が独自の経営論を唱え、互いに異なる主張を掲げる。どれを選び、どれを実践すればよいのか。大学で経営学部出身ではない大半の経営者には皆目見当が付かない。
経営セミナーはどうか。成功した経営者がその事例を話すケースが多いが、内容としては面白い一方、汎用性や理論的整理に欠けていることが多い。つまり、その経営者の独自の体験や方法による成功例のため、他社への応用基準が明確にされないことが多いのだ。
他社事例やケース・スタディーに学ぶというのも同じような限界を抱えている。経営学的には「ベスト・プラクティス」と呼ばれるが、どんな他社事例を選び、どう情報収集すればいいのかという点が難しい。技術論だけは理解したが、それをどう実地応用するのかという段階で途方に暮れてしまうこともある。
セオリーと実践講義を融合したプログラム
ちなみに筆者は5年前から、そんな経営者の「学び」に関する悩みを解決するため「経営者ブートキャンプ」というプログラムを主宰している。
10月から第10期を迎える本プログラムの最大の特徴は、月1回(土曜日全日)で半年間という期間に、「戦略カードとシナリオ・ライティング」により実際に自社(自部門)の3年戦略を立案。途中に2回のグループ発表でお互いインプットをし合う。最終発表した戦略はそのまま自社に持ち帰って実践してもらう。この方法により、業績の大きな伸張を果たした卒業生がたくさん出ている。
戦略策定のほかに、筆者が「成長戦略」「組織戦略」「極め打ち戦略」などを講義するのに加えて、新氏を含む著名経営者を各期数人招き、特別講義を行う。さらに受講者は半年間の間に5冊ほどのしっかりした経営書を読み、クラスで発表・討議する。加えて、招聘する特別講師の著書を講義前に事前配布する。
これだけのプログラムを少人数で行うため、卒業生の満足度はとても高い。参加者は、創業社長、大手企業の幹部、外資系の経営者や幹部、経営コンサルタントなど多彩で、全国から受講者が集まる。そのため、「経営者が経営者を教える、経営者の梁山泊」という様相を呈しているが、経営者の「学び」には、セオリーと実践講義を融合したプログラムが必要だと考えている。
(文=山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役)