鈴木氏はハワード・ストリンガー前会長が「四銃士」と命名した若手幹部の一人だ。スマホの拡大戦略を指揮してきたが、中国勢との競争に敗れ、期初に5000万台としていた世界販売目標を4300万台に下方修正した。14年9月中間期決算はスマホ事業の減損損失を計上したため営業損失は1747億円と、前年同期(214億円の黒字)から赤字に転落。15年3月期の営業損失も2040億円となる見込みだ。
平井氏はスマホをゲーム、イメージング(デジカメなど)と共に、コア3事業と位置付けてきた。だが、業績回復の兆しが見えないため、鈴木氏を事実上更迭し、十時氏を起用した。十時氏は入社以来、財務畑を歩き、ソニー銀行の設立を主導した人物だ。同社代表を経て、吉田氏が社長を務めたインターネット接続サービスのソネットで副社長などを歴任した。
13年12月、吉田氏と共に十時氏もソニー再建のために本社へ呼び戻された。ソニーの経営陣は通常、エレクトロニクス部門かエンタメ分野の出身者が占めることが多いが、両氏は高い財務能力を買われた。十時氏は経営企画や財務、新規事業の創出などを担当し、ソニーの構造改革と成長戦略の立案を任されている。
●平井氏と吉田氏の確執
だが、この人事についてソニー元役員は次のような見方を示す。
「平井氏が、吉田=十時体制を牽制する意図を持った人事。『あれこれオレを批判するなら、厳しいスマホ事業を立て直してみろ』と改革コンビの実力を試そうとしている」
実は平井氏と吉田氏の確執は一部ソニー関係者の間で取り沙汰されており、「『ビジネスの感度が鈍く、スマホ事情のダイナミズムに鈍感すぎたのではないか』と舌鋒鋭くスマホ事業を総括した吉田氏に対し、平井氏がカチンときたのです。また、平井氏には社内外からの信頼が高まっている吉田・十時コンビへのジェラシーもある」(同社関係者)ともいわれている。
外資系証券アナリストは「ソニーには2つの時代しか存在しない。吉田以前と吉田以後だ。十時氏がスマホ事業を立て直せば、平井社長は構造改革コンビに完敗となる」と口にするほど吉田氏の人気は高い。社内は平井氏よりも吉田・十時コンビの動きを見ている。「来年度、平井氏の退任は秒読みに入る」(同社関係者)とも囁かれる中、同社の行く末に注目が集まっている。
(文=編集部)