なぜ「働き方改革」は成功しないのか~クロスリバー社の調査から
2016年に日本政府が「働き方改革」を打ち出して以来、多くの企業で働き方改革の施策がなされてきた。しかし、その多くは失敗に終わっており、「成功した」という企業はなかなか見受けられない。
たとえば、残業をなくすために19時になるとオフィスの電気が消える。そして、強制的に退社させる。これでは、社員側からすればモチベーションは下がる一方だ。そこに「売り上げ目標アップ」と言われてしまえば、「どうすればいいの?」となるだろう。
企業と社員が求める働き方改革の目標が異なっている――そう指摘するのが、働き方改革の支援を行い、自ら週休3日の働き方を実現している、クロスリバー代表取締役社長の越川慎司氏である。
越川氏は、成長し続けたい会社の目的と長い人生で幸せを感じ続けたい社員側の目的にズレがあることを挙げ、社員本位による働き方改革の達成の仕方を、著書『働きアリからの脱出』(集英社)の中で提示する。
働き方改革が叫ばれている今、一人ひとりが働き方を変える環境が整ってきている。一部の会社では副業が解禁されたり、テレワークが導入されてどこでも仕事ができる環境が整えられたりしている。そうした環境を生かしつつ、自分の働き方を変えて、どんな時代においても求められる人材になるチャンスが転がっているのだ。
本連載「働きアリから脱出せよ!」第1回では、会社も個人も働き方改革に失敗してしまう理由を、越川氏が率いるクロスリバー社の調査から解き明かし、改革を成功させるために何が必要なのかを解説していく。
大事なのは「なぜ働き方改革をするか」
働き方改革の支援を行うクロスリバー社が500社以上にヒアリングを行ったところ、80%以上の企業が何かしらの働き方改革に取り組んでいるものの、「成功している」と答えたのは、そのうち12%だったという。
では、どうすれば改革が成功するのだろうか? そのポイントは「働き方改革を目指さない」ということだ。
働き方改革と聞いて、多くの経営陣は人事制度の整備や最新のクラウドや人工知能(AI)の導入などを考えるが、その目的が浸透されていない状況で実行されると、社員を苦しめてしまうことになる。
大事なのは「どう働き方改革をするか」ではなく、「なぜ働き方改革をするか」からスタートすること。そして、「会社の成長と社員の幸せを両立させること」だ。
いくら会社が成長しても、社員が幸せにならなければ、働き方改革は失敗に終わる。だからこそ、現場のメンバーから「やろう!」「変えよう!」と自発的に上がってくるようなプロジェクトのチーミングや環境づくりが必要になるのだ。
「社員の幸せはひとつではない」という前提
ただ、「社員の幸せ」といっても難しい。たとえば、労働時間が短くなり、家族との時間が増えることは幸せのひとつだし、給料が増えることも幸せのひとつだろう。一人ひとりが、それぞれの幸せ像を持っている。