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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

大ヒットの血液をサラサラにする新薬、米国で年3千件超の死亡例…評価論文に重大な誤り

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
大ヒットの血液をサラサラにする新薬、米国で年3千件超の死亡例…評価論文に重大な誤りの画像1「Gettyimages」より

 医療の世界では、「血液をサラサラにする」という触れ込みの薬が大ブームとなっています。しかし、その裏側に医師も知らない、とんでもない話が隠されていたことが明らかになりました。

 血液が何かのきっかけで心臓や血管の中で固まることがあります。この固まり(血栓)は、ときに血流に乗り脳の血管に詰まってしまいます。この状態が脳梗塞です。脳梗塞の発症を促すリスク因子がいくつか知られていて、そのひとつが心房細動と呼ばれる不整脈です。年齢とともに多くなり、60歳以上で2~4パーセントの人が罹っているとされているものです。

 脳梗塞のリスク因子を有する人たちに対して一般的に行われている予防法が、血栓ができないよう血液をサラサラにするという薬の服用です。昔から使われてきたのがワルファリンで、服用中は納豆を食べてはいけない薬としても知られています。ワルファリンは血液が固まる際に関与する物質(ビタミンK)の機能を止める働きをしているのですが、納豆にはそのビタミンKが大量に含まれていて、効果が帳消しになってしまうからです。また定期的に血液検査を行って、薬の量が適切かどうかをチェックしなければならないという不便さもありました。

 最近、ワルファリンに替わる新薬が相次いで開発されました。納豆を食べてもOKで、血液検査も不要という結構ずくめなのです。プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナなどの薬があります。互いに作用が似ていることから、まとめて直接経口抗凝固薬、通称DOAC(ドアック)と呼ばれています。

 ワルファリンもDOACも、ときには効きすぎて脳出血など重大な副作用が生じるという問題を抱えています。2009年、DOACのひとつが大規模調査を終え、ワルファリンと比較した評価結果が発表されました【注1】。それによると、脳梗塞を予防する効果はほぼ同じでしたが、副作用としての脳出血が新薬で明らかに少なかったというのです。

 この結果を受け、一連の薬は米国や日本などで発売が認可され、売れ筋ランキングの上位を占めるようになっています。

論文に重大な指摘

 ところが、この薬の発売直後から、「服用した患者に致命的な出血が起こり死亡」との報告が続々となされるようになりました。米国食品医薬品局(FDA)の集計によれば、ワルファリンについての米国での死亡例が年間1,106件であったのに対して、この新薬は3,781件にもなっていたそうです。製薬企業に対して次々に裁判が起こされ、その数が4,000件を超えました。受けて立った製薬企業は、総額650億円の和解金を支払うことで決着を図りましたが、自社の非を認めることはありませんでした。

 論文で発表されたデータと異なる出来事がなぜ起こってしまったのでしょうか。その謎は、ある論文によって解き明かされました【注2】。理由のひとつは、新薬とワルファリンを比べる際、「二重目隠し試験」の原則が守られていなかったということです。

 2つの薬の効果や副作用を比べる場合、錠剤の形状を揃え、どちらの薬を服用しているかを、患者に対しても、また医師に対しても二重に内緒にするのが原則です。この原則が守られないと、両者間に心理的影響の違いが生じる可能性があるからです。事実、この原則を守った調査と守らなかった調査で、同じ薬でありながら正反対の結果が出たという事例も過去にありました。

 この論文では、もうひとつ重大な指摘がなされました。やり玉に挙げられたのは、副作用としての脳出血が、新薬が0.5パーセントであったのに対して、ワルファリンのほうは1.5パーセントと3倍にもなっていた点です。しかしワルファリンは昔からあった薬ですから、さまざまな調査データも出揃っていて、脳出血の発生率はせいぜい0.28~0.45パーセントでしかないはずなのです。

 注1の論文で、なぜ1.5パーセントもの高い値になったのかを調べたところ、ワルファリンの血液検査がきちんと行われていなかったケースがたくさんあったことと、きちんと用量調整が行われた人たちだけを対象に分析をし直したところ、やはりワルファリンのほうで脳出血は明らかに少なくなっていたという、重大な誤りがわかったのです。

 その後に発表された最新論文では、やはり同じ目的で昔から使われてきたアスピリンに比べても新薬は劣っているか、あるいは差がないことが示されました。誤りを解き明かした研究者たちは、「ワルファリンの正しい使い方や副作用を人類が学ぶために50年もの歳月を要した」と述べています。新薬に踊らされている医師たちへの痛烈な批判でした。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献
【注1】Connolly SJ, et al., Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 361: 1139-1151, 2009.
【注2】Dabigatran for atrial fibrillation, why we can not rely on RE-LY, Therapeutics Initiative, The University of British Columbia, Jan-Mar 2011.
【注3】Huang WY, et al., Association of intracranial hemorrhage risk with non–vitamin K antagonist oral anticoagulant use vs aspirin use. a systematic review and meta-analysis. JAMA Neurol, Aug 13, doi: 10.1001, 2018.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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