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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

店員が大声で談笑のフィリピンのセブンが急成長…客も店員もギスギスする日本のコンビニ

文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer

なぜ客としての日本人は厳しいのか

 では、なぜ日本の経営者は、スタッフを厳しく管理するのだろうか。

 その理由としては、客の厳しさが挙げられるだろう。筆者は日本の大学に勤めていた頃、多くの留学生と交流があった。概ね真面目で人柄も良い学生が多かった。彼らの多くはコンビニでバイトしていたが、「コンビニで働いていると、日本人が嫌いになってしまう。なぜ日常の生活ではみんな優しいのに、客になると冷たくなってしまうのか?」といった趣旨の発言を聞くことが多かった。

 筆者もコンビニをはじめ、店における客のスタッフへの態度が酷いと感じることが少なくはない。たとえば、会計の際には概ね無言で、なかにはあからさまに「自分は客だ!」という態度をとる人をよく見かける。

 一方、欧米などでは、会計時に多くの客は当たり前のように「Thank you!」と声をかける。本来、客は店に対してお金を恵むわけではなく、単に自らが受けた商品やサービスに対して支払っているにすぎないため、客が当たり前のように「Thank you!」と声をかける社会のほうが理にかなっているように思われる。

 それでは、なぜ日本人は客の立場になると厳しくなってしまうのだろうか。戦後の貧困から奇跡的な経済成長を通じて急激に豊かになったという、ある種の成金気質のようなものが残っているからだろうか。もしくは、他者へのホスピタリティの重要性などを説くキリスト教のようなバックボーンがないからだろうか。

 これまでも、消費者としての日本人の厳しさはたびたび指摘されてきている。海外の大手メーカーのなかには、厳しい消費者が数多く存在する日本市場に最初に進出し、そこでのフィードバックを踏まえ、商品改良などを行い、国際市場に向けて本格的に参入していくというパターンも少なくない。また、厳しい客によって店が鍛えられ、サービスが向上していくというケースもしばしば指摘される。

 このように、厳しい客に対して肯定的に捉えられる場合が多いように思われるが、マイナスの側面にも注目する必要がある。たとえば、厳しい客により確かにサービスが向上する場合もあるだろうが、それに伴うコスト増を価格に転嫁できなければ、単に手間がかかるだけで生産性の低下という事態を招く。実際、製造業とは異なり、日本のサービス業の生産性が国際的にそれほど高くないことは、よく指摘される。

 また、良いサービスを提供するためには従業員満足度が重要となることは、多くの研究によって明らかになっているが、厳しい客に対応するための店側の管理体制やマニュアルにより、従業員満足度が大きく低下する場合も決して少なくはないだろう。

 会計時に「5000円札を切らしているため、1000円札でのお返しになります」などと、わざわざ店員が言わなければならない現代の日本社会に対し、大きな違和感を覚えるのは、果たして筆者だけだろうか。さらに、この先、「新券(ピン札)を切らしているため……」と断らなければならない事態にまでエスカレートするのではないか、と危惧する次第である。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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