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藤野光太郎「平成検証」改正水道法の急所(4)

安倍政権の水道民営化、運営企業の「利益」「株主配当」のために料金値上げも…改正法の罪

文=藤野光太郎/ジャーナリスト
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安倍政権の水道民営化、運営企業の「利益」「株主配当」のために料金値上げも…改正法の罪の画像1安倍晋三首相(写真:つのだよしお/アフロ)

4.改正水道法第14条第2項の1に追記挿入された文言の意味

 料金決定に関する根拠法は水道法第14条の「供給規定」だ。同条には「前項の供給規程は、次の各号に掲げる要件に適合するものでなければならない」と前置きし、旧水道法では同条第2項の1で次のように規定していた。

「料金が、能率的な経営の下における適正な原価に照らし公正妥当なものであること」

 この条文が、改正水道法では次のように変更されている。

「料金が、能率的な経営の下における適正な原価に照らし、健全な経営を確保することができる公正妥当なものであること」

 条文中の「能率的な」も「健全な」も、油断するとなんでもなさそうな常套句に読める。そのため、改正水道法を議論した国会質疑や報道のすべてがここを読み飛ばしてしまい、同法の急所は隠されたまま法案は強行採決された。条文を自ら精査せず、官僚の要点レクチャーだけで記事を書けば、当然、行政権力の掌で踊ることになる。

 良くも悪くも、法令の条文は句読点の位置まで周到に配置されているものだ。ましてや「用語」ともなればなおさらである。そもそも政府提出法案は、自分たちのバイブルである法律の条文を自らがつくるわけだから、それを実際に運用する官僚自身の解釈が最適解となるようにできている。

 ここで追記挿入された「健全な経営を確保することができる」とは何か。

 一般に「能率的な経営」とは「無駄のない経営」だが、「健全な経営」とは「堅実で危なげがない経営」という意味である。換言すれば、「無駄のない経営」は「コスト抑制の奨励」が目的、「堅実で危なげがない経営」は「利幅を広げた余裕の承認」が目的ということだ。

 水道コンセッション事業の運営権者にとって、この「余裕」となる利益の源泉が、前掲の「資産維持費」なるコストである。資産維持費の算式は、公益社団法人日本水道協会の「水道料金算定要領」に掲示されている。

資産維持費=対象資産×資産維持率

 資産維持率とは、施設設備の更新や再構築に要する費用を確保できる水準として割り出されたもので、08年の水道料金算定要領改定時に「標準3%」が設定されていた。

 公共の資産は適切に維持されねばならず、そのための財政措置を講じるのは当然だ。ところが、これまでは自治体の水道事業で改修費等を算入した資産維持費を総括原価計算に組み入れてこなかった例が多い。

 本連載の1回目で「将来の設備投資としてそのコスト試算を組み込んでこなかったのはなぜか」と問うたのはそのことだ。理由は、自治体が「水道条例の料金規定枠を広げれば議会で紛糾するだろうし、住民の反発を招けば選挙にも響くから」といった政治的思惑で腰が引け、行政者としての適時適切な条例改正を怠ってきたからである。

 そうであれば、水道コンセッション契約を進めようとする自治体の無責任ぶりが露呈する。これまで述べてきたように、管路改修が迫る今後の水道事業には莫大な費用が見込まれている。営利目的で名乗り出る民間企業(運営権者)が自治体に料金引き上げを迫らないはずはなく、長期契約でいずれ人材と運営ノウハウを失っていく自治体は交渉力も漸減し、運営権者の言いなりになりがちだ。

 何度も述べてきたように、自治体が自ら運営すれば利益なしの料金改定で済むにもかかわらず、営利優先で複数企業が山分けできるような儲けを料金に上乗せされる水道コンセッションへと踏み出すのであれば、そういう自治体は住民の将来を度外視していると批判されても仕方がないからだ。

5.料金高騰の水道条例を議会で通すための“公明正大”な論拠

 この上乗せ分をコストから計上する会計方法が、電気・ガス・水道など公共事業に許されている「総括原価方式」だ。算式の基本構造は、「営業費用+(支払利息+資産維持費)-営業収益」の額から給水収益を控除した額が、「料金合計」と等しくなるような仕組みである。同会計では「原価合計=料金合計」となる。

 電力会社はこの会計方式を駆使し、原子力発電のコストを算入することで得た莫大なカネで「安全神話」をつくりあげた。その結果、2011年3月11日に未曽有の巨大原発事故が勃発した。筆者は8年前、それが裏工作の渉外費・接待費や広告・宣伝費などを賄うための莫大な「事業報酬」を得るために総括原価方式を“悪用”した結果であることを記事で批判した。電気事業では来年、この会計方式が撤廃される。電力各社は新たなカネの源泉を捻り出そうと、この7~8年の間にその仕掛けを画策してきた。

 改正水道法の第14条に仕込まれた「健全な経営を確保する」との文言は、数年後に運営権者が「管路改修費等を資産維持費に算入して原価に組み入れた料金設定」を自治体に迫り、その水道条例を自治体が議会で通すための公明正大な法制度上の根拠となるに違いない。

 実は、これを論拠として算入されそうな「原価」が、まだある。たとえば、電気事業では「配当金等」が原価算入を認められてきた。ガス事業でも「株主配当等」が同じく算入され、料金が弾き出されてきた。水道コンセッションでも同じことがなされるはずだ。

 そうなれば、運営権者は自治体に、「健全な経営を確保する」ための新たな原価算入による新料金を迫り、自治体はその金額を勘案して料金上限を決め、その水道条例を議会に提出する。議会でも結局は条文の理屈に押されて反対質疑が尻すぼみになる。

 地方自治法を骨抜きにした「新PFI法」(PFI=プライベート・ファイナンス・イニシアティブ/民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)と、堂々と料金値上げができる改正水道法の「文言挿入」で、戦後日本が「国民の水道」として築き上げてきた「水質の安全性」「供給の安定性と公平性」「料金の適正性」の3つを失うことになりかねないのだ。

 改正法に反対した一部の野党も、権力の内側に堕ちて監視の嗅覚を失ったマスメディアも、このカラクリを見破れぬまま、その仕掛けに眩惑され続けたのである。

――以上が、改正水道法に仕込まれた法制度上のカラクリだ。

 ところで、読者にはこういう疑問が生じないだろうか。

「それでは、なぜ政府はここまでして企業を儲けさせたいのか?」

「そもそも、政府が優遇する民間企業とはなんなのか?」

「それは結局、誰を儲けさせるための企みなのか?」

 安全で廉価で安定した日本の水道を国民から奪おうとする人々は、果たして何をどうしようと計画しているのか。

 平成検証シリーズ第1弾「改正水道法」の最終回は、その奥の院に分け入って、彼らの描く「絵」を白日の下に晒す。
(文=藤野光太郎/ジャーナリスト)

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