傍受乱用の懸念
警察庁によると、通信傍受のための専用機はパソコン型の「特定電子計算機」。これまでは、通信会社の社員立ち合いのもとで、リアルタイムの傍受だけが許されていたが、この専用機では傍受内容を暗号化されたデータで送信でき、録音も可能となる。1台10億円程度と見られているが、今年6月1日時点で全国に141台あり、年度内に新たに47台増やす予定だ。
もちろん、警察の通信傍受の乱用を避けるため、傍受には裁判所による令状が必要となり、さらに、「専用パソコンは管区警察局において貸し出し、新設する傍受指導官を置いてチェックする。傍受指導官は適正な事件捜査を指導する刑事総務課などに所属する警部以上の中から指名する」(警察庁)としている。しかし、傍受指導官も警察官であり、“身内”。傍受にあたり、第三者のチェックがないのだから、どの程度の抑止力があるのかは甚だ疑問だ。
警察庁は、通信を傍受する場合には捜査員が通信事業者まで出向き、通信社員の立ち会いで行うという従来の方法では、迅速さに欠け、傍受できる犯罪も限られていたが、今回の改正で通信傍受が迅速に行えるようになったとしている。しかし、迅速に行えず、制限されていたことは、警察が通信傍受を乱用していなかったことの裏返しでもある。
別件捜査も可能に
問題はそれだけではない。通信傍受法の第14条では、別件捜査を認めている。通信の傍受中に傍受目的以外の別の犯罪の証拠を得た場合にも、傍受された内容が有効な証拠として裁判で取り扱えるのだ。
もちろん、犯罪に関与していない人にとっては、なんの問題もない。しかし、傍受対象となった人物とかかわりがある人は、電話やメールなどの通信内容が警察の監視下に置かれることになる。
現在はインターネットを通じて、会ったこともない見ず知らずの他人とかかわりを持てる。例えば、私たちがLINEやFacebookを通じて知り合った人物が傍受対象者となっていれば、私たちも監視されることになる。そして、その通信のなかに少しでも犯罪に該当しそうなものがあれば、それが警察の当初の傍受目的の犯罪とはかかわりがなくても、別件として捜査を行うことができるのだ。
法務省によると、18年に警察が通信傍受を行ったのは12の事件で、計82人を逮捕している。00年の通信傍受法施行からの累計では、傍受件数は145事件で逮捕者は計857人となっている。しかし、6月1日の改正法開始以降は、飛躍的に傍受件数が増加することが予想される。それは、個人のプライバシーが丸裸にされるということでもある。今、あなたの通信は警察によって傍受されているかもしれない。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)