2015年5月21日、東京労働局・受給調整事業部が突然、ある事業所へ調査に入った。
悪質なケースでは刑事告発も辞さない姿勢で、違法な派遣事業者を指導することで知られている同局が調査対象にしたのは、民間企業ではなかった。公的機関であり、なおかつ教育現場でもある、東京都立高校に設置された学校図書館だった。
いったい、学校図書館でどのような違法行為が行われたのだろうか。取材を進めてみると、意外な事実が次々と明らかになった。
学校図書館の民間委託について調べていた筆者は、事件の全容が詳細に書かれた文書を6月下旬に入手。そこからは、4年前に都立高校が民間委託していた学校図書館の運営において、「偽装請負」と呼ばれる違法行為を労働局から認定されたうえ是正指導までされていたことが判明した。関係者への取材によっても、その事実は確認できたのだが、なぜか当時、この件に関するメディア報道はなく、密かに闇に葬られたかのような不祥事だった。
都立高校では、11年度から学校図書館の運営を民間企業に委託する事業をスタート。15年には、すでに全体の約3分の1にあたる80校が学校図書館を民間企業に委託していたのだが、この日の調査は労務管理上の違反疑惑についてだった。
都側の報告書から、調査当日のやりとりを詳しくみていこう。
業務委託の実態
東京労働局の指導官2人が某都立高校を訪問したのは午後2時。資料提出は30分で終わり、2時30分からは都の関係者に対する事情聴取が始まった。出席者は、労働局側が指導官2名なのに対して、都側からは9名、うち2名が担当教諭である。
やりとりの詳細については、別記事を参照していただくとして、ポイントを解説したい。「委託範囲は?」「本の購入は?」「業務従事者の人数は?」など、指導官からの事実関係を確認する質問に都側は淡々と回答している。急に歯切れが悪くなったのは、請負会社スタッフと担当教諭とのミーティングに関する質問が出てきたあたりからである。該当部分を引用する。
労働局「ミーティングの目的は? こちらに報告されている議事録の内容を見ると、次回のミーティングの日程も決めているようだが」
都立高校担当者「学校担当では詳細な事までは確認できていない。このあと、司書教諭に確認してみる」
都側が少し慌てているかのような印象を受けるのは、回答次第では違法行為だと指弾されかねない質問だったからだ。
そもそも、学校図書館の運営が「業務委託」という契約ならば、仕様書に記載された範囲の業務について、具体的に誰がどのように進めるかは、受託者に完全に任されているはずだ。現場で、担当教諭が請負会社のスタッフと緊密に打ち合わせをしたり、あるいは担当教諭が直接、請負会社のスタッフに指示命令を出す行為は、固く禁じられている(労基法6条、職業安定法44条)。そうしたことが可能なのは、一定の要件を満たした事業者に許可されている労働者派遣業のみであって、無許可の「業務請負業」では許されていない。
そうでないと、なんのノウハウも持たず、自社で採用した労働者を他社に派遣して、その給料をピンハネして稼ぐ悪徳業者が巷に溢れかえるからだ。