偽装請負で違法な“派遣”が横行
正式な是正指導書は後日出されているが、都側の報告書に記載した「労働局の意見」の結論部分のみを抜き出してみる。都が労働局から“偽装請負”の疑いを指摘されたのは、以下の3点だった。
(1)「図書だより」では、校内決済により学校側が修正指示を出しており、受託会社の独立した業務とはいえない。
(2)従事者(請負会社のスタッフ)とのミーティングにおいても、司書教諭と連携しており、議事録のような書類を残していると、(それが学校側の)間接的な指示となっているととらえかねない。
(3)業務内容を変更できる者(請負会社の責任者)が現場にいて、従事者への指示命令が取れる体制があれば、発注者との調整は可能である。逆にいえば、本件では、責任者が現場にいないケースが多いため、合法的に高校側の依頼を伝えて調整したとはいいがたい。
請負会社のスタッフは、独立して発注された業務を完了させるべきで、現場で請負先社員と詳細な打ち合わせをしたり、その指揮命令の下で、業務の完成前に修正を求めたりしてはならない。しつこいようだが、それができるのは労働者派遣業だけだ。
ささいなことのようにも思われるが、この「偽装請負」こそが、今から13年前、キヤノンや松下電器産業(現パナソニック)など、名だたる国内製造業の現場で次々と違法行為として摘発されたときの罪状名である。
当時、朝日新聞が偽装請負追及キャンペーン報道を大々的に展開。翌2007年2月には国会に飛び火し、「労働行政の根幹にかかわる重大事」として、厚生労働大臣が野党から集中砲火を浴びたほどの問題である。
本来、都立高校の司書教諭が担当するべき学校図書館司書の担当業務を、民間企業に委託している実態は、調べれば調べるほど高校側の無責任さが浮き彫りになる。
委託会社のスタッフの待遇は、司書資格者であるにもかかわらず、ほぼ最低賃金水準。そのうえ委託自体が単年度契約のため、更新なしの1年ごとの有期雇用。期間満了時には、容易に“解雇”可能。現実に、受託会社が翌年度落札できなければ契約終了となる。勤務時間数は原則1人当たり週30時間未満で、社会保険も加入しないケースが多い。
東京都は、違法に“派遣”された労働者を使って、低コストで学校図書館を運営しつつ、雇用責任は取らない。当時、事業者は、ほぼ落札価格のみで決定され、委託会社のノウハウや現場で働くスタッフの雇用条件などは一切考慮されていなかった。
受託企業の顔触れをみると、図書館運営の専門企業は1社もなく、ビル管理業や清掃業など異業種から参入してきた事業者ばかり。そのためか、司書を仕様書通りに配置できずに、始末書を提出するという不祥事が後を絶たない。そんな惨状が報告書によって明らかになっている。
“雇用破壊”の象徴として論議を呼んだ“偽装請負”が、ついに学校図書館という教育現場まで波及していることに、教育関係者なら少なからぬ衝撃を受けるはずである。
それにもかかわらず、都立高校における偽装請負事件がほとんど報道されなかったのは、なぜなのか。この点については、次回詳しく紹介したい。
この事件は、不適切な民間委託による公務の極端な質の低下と、現場スタッフの劣悪な労働条件の問題をあぶり出しているといえる。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)