見逃しがちだが重要なのが、労働局指導官の「こちらに報告されている議事録の内容を見ると」という発言だ。一般的に、労働局がなんの証拠も持たずに突然、事業所に調査に入るとは考えづらい。このようなケースでは、内部告発者が資料を揃えて当局に提出していることも珍しくない。
今回のケースでも「こちらに報告されている議事録の内容を見ると」とした労働局は、議事録の現物を動かぬ証拠として、すでに持っていることを示唆している。手の内を明かしているわけだ。「今さら言い逃れしようとしてもムダだよ。こっちは全部つかんでいるんだから」とでも言いたげな雰囲気である。それに対して、都側は即答を避け「司書教諭に確認してみる」と留保しているのも興味深い。
このあと、労働局の指導官は、畳みかけるように都側の行為を追及している。ここでの注目ポイントは、「従事者とのミーティングの実施頻度は?」という質問に対して、都側が再度、司書教諭にヒアリングして回答した部分である。回答の要旨は、以下の通りである。
「業務委託者(請負業者)からの要望により、互いの意見程度の認識でしていた」
「生徒指導は司書教諭が行うため、生徒とのやりとりの確認や図書館の利用マナーについて報告等があった」
「出席者は、司書教諭と従事者の代表の2名」
「実施頻度は、行事前など多い時で1週間に1回、通常は月に1回程度で、時間は 15分程度。長い時は1時間程度と記憶している」
「従事者とのミーティング」の部分を正直に答えると、偽装請負と指摘されかねないという認識は、都側にもあったはずだ。だからこそ、「担当に確認する」として一度は回答を留保して、あとから慎重に回答しているのだろう。
また、「議事録」について聞かれると、「“メモ”のみで、(議事録は)作成していない」とし、そのメモも「提出されていない」と答えている。議事録の提出・保管については否定してはいるものの、「メモをした」ことは認めている。メモがあるのならば、それが実質的に議事録とみなされかねない。そのため「提出されていない」と答えた可能性もある。
そのほかに従事者との関わりがあるかを聞かれると、「『図書だより』の作成を毎月依頼し、内容を確認。校内決裁をするため、細かい修正等を依頼している」と回答。その際、司書教諭は「主に生徒指導や図書委員の活動、選書リストの確認等。選書リストは必要に応じて訂正等を依頼している」と説明した。
この「修正を依頼する」との発言が、業務責任者を介在しない現場レベルのやりとりだとしたら、「完成品を納入する」という業務請負業の範囲を完全に逸脱していることになる。つまり、もはや「請負」ではなく、無許可の「派遣」である。