
「600万円を全部出してくれるところは、れいわ新選組しかなかった」
こう言うのは、7月に行われた参議院議員選挙で、れいわ新選組から立候補して落選した渡辺てる子さんだ。
「600万円」とは、国政選挙の比例代表に立候補するときに必要となる、候補者1人当たりの供託金である。政党要件を満たさない団体が比例区で候補を立てるには10人以上立候補しなければならないので、供託金だけで6000万円以上かかる。
だから、新しい政治勢力や貧困層は事実上、選挙に立候補できない仕組みになっている。れいわの場合は、個人寄付を集め、個人では負担できない渡辺さんのような候補者の供託金に充当したということだ。
選挙後も講演活動を続けている渡辺さんに話を聞いた。
「私の立場を一言で表せば『当事者性』だと思います。シングルマザー、元派遣労働者、雇い止め経験者、ホームレス体験者……。今の国会議員には、これらの当事者性を持つ人がほとんどいません」(渡辺さん)
生活に苦しむ当事者を代弁する国会議員がほとんどいないなかで、庶民のための政治ができるわけがないだろう。
「シングルマザー、派遣労働者、ホームレスなどの状況は厳しいです。労働者全体の4割、女性に限っては7割が非正規雇用です。特にシングルマザーの8割は生活苦に陥っています。
このような状態のため、社会を変革するための市民運動内でも格差があると私は思っています。運動に参加するには、ある程度の経済的余裕がないとできません。そのため、私が言う『当事者たち』は、ほとんど参加できないのです。
選挙期間中に街頭演説をしていると、『私もシングルマザーなんです』と駆け寄ってくる人もいたし、『私たちの代表といえる人が立候補してくれた』と言う人たちが多かったです。また、『母がシングルで苦労したのを見てきました』と話しかけてくる若者もいました」(同)
それまでにない可能性を感じたからこそ、多くの人々が選挙ボランティアに参加した。その理由のひとつは、自分たちに近い人が立候補してくれた、という感覚だったと思われる。
そうであれば、渡辺さんの言うキーワード、すなわち「当事者性」が、今後ますます大切になっていくだろう。しかし、こうした「当事者」は、四面から壁が迫ってくるような圧迫感と苦しさ、生きづらさを感じている。
そういう人々が、どうやって自分たちが置かれた状況を社会に訴えて変えていけばいいのだろうか。