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田中圭太郎「現場からの視点」

チケットも格安設定…東京パラリンピック、全会場満員へ 魅力を目前で、想像超える体験

文=田中圭太郎/ジャーナリスト
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東京オリンピック・パラリンピック HP」より

 東京2020オリンピック・パラリンピックは、オリンピックに続いてパラリンピックも開催まで1年を切った。8月22日には観戦チケット抽選申し込みの受付が開始。大会1年前の8月25日にはカウンドダウンセレモニーも開かれた。

 パラリンピック本番では、各会場が満員の観客で埋めつくされる「フルスタジアム」の実現が期待されている。しかし、現時点ではどれだけ国内でパラリンピックへの理解が進んでいるのかは測りづらく、関係者はチケットの申し込み状況を期待と不安が入り混じった思いで注視している。

 パラリンピック開催の機運を盛り上げる取り組みは、ここ数年地道に行われてきた。そのなかで確実に理解が進んだ世代があるとすれば、それは子どもたちではないだろうか。パラリンピックがどのように浸透しているのか、現状をみてみたい。

究極の目標は「フルスタジアム」

 8月25日に大会1年前を迎え、東京都内では東京2020パラリンピック関連のイベントが相次いだ。パラリンピックのメダルのデザインが発表されたカウントダウンセレモニーのほか、23日から26日にかけてはパラスポーツが体験できる催しなどが都内各地で開かれた。

 これらのイベントの大きな目的は、8月22日から受付が始まったパラリンピックのチケットの販売につなげることにある。抽選申し込みの受付はインターネットのホームページで、9月9日の11時59分まで行われた。この間のアクセス数は約135万件。2425万件のアクセスがあったオリンピックの抽選申し込みに比べると、浸透度には差があると言える。

 開・閉会式のほか、車いすテニスや車いすバスケットなど、申し込みが殺到するとみられる競技もあるが、全体として事前にどれだけ販売枚数を伸ばせるのかはわからない。

 過去のパラリンピックで最もチケットが売れたのは2012年のロンドンパラリンピックで、278万枚が完売した。しかし、企業などが購入したものの、実際には埋まらなかった会場もあり、すべての競技会場が満員となる「フルスタジアム」とはならなかったといわれている。

 一方、2016年のリオデジャネイロパラリンピックでは、目標の250万枚に対して215万枚が売れた。これはロンドンに次ぐ枚数だが、当初は売れ行きが悪かった。オリンピックが盛り上がったことで、オリンピックが終了した直後に大幅にチケットが売れた、という状況だった。

 東京2020パラリンピックは2019年8月25日に開会式が行われ、翌日から12日間にわたって22競技540種目が21会場で実施される。出場する選手は史上最多の4400人が見込まれており、「フルスタジアム」が実現できるかどうかは、東京2020が過去最高の大会として歴史に残るかどうかを左右する。

認知度は上がっているが……

 パラリンピックのチケットの申し込みが、 最初からオリンピックのように最初の申し込みから、販売枚数を超える状況にならない理由は、日本ではこれまで障害者のスポーツを見たことがある人が、それほど多いとはいえない点にある。

 日本財団パラリンピックサポートセンターでは、一般社会でのパラリンピックに関する認知と関心について国内外で調査した。2016年のリオデジャネイロ大会の前後の変化を把握しようと、調査は2014年と2017年の2回にわたって行われた。

 認知についての質問では、日本でパラリンピックについて「内容を知っている」と答えたのは、2014年が77.1%、2017年が75.2%。リオデジャネイロ大会の後では微減だったが、認知度はドイツに次いで2番目に高い結果となった。

 ところが、パラリンピック以外の障害者のスポーツを直接観戦したことがあるかどうかの質問に対しては、2014年が4.7%。2017年はもっと低い3.8%だった。2017年の数字は調査した13カ国のなかで最も低く、2番目に低い韓国の8.8%の半分以下となっている。

 さらに、東京2020パラリンピックを直接観戦したいかどうかについては、2014年の15.4%に対し、2017年は17.6%。微増してはいるものの開催国、しかも史上初めて2回目のパラリンピックが開催される国にしては、かなり低い水準となっている。

 この調査以降も、認知自体は進んでいると考えられる。東京2020ではスポンサーになる場合、オリンピックとパラリンピックの両方を支援することを条件にした。オフィシャルパートナーやオフィシャルサポーターなどすべて合わせると、スポンサー企業は70社を超えている。テレビを見ていると、パラリンピックの選手が出演するコマーシャルが増えていると感じている人は多いだろう。

 一方で、テレビ番組で詳しく取り上げられることはまだそれほど多くはない。これは、パラリンピックの放送権を購入しているのがNHKだけで、民間放送が購入していないために、オリンピックに比べると露出が少ないことが背景にあるかもしれない。

 今回のチケット抽選申し込みの結果は、現時点でのパラリンピックの盛り上がりの状況を示している。それだけに、関係者は年明けに予定されている二次抽選申し込みや大会本番に向けて、盛り上げるためのさまざまな取り組みを進めていくだろう。

浸透しつつある「パラリンピック教育」

 では、日本人のすべての年代が、パラリンピックを観戦することに対して関心が薄いかというと、そうではないと感じている。小学生を中心とした10代以下の子どもたちは、それ以上の世代よりもパラリンピックやパラスポーツを理解しているのではないだろうか。

 その理由の一つに、「パラリンピック教育」がある。日本財団パラリンピックサポートセンターと日本障がい者スポーツ協会、日本パラリンピック委員会、ベネッセこども基金は、子どもたちにパラリンピックの魅力を伝えるための教材「I’m POSSIBLE」の日本版を共同開発した。

 これは、もともとアギトス財団が開発した国際パラリンピック委員会の公認教材。日本向けにアレンジした小学生版が、2017年4月に世界に先駆けて導入された。教材と教員用の授業ガイドは無料で配布されており、2019年5月には全国の小・中学校、高校、特別支援学校の合わせて約3万6000校に配布されるなど、教育現場で活用されている。

「I’m POSSIBLE」の名前に込められているのは不可能(impossible)だと思えたことも、少し考えて工夫することで可能になる(I’m possible)というメッセージ。教室で行う座学と、パラスポーツを体験する実技があり、多くの児童や生徒が、ボッチャなどのパラスポーツを体験している。

 パラリンピック教育以外にも、開催地の東京都や、競技が開催される自治体などでは、学校や地域でパラスポーツを体験できるイベントを開催して、パラリンピックの魅力を伝える取り組みが進められている。これまでにかなりの人数の児童や生徒が、何らかのパラスポーツを体験したことがあるのではないだろうか。車いすや義足を使うことの難しさや、パラアスリートの能力の高さを知ることで、ポジティブなイメージで障害者のスポーツをとらえているようだ。

 実際、イベントに訪れている子どもたちに話を聞くと、「パラリンピックを会場で見たい」という言葉が返ってくる。開催自治体の児童らは学校単位で観戦に行く機会がつくられる可能性が高いが、それ以外でも家族と一緒に会場に足を運ぼうと考えれば、チケットの販売にも結びつく。

 実際に家族全員で観戦しやすいようにと、組織委員会は「チケットの価格は国際大会としては格安」の設定にしていると話す。チケットが完売したロンドンでも、入場者の75%が家族連れだったという。「フルスタジアム」への鍵は、パラリンピックの魅力を知る子どもたちにあるといえそうだ。

 障害のある選手たちが魅せるハイレベルな競技力と、一人ひとりのドラマは、オリンピックとはまた違った魅力がある。すべての世代がパラリンピックを見ることで、障害がある人に対する日本の社会の考え方は大きく変わるはずだ。「パラリンピック教育」を受けていない世代も、子どもたちと一緒に会場に足を運んでみてはどうだろうか。

田中圭太郎/ジャーナリスト

田中圭太郎/ジャーナリスト

ジャーナリスト、ライター。1973年生まれ。大分県出身、東京都在住。97年、早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年からフリーランスとして独立。警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・2023年2月9日発売)、『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)。メールアドレスは keitarotanaka3000-news@yahoo co.jp、 HPはジャーナリスト 田中圭太郎のWEBサイト

Twitter:@k_taro_tanaka

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