新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)により、地球温暖化(気候変動)への関心が世界的に低下しているが、地球全体の気候に大きな影響を与えかねない異変が進行している。
今年に入ってからすでに100日以上、太陽の無黒点状態が続いているのだ。黒点とは、太陽表面を観測したときに黒い点のように見える部分のことを指す。この部分も光を放っているが、周囲より弱い光なので黒く見える。黒点は約11年の周期で増減を繰り返しているが、黒点が生じていないということは太陽の活動が低調であることを意味する。
現在は太陽の黒点活動の極小期にあたるが、それにしても足元で生じている無黒点状態は尋常ではない。昨年も77%にあたる281日間、黒点が発生しなかった。米国航空宇宙局(NASA)も、「ダルトン極小期と同じ状態になるのかもしれない」と懸念を表面している。
ダルトン極小期とは、1790年から1830年まで続いた太陽活動が弱かった期間のことである。他の多くの極小期と同じく、ダルトン極小期でも寒冷化の現象が見られ、世界の平均気温は0.1度低下したといわれている。特に1816年は火山の噴火も重なって、極めて寒冷となり、夏のない年となったという。
地球の気候に最も大きなインパクトを与えるのは太陽の活動であるが、地球温暖化問題に取り組んでいる科学者の間では、「太陽黒点の減少が地球環境に与える影響はほとんどない」という見解が一般的である。
地球の気温が2度低下なら大規模な飢饉の可能性も
太陽黒点と地球の気温との関係は置くとしても、2010年代に入り世界各地で異常気象による災害が相次いでいるのは確かである。日本では台風や大雨による被害が多発しているが、米国や欧州でも同様である。「地球温暖化が原因である」とする声も大きくなっているが、直近の自然災害が多発している直接の原因は「偏西風の蛇行」である。
偏西風とは、北緯または南緯30度から60度付近にかけての中緯度上空に見られる西寄りの風のことである。「ジェット気流」とも呼ばれ、天候を西から東に変える原動力となっているが、赤道と北極や南極の温度差が大きくなると南北に大きく蛇行するようになる。稀に起きるとされていた偏西風の蛇行が、このところ常態化しているのである。
偏西風の蛇行による異常気象の典型は、日本の夏に酷暑をもたらすダイポールモード現象である。ダイポールモード現象とは、インド洋熱帯域において初夏から晩秋にかけて東部で海水温が低くなり、西部で海水温が高くなる現象のことだが、エルニーニョ現象と同様に世界の気候に大きな影響を与えることが明らかになっている。
偏西風の蛇行が頻発しているのにもかかわらず、その原因はよくわかっていないが、熱圏の変化が影響しているとの説がある。熱圏とは地球の周りを取り囲む大気層の一つであり、地上から80kmから500kmの上空に存在する。この層に存在する窒素や酸素は、太陽からの紫外線によって解離して原子状になり、さらに電離してイオン化しているため、電離層とも呼ばれている。
この熱圏が最近薄くなっており、これに太陽の無黒点状態が関係しているのかもしれないという。活動が弱まっている太陽から地球に降り注ぐ紫外線の量が少なくなることから、大気中でイオン化する窒素や酸素が減少する。これにより熱圏が縮小するというわけである。素人の浅知惠かもしれないが、太陽の無黒点状態が偏西風の蛇行という現象を介して地球各地で異常気象をもたらす大元の原因かもしれない。
「現在の異常気象の常態化は、氷期に突入した兆しかもしれない」
このように指摘するのは、中川毅・立命館大学古気候学研究センター長である。温暖化が叫ばれる昨今であるが、地球の気候は氷河時代と、北極や南極を含めて地球上に氷床が存在しない温室時代を繰り返してきた。氷河時代はさらに寒冷な氷期と比較的温暖な間氷期に分かれており、私たちは約4900万年前に始まった新生代氷河時代の中で1万1600年前に始まった間氷期の下で生活している。
中川氏は、福井県の三方五湖の一つである水月湖に堆積する「年縞」、すなわち何万年も前の出来事を年輪のように1年刻みで記録した地層をもとに10万年以上のスケールで過去の気候変動を分析してきた。それによれば、間氷期は温かいだけではなく気温の変化が少なく安定しているのに対し、氷期は寒いだけでなく寒暖の差が激しく気候全体が不安定であることがわかってきていることから、中川氏は「最近の異常気象の多発は地球が氷期に逆戻りする証左ではないか」と感じたのである。
中川氏はさらに「人類が温室効果ガスを放出することで、次の氷期を先延ばしにしているのかもしれないが、過去の間氷期に長さから勘案すると、地球はいつ氷期に戻ってもおかしくない」と警告を発している。
「現在の太陽の無黒点状態が原因で、今後20年間、地球の気温を最大2度低下し、大規模な飢饉を起きる可能性がある」と警告を発する科学者も出てきている(5月15日付ZeroHedge)。地球の気候が、今後温暖化するのか、寒冷化するかは定かではないが、私たちはこれまでとは異なる厳しい気候環境の下で暮らしていくことになるのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)