中野サンプラザ跡地、再開発が白紙で廃墟化?新庁舎整備費に400億円の穴

東京・中野区の中野駅前にそびえたつ「中野サンプラザ」の跡地の再開発の工事費が、当初の想定を900億円以上も上回る見込みとなっていた問題。中野区は事業予定者に基本協定の解除を申し入れ、再開発計画を撤回し白紙に戻すことを決めたと報じられている。中野区はBusiness Journalの取材に対し「中野区としては、まだ説明はしておりません。明日(11日)の区議会常任委員会で方針を表明する予定です」という。中野区は中野サンプラザ跡地で施設を運営する事業者から約400億円の転出補償金を受け取り、それを昨年に移転させた新庁舎の整備費用などに充当させる予定だった。見込んでいた収入に穴が開く分を埋めるため、区は何らかの対応を行う必要がある。中野サンプラザは2023年に閉館しているが、再開発の工事が進まないと、使用されないまま廃墟と化してしまうのか。ディベロッパー関係者は「その可能性は考えられます。跡地の開発事業者が決まらない限りは、建物は解体されずに数年間そのままの状態ということになります」という。
中野区は2021年、中野区役所および中野サンプラザを含むJR中野駅新北口駅前エリアの拠点施設を整備する「NAKANOサンプラザシティ計画」を発表。収容人員最大7000人の大ホールやホテルを含む棟と、オフィスやマンション、商業施設を含む地上61階、高さ約250メートルの高層ビルで構成される施設が建設される予定だった。中野区は当初、この再開発の事業費を1810億円と見込んでいたが、昨年1月の時点で2639億円へと見直し。さらに9月には代表事業者である野村不動産から人件費や原料費の高騰を理由として、工事費が900億円以上増えると伝えられた。工事を請け負う清水建設が野村不動産に増額した見積もりを出し、野村不動産から区へその旨を連絡しつつ、予定していた24年度中の着工が困難との見方を示した。
すでに中野区は当初予定の2029年度内の完成の延期を決めていたが、今月に入り、中野区が事業予定者に対して基本協定の解除を申し入れることを決め、再開発計画が白紙になる見通しになったと報じられている。
中野区は、中野サンプラザに隣接する土地にあった区役所を新庁舎に移転させており、旧庁舎跡地と中野サンプラザの跡地に事業者がNAKANOサンプラザシティを整備する計画だった。旧庁舎の土地の地権者である中野区は、同施設が完成した際に、事業者から転出補償金として約400億円を受け取り、新庁舎整備費用などに充てる予定だった。もし仮に再開発事業が進まない場合、新庁舎の整備費をどのように調達するのか。Business Journalは中野区に問い合わせ中であり、回答があり次第、追記する。
運営して採算を取るということの難易度は高い
気になるのは、もし再開発計画が進まない場合、中野サンプラザはどうなってしまうのかという点だ。ディベロッパー関係者はいう。
「東京都内に限らず、地方でも運営事業者が破綻したり経営が悪化したり、跡地の再開発計画が決まらなかったりして、大規模な建物が数年間、閉鎖されたままの状態で廃墟化しているケースというのは起きています。ここ数年の建設費高騰がそれに拍車をかけている面もあります。中野サンプラザ跡地もいくら中野駅前という好立地とはいえ、ここまで建設費が高騰すると、なかなか手を出せる事業者というのも出にくいでしょう。建設費用を回収するためにはオフィスであれば賃料、マンションであれば販売価格を引き上げなければならないので、きちんと運営して採算を取るということの難易度は高まってきます」
当サイトは24年9月29日付記事『中野サンプラザ工事中止で廃墟化?工事費900億円上振れ、野村不動産が通告』でこの問題について報じていたが、以下に再掲載する。
※以下、固有名詞・時間表記・数字・肩書等は掲載当時のまま
――以下、再掲載(一部抜粋)――
中野区は当初、この再開発の事業費を1810億円と見込んでいたが、今年1月の時点で2639億円へと見直されていた。
それがさらに今月に入り、代表事業者である野村不動産から人件費や原料費の高騰を理由として、「工事費が900億円以上増える」と伝えられたという。工事を請け負う清水建設が野村不動産に増額した見積もりを出し、野村不動産から区へその旨を連絡しつつ、今年度中の着工についても困難との見方を示した。着工も完成も見通しが立たなくなり、事業自体を根本から見直さなければならなくなる可能性もある。
工事費が1.5倍に
建設の現場において、人件費や建築資材、燃料費等の高騰はここ数年、報じられ続けているが、これほど大幅に値上がりするものなのだろうか。不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏に聞いた。
――NAKANOサンプラザシティの事業費については何度も見直しされており、そのうえで2639億円とされていましたが、今回900億円以上も上振れしました。
「報道を見ると、2639億円から900億円と約30%の増額に思えますが、2639億円は『総事業費』で、今回900億円増額しているのは『工事費』です。従来の工事費は1845億円となっており、実際には約50%の増額です。2021年3月の企画提案時の資料と見比べると、2倍以上になっています。坪単価を時系列で追ってみると、企画提案時に134万円、22年12月に205万円へと見直され、今回の見直しで305万円となっています。つまり、当初計画から2.2倍になっているのです」(牧野氏)
――これほどの急激な値上がりは、異例でしょうか。それとも、ほかの現場でも同様なのでしょうか。
「各地で頻発しています。先ほど2022年12月に坪単価205万円として計画されていたと話しましたが、200万円程度では建てられないと思います。それどころか、その時点でもすでに安い金額だったと感じます。現在の計画を見る限り、坪300万円という見積もりは、おかしくはない金額です。今、建築資材が非常に高騰しており、ほとんどが輸入品ですので、円安の影響を受けています。また、人手不足で職人が集まらず、人件費が高騰しています。さらに、ウクライナ戦争やイスラエル紛争などでエネルギーコストも急激に上がっています」(同)
――今後も建築費は高止まり、もしくは上昇傾向が続くのでしょうか。
「続くでしょう。むしろ下がる要因が見当たりません」(同)
中野サンプラザは現状のまま放置か
――着工延期とのことですが、大幅な工事費増もしくは計画見直しが不可欠な状況ですね。
「事業者が野村不動産、東急不動産、住友商事、JR東日本、ヒューリックでしたが、今年4月にヒューリックは撤退しています。オフィス、マンション、ホテル、商業施設等が入る61階建てビルですが、(現行の中野サンプラザからの)容積率の割り増しで得た床を、事業者側が保留地として買い取る事業の仕組みかと思われます。このとき、工事費が上がると売却価格も上がるので、引き受ける予定のデベロッパー各社にしてみると厳しいのではないでしょうか。マンションを分譲する場合でも、オフィスを賃貸に出す場合でも、相場を大きく上回らなければならず、見込んでいた利回りを得られなくなります」(同)
――事業計画が進められないとなると、解体することもできず、現状のまま放置されることになるのでしょうか。
「その可能性が高いですね。これは中野に限った話ではなく、都内をはじめ全国各地で大型プロジェクトが止まるという現象が起きています。オフィスの賃料やマンションの販売価格が上がってくれば釣り合いは取れるのかもしれませんが、今のところは建築費だけが先行して上がっている状況で、事業の採算が合わないのです」(同)
――現在の計画では着工や完成の見込みが立たないということは、どこかしらの費用を削る必要に迫られるのは避けられないですね。
「規模を縮小するか、収益性の低い施設をやめるなど、大幅な見直しをしなければ建て替えは難しいですね。収益性が低いのは公共施設やホールということになるわけですが、区の権利があるので、これらをなくすことはできないでしょう。したがって、周辺の住宅価格やオフィス賃料などが大きく上がってこなければ、現状では事業の採算が合わないので、事業者としても動きたくないはずで、当面、計画を進めるのは難しいと考えられます」(同)
建築費が高騰しているのは全国どこでも同様だが、大規模な事業では上振れる金額が膨大になる。中野区のシンボルだった中野サンプラザが、解体もできずに廃墟のようにたたずむ状況は、長引かせてほしくないものである。
(文=Business Journal編集部)