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山口組組員たちの聖域「山口組総本部」に使用制限がかけられた意味【沖田臥竜コラム】

文=沖田臥竜/作家
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六代目山口組総本部の使用制限を受けて、荷物を運び出す組員たち

 五代目山口組時代、渡辺芳則組長宅があったことから「本家」と呼ばれていた現在の六代目山口組総本部。2005年に六代目体制が発足すると、司忍組長宅が名古屋にあることから、名古屋の司組長宅を「本家」。神戸市灘区にある六代目山口組総本部を「総本部」と呼び、使い分けるようになっていた。

 六代目山口組総本部とは、山口組組員にとって聖域にも等しい場所であった。たとえば刑務所の中でも、山口組系組員同士が会話する際、「自分は総本部に行ったことがある」と言えば、それだけで一目置かれる場所であったのだ。

 筆者自身、五代目体制時代、二十代で初めて「ガレージ当番」と呼ばれる総本部駐車場の守衛的任務で総本部に足を踏み入れた時には、「ここが本家か」と感慨深い感情を抱いたことを覚えている。その後、六代目体制に入ると、筆者が所属していた組織の親分のお供として何度も総本部に出入りするようになるのだが、行くたびに身の引き締まる思いを感じていた。自分がヤクザであることを、あらためて感じさせてくれる場所でもあったのだ。

 特に今でも鮮明に覚えているのは、我が親分が社会不在を余儀なくされたため、月に一度総本部で開催される定例会に、筆者が代理出席したときのことだ。定例会では冒頭に出席を取るのだが、その際、代理出席者は「代理です」と返事しなければならない。

「ええか。総本部は独自の雰囲気がある。それに飲まれないように大きな声で、返事せなあかんぞ」

 前日に心やすくしていたプラチナ(直参)の組長からそう助言されたのだが、確かに司組長をはじめとした全国の親分集が一堂に会する総本部の大広間は、全身がシビれるほどの独自の空気が支配していた。それは、六代目山口組総本部だけではない。神戸市花隈にある山健組本部にしても同様であった。筆者が在籍していた組織は、阪神ブロックに所属しており、当時同ブロック長を務めていたのが、現在の神戸山口組・井上邦雄組長であった。そのため、公用で井上組長が率いる山健組本部へと伺うことがたびたびあったのだが、山健組本部もまた、独自の緊張感がみなぎる空気であった。

モチベーションや求心力の低下につながる恐れも

 山口組組員にとって、そうした聖域であった場所が、10月11日から次から次へと使用制限を受け【参考記事「山口組の主要事務所が次々と使用禁止状態に」】、組員の立ち入りなどを禁止されたのである。だが、五代目体制当時からそういう危惧があったのは確かだ。

「五代目体制当時、今後、住民票を置いている、つまり住居として使用していると認められる組員しか本家に出入りできなくなる可能性があるとして、当時の総本部長、岸本才三組長(初代岸本組組長)と毛利善長組長(毛利組組長/現・神戸山口組本部長)、それに初代岸本組本部長らが、そうした事態に備えて、本家に住民票を置くかどうか検討したことがあったといわれている。今回もそうした事態には備えていたとは思われるが、実際に総本部を使用できなくなるのと、将来的に使用できなくなる可能性があるのとでは、状況的にも心理的にもまったく違うのではないか」(元二次団体幹部)

 確かに今回の使用制限は、組員たちのモチベーションや求心力の低下につながる恐れがある。当局サイドは、11日以降も、弘道会事務所などほかの施設にも使用制限をかけており、さらに両組織を、より厳しく組員たちの活動を規制できる、特定抗争指定暴力団に認定することまで視野に入れているのではないかとみられている。

「最終的には警察庁判断になりますが、現在の両組織の対立を抗争の激化として捉えれば、特定指定をかけるでしょう。現に髙山清司若頭(六代目山口組若頭)の出所が迫り、対立が激しくなってきていたのは確かです。そしていよいよ、今月18日には髙山若頭が出所してくる。分裂騒動に終止符を打つべく、各組織の動き出すことも考えられていたわけで、それに対して当局がより強い規制をかけたとしてもおかしくはないでしょう」(犯罪事情に詳しい専門家)

 六代目山口組の分裂は、髙山若頭の社会不在中に起きている。それだけの影響力を持つ髙山若頭が出所してくるのだ。上記の専門家が指摘するように、当局が法的規制を駆使してでも、六代目山口組、神戸山口組の両組織の対立を封じ込める動きを見せたとしてもおかしくない。任侠山口組も含めて、分裂騒動は三つ巴の戦いといわれてきたが、そこに警察当局が強大な権力を振るって介入したことによって、事態は大きく動こうとしている。
(文=沖田臥竜/作家)

沖田臥竜/作家

沖田臥竜/作家

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

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