元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きなホテルは「宿泊税のかかるホテル」です。
税務調査を受けて、良いことなどひとつもありません。ごくまれに「税務調査がきっかけで税金が返ってきた」「ずっと誤魔化し続けていたから、正直に話すことができてよかった」などと言う人がいますが、時間を取られ、税理士さんに立会料を払い、追徴課税されて「よかった」ということはないでしょう。
しかし、税務調査によって、今まで気づかなかった社内の不正が明らかになることがあります。
社員がリベートを受け取っていた場合、会社の収入になる?
仙台のあるホテルに税務調査が入りました。その調査で調査担当者は、ホテルに食材を納入していた業者が、副総支配人Aにリベートを渡している事実を把握しました。
食材納入時に、Aはリベートを上乗せした価格で取引するよう業者に指示し、後日、リベート分を自分たちにバックさせていました。その総額は、8000万円に上ります。
このお金について、調査担当者はホテルの収入にすべきとしましたが、ホテル側は、あくまでA個人が勝手にやったものであるとして認めませんでした。
ホテルは修正申告をせず、これに対し税務署は更正(編注:税務署が税金の金額を決めること)し、不正があると認定して重加算税を賦課しました。さらに、ホテルは青色申告も取り消されてしまいます。
ホテルは更正されたあと、納税を済ませ、税務署と国税不服審判所に異議申し立てを行いましたが、どちらも棄却されたため、裁判で決着をつけることになりました。
国税側は、8000万円は、A個人が受け取る金額としては著しく高額であるため、リベートは食材の納入業者がホテルとの取引を継続するために支払われたものにほかならない。さらに、ホテルは過去にリベート授受の慣行を認識していながら、それを禁止する具体的な防止策を講じず、Aらのリベート受領を示唆する告発文書があっても表面的な調査にとどめ、解雇はせずに依願退職させた。加えて、Aに「おまえらも何か悪いことをやってんだろう」と、黙認するかのような発言をしていた。このため、リベートはホテルの収入とすべきであると主張しました。
Aは、リベートで受け取った金銭のうち3割は、部下との食事会やホテルの備品購入に使用していました。個人的に費消していた事実もありますが、危険を冒してリベートを受け取りつつも、ホテルのために使用していたのです。こうなると「リベートはホテルの収入である」という国税側の主張に論拠があるように思えます。
また、税法は「代表者の知らない間に従業員によって隠ぺい又は仮装行為が行われたとしても、原則として、法人自身が隠ぺい又は仮装行為を行ったものとして重加算税を賦課することができる」としています。
一般的に、横領などの不法行為が認められる場合、従業員が着服していた金銭は法人の益金に算入し、法人は損害賠償請求権を取得するとされているのです。
これらの事実があるので、調査担当者は更正し、国税不服審判所は異議を棄却したのかもしれません。
裁判所は逆転の判断
しかし、仙台地裁は、リベートはホテルに帰属するものではないとして、ホテル側の請求を認めました。
リベートがホテルに帰属するか否かの判断に当たっては、Aを単なる名義人として、実質的にはホテルがリベートを受領しているのかどうかを検討しなければいけません。
食材の仕入れには入札制度が設けられ、Aには食材の発注権限はなかったそうです。発注権限がないのに、リベートを請求できる立場であったことは解せませんが、裁判所はこの点を重要視しました。
さらに、Aは人目につかないような場所でリベートを受け取っていました。この事実は、あくまで、A個人が受け取ったものであるという主張の根拠のひとつとなりました。
これらにより、Aはホテルに代わる単なる名義人ではなく、リベートはホテルに帰属するものとは認められないとされました。
また、このときホテルは経営が悪化しており、リベートの分だけ仕入れを過大に計上するような必要も余裕もなかったようです。
税務調査によって、従業員の不正が明らかになるのは良いことですが、横領した金額を会社の収入にしろと言われても、容易に受け入れられません。さらに、調査に納得がいかなかったときに不服申し立てをする行政機関が、正しく判断してくれるとは限りません。
棄却されてもあきらめず、裁判で自らの正しさを主張しなければいけないのです。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)