税務署が“間違って”重加算税を賦課!税務調査では粘り強く潔白を主張することが重要!
元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな切手は「小切手」です。
税務調査を受けた人に会ったとき、ぼくが必ず確認するのは、追徴課税の金額と重加算税の有無です。どのくらいの金額を支払い、さらに、そこに不正があったかどうかを確認することで、その人の性格や納税に対する意識がわかります。たとえば、立場は同じ「社長」でも、法人会に所属している人と元不良では、回答の仕方がまったく異なります。
さて、税務調査で重加算税を賦課されることがありますが、それが必ずしも正しいとは限りません。条件は「仮装・隠蔽」とされていますが、本当にそれらがあったのか、仮装・隠蔽とはなんなのか、よく確認する必要があります。
隠蔽したとして重加算税を賦課
税務調査を受けたAさんは、奥さんとふたりで雑貨販売の会社を経営しています。調査担当者が請求書の控えの綴りを確認すると、60万円ほど売上が漏れていました。
A「いつも振込で決済しているんですが、この取引は小切手だったんです。それで、帳簿に載せるのを忘れてしまいました」
調査担当者「どうして小切手にしたんですか?売上を除外するために、小切手で決済するように取引先に要求したのではないですか?」
妻「そんなことしません。私が小切手を現金化し、それを入金するのを忘れただけです」
A「それに、小切手にしてほしいと、こちらからは頼んでいません!」
Aさんの話が事実か確認するため、調査担当者は取引先に反面調査を行いました。
取引先社長「3年ほど前ですかね。Aさんと取引していましたね。小切手には、相手方から頼まれなければ、裏判を押すことはありませんね」
小切手に裏判を押すのは、現金化する際の利便性が目的で、小切手をもらう人のためです。盗難などのリスクを考えれば、支払う側が自発的に行うことはあまりありません。
Aさんは事前連絡をして小切手を受け取りに来ており、その翌日に妻が換金していました。そのとき、Aさんが裏判も頼んだのでしょう。銀行振込でなければ、売上に計上しなかったとしても、一見した限りではわからないことを認識していた可能性があります。
調査担当者は、これらを踏まえて、売上を計上しなかったことは単なるミスではなく、意図的に計上しなかった、つまり「隠蔽があった」と認定し、重加算税を賦課しました。
ずさんな反面調査の実態
Aさんは、これを不服として申し立てることにしました。すると、新たな事実がわかったのです。
Aさんと取引先社長は面識がなく、取引を担当していた担当者は、別の役員でした。取引先社長は、取引の内容がよくわからないため、反面調査に対して、一般的な話をしたにすぎなかったようです。
取引先社長「3年以上も前の取引だし、Aさんとは継続的に取引があったわけではないので覚えていません。取引の決済方法も覚えていないんです。Aさんとの取引は、私か役員Xのどちらかがやり取りをしていたと思います」
役員X「担当者は社長ではなく、私です。この取引は、Aさんとの最後の取引だと思います。確か、Aさんから支払いがないとの連絡があったので、『請求書がまだですよ』と伝えました。その後、請求書を受け取ったので小切手で支払いました。小切手で決済したのには理由があります。当社では、銀行振込による決済を毎月、同じ日にまとめて行っています。Aさんからの請求書が遅れたので、振込時期からずれて処理が手間だったので小切手で支払いました」
Aさんの会社は、奥さんとふたりで営む小さい法人です。すべての業務をふたりで行っており、経理が後回しになることも多々あります。繁忙から小切手の処理を失念したことが売上計上漏れの原因であり、仮装・隠ぺいによるものではないことが明らかになりました。
A「意図的に小切手の売上額を計上していないなら、その請求書を請求書綴りに入れることはあり得ないじゃないですか」
調査の時点では行われなかった取引先役員への反面調査と、Aさんの話をあらためて聞いたことで真実が明らかになり、重加算税の賦課は違法とされました。
もちろん、過少申告加算税はかかりましたが、Aさんの主張が認められたことで過少申告加算税と重加算税の差額が、Aさんに還付されることになりました。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)