食品業界のなかでも好調をキープしているのがアイスクリーム業界。日本アイスクリーム協会によると、2018年度のアイス販売金額は、メーカー出荷ベースで5186億円(前年比1.4%増)となっており、市場規模は7年連続で拡大したという。
その要因について、マーケティングコンサルタントで『儲かっている会社はいま何を考えどう行動しようとしているのか』(実務教育出版)などの著書を持つ新井庸志氏は、こう分析する。
「近年の気候変動ともいえる猛暑による需要増はもちろん、コンビニエンスストアで売られているプライべートブランドを含む各種アイスのクオリティが高くなっていることが挙げられるでしょう」(新井氏)
市場規模を引き上げている立役者こそコンビニアイスというわけだが、では専門店はどうなのか。店舗型アイスクリームチェーンの代表といえるバスキン・ロビンス31アイスクリーム(以下、サーティワン)の運営会社、B-R サーティワンアイスクリームは2015年に40年ぶりに最終赤字となり、以下、徐々に店舗数は減少。19年12月期第3四半期決算も純利益0.1%減となっている。
コンビニアイスのクオリティが上がったことで、コンビニに客を奪われてしまったということなのだろうか?
コンビニのコーヒーやドーナツは専門チェーン店に影響なし
これまでもコンビニ業界は、オリジナルでクオリティの高いコーヒーやドーナツを販売しているが、カフェチェーンやドーナツチェーンの客を奪ったという話はあまり耳にしない。
「例えば、セブン-イレブンが『セブンカフェ』や『セブンドーナツ』などを独自展開しましたが、専門チェーンへ影響を与えたわけではありません。コンビニは専門店からシェアを奪う意図でこういった展開をするのではなく、いかにコンビニに足を運んでもらうか、そして客単価を上げさせるかしか考えていないのです。コンビニで買い物をするついでにコーヒーを買ってもらえて、さらにそれにドーナツをつけてくれれば単価は数百円アップしますからね。
スターバックス コーヒーやドトールコーヒーなどのカフェチェーンや、ミスタードーナツなどのドーナツチェーンは空間提供業の側面もあるので、コンビニでコーヒーや軽食をすます層とはターゲットがそもそも異なるのです。ですから、セブンカフェが定着してもカフェチェーンの売上は下がっていませんし、セブンドーナツの売り場が縮小したのも、ミスタードーナツに負けたわけではなく、ドーナツ業界自体がへこんでいることの要因が大きいのです」(新井氏)
確かに、コンビニコーヒーは好調だがスターバックスやドトールは苦境に陥っていないし、一時期セブン-イレブンなどが力を入れていたコンビニドーナツは売り場が縮小したため、ミスタードーナツへの影響も少なかったのだろう。
サーティワンもコンビニに客を奪われているわけではない
では、サーティワンがコンビニアイスに顧客が奪われているというわけではないのだろうか。
「サーティワンは売上的には前年比を少し割っていますが、19年12月期通期見通しは前年比100.0%。今年の9月度には同月最高売上を記録しているので、そこまで調子が悪いとは感じません。ですから、コーヒーやドーナツでもそうでしたが、コンビニアイスはアイスクリーム市場を拡大しているだけで、サーティワンの顧客を奪っているわけではないと考えたほうがいいでしょう。前提としてサーティワンとコンビニアイスは価格帯も違いますから、ターゲットとして求めている層も違うのです。
サーティワンが40年ぶりの最終赤字となった2015年は、定番のフレーバーをなくした余波があったりプロモーション面がうまくいっていなかったり、一時的に魅力度が下がってしまったのは否めませんでした。ただ、それ以降はインスタ映えを意識したり、『ポケットモンスター』などとのコラボキャンペーンを展開したりと、うまくやっているように感じます」(新井氏)
サーティワンは新たな金脈を掘り当てる攻めの姿勢も必要
いずれにしても、いくらコンビニが他業界の商品ラインナップを充実させようとも、店舗型チェーンへの影響は少ない模様。特にアイスクリーム市場の場合、サーティワンは寡占状態のためむしろ堅調な分野と見ることもできる。しかし、改善点がないかといえばそうではないと新井氏はいう。
「サーティワンは、アイスクリームはいいとしてシャーベットの売上がガクンと落ちているのが気になります。シャーベット自体への需要が低くなっている時代なのかもしれませんが、同じく寡占状態でチェーン展開するミスタードーナツを運営するダスキンも、ハウス食品とコラボした『ドーナツカレー』(期間限定、現在は終了)やパスタなどの主食をラインナップに加えた『ミスドゴハン』、そして『タピオカドリンク』などを打ち出し、ドーナツ以外の商品にも力を入れています。サーティワンもこのようなメイン以外のジャンルをうまく売り出す姿勢を見習うべきしょう。メニューにエンターテインメント性を持たせることで話題にもなりますし、若年層の新規顧客も獲得できるはずです」(新井氏)
コンビニが商品を多角化しても自分たちの強みがどこにあるかをしっかり自覚すること、そしてメイン商品の堅調さに満足せずにさまざまなアプローチで顧客の気を惹くことが、サーティワンなどの専門チェーンにこれから求められることといえそうだ。
(取材・文=A4studio)