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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

今後、都心で安くて優良な中古マンション・戸建てが増える…“新築信仰”の終焉

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
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「Getty Images」より

 今年に入って新築マンションマーケットが冴えない。不動産経済研究所の調査によれば2019年上半期首都圏(1都3県)におけるマンション供給戸数は1万3436戸に留まり、対前年同期比で13.3%の減少となった。契約率も販売好不調の分水嶺と言われる70%を大きく下回る66.5%に落ち込んでいる。

 原因について一般的に言われているのが、マンション価格の高騰である。同時期の平均販売価格は6137万円。販売単価は1平方メートルあたり90万7000円である。景気の先行きに不透明感が漂う昨今、新築マンションは一般庶民にはやや手が届かない「高嶺の花」となっていることが顧客をマンション販売現場から遠ざけているとの声は大きい。

 だが一方で、今年は10月より消費税率がアップした。政府はごく最近まで実際に税率を上げるのやら据え置くのやら煮え切らない態度をとり続けたこともあるが、消費税率アップに対する影響の高いマンション販売については、一定の駆け込み需要を期待する声があった。だが、今回については消費税率アップ前の駆け込み需要について、マンションマーケットでは完全にスルーされた。

 前回2014年4月の消費税率アップの際はマンションマーケットでは大きな「駆け込み需要」が発生した。新築建物については通常建物完成引き渡し時点における税率が適用されるのだが、経過措置として2013年9月末までに売買契約を締結した物件に限っては消費税率を旧税率で扱うこととされたために、「青田売り」が主体のマンションマーケットでは大量の駆け込み需要が発生したことは記憶に新しい。

 実際に2013年9月のデータをみると、その影響は明らかだ。同じく不動産経済研究所のデータによれば、同月の首都圏におけるマンション供給戸数は5970戸。対前年同月比で77.4%の増加。契約率も83.6%と対前年同月比14.2ポイントの上昇を記録した。

 販売好調は当時からブームが芽生え始めていたタワーマンションに顕著で、タワーマンション(20階建て以上のマンション)の供給戸数は1949戸、対前年同月比で810.7%もの驚異的な伸びを示したのだ。消費税はマンションの場合、建物のみに課税されるため、タワーマンションは販売価格に占める建物の比率が通常のマンションが70%程度であるのに対して80%から90%と高いことも駆け込み需要に弾みをつけたと言えそうだ。

新築マンション販売状況は惨憺たる状況

 今回も同様に経過措置は実施された。10月の税率アップに備えて今年3月末までの契約物件については旧税率の8%が適用されるというものだ。それでは2019年3月の状況をみてみよう。

 同じく首都圏の供給戸数は3337戸。対前年同月比で7.7%の減少。契約率も72.2%で前年同月比2.5ポイントの減少である。13年9月とは対照的な結果である。

 前回の駆け込み需要では、翌年に反動減が起こり、供給戸数が20%も減少して年間供給戸数が5万戸を割る状況に陥った教訓から、今回、国は一定の激変緩和措置を設定した。具体的には、消費税率引き上げ後は両親や祖父母からの無税の贈与枠を700万円から2500万円に、省エネ住宅では最大で3000万円まで広げる「大盤振る舞い」を実施したのだ。また、住宅ローン控除を毎年最大40万円で10年間認めていたものを、3年延長して13年とした。

 贈与枠の拡大は各家庭のお財布事情もあるので効果は限定的だが、ローン控除は40万円の3カ月分120万円が「お得」になる。仮に6000万円のマンションを購入した場合、建物比率を70%とすると4800万円に対する消費税率の2%アップ分は96万円。差し引きで24万円得という計算になる。

 こうした措置が好感されて駆け込み需要が起こらなかったと考えたいところだが、いかがだろうか。経過措置が過ぎた19年4月以降も新築マンション販売状況は惨憺たるものだ。19年4月の供給戸数は1421戸、対前年同月比で39.3%もの減少、契約率も64.3%。タワーマンション供給はわずかに130戸という寂しい内容に終わった。このままでは今年の年間供給戸数は昨年より大幅に減少して3万5000戸を切るのではないかという声も聞かれ始めた。

中古住宅の成約件数、過去最高に

 では、顧客の間で住宅購入に関する興味が失われているのかといえば、実はそうではない。東日本不動産流通機構の調査によれば、19年上半期の首都圏における中古住宅の成約件数は1万9947件、対前年同期比で3.8%増となったが、この数値は90年5月に同機構が調査を開始して以来の過去最高値となっている。新築マンションの供給戸数が同時期で1万3436戸、契約率66.5%だから、もはや首都圏では新築マンションよりも中古住宅のほうがよく売れているという現象になっていることがわかる。

 実は中古住宅取引の場合、3つの利点がある。ひとつには中古住宅は建物がすでに竣工しているので契約引き渡しが即日で可能であること。2つには中古住宅は一定期間を経過して建物が減価償却して価値が下がっているので、消費税が課税される建物比率が小さくできること。そして3つには売主が個人であれば取引にあたってそもそも消費税が課税されないことである。

 特に注目すべきは3つめの個人間売買では消費税が課税されない点である。新築マンションと同じ6000万円の建物価格の中古マンションを買う場合に8%で480万円、10%にアップ後なら600万円もの消費税を負担せずにすむのである。税金のペイバックに惑わされて高額のローン返済を強いられるよりも、初めから消費税分を節約できる中古住宅のほうがはるかに「お得」という結論になるわけだ。

 幸い首都圏の住宅マーケットは十分に成熟している。以前のような「住宅難民」の言葉も聞かれなくなり、住宅は新築にさえこだわらなければ選択肢は多岐にわたるようになってきた。

 これからは東京都内でも大量の相続が発生することが見込まれている。団塊世代以上の世代の多くが都内の大田区や世田谷区、杉並区などで戸建てやマンションを保有し、居住している。これらのエリアでは今後、時の経過とともに相続が順次発生することは自明だ。相続人の多くが親の家を賃貸や売却に拠出することが十分に期待できる。これらの物件を取得するのに原則消費税はかからない。

 マンションデベロッパーは今、都内でマンション建設用地の確保がままならず、戦線を郊外や地方に移しているが、これからの住宅購入者にとっては何も彼らにお付き合いして、あまり立地のよろしくない郊外の物件を高い消費税まで負担して購入せずとも、相続発生でマーケットに出てくる優良な中古マンションや戸建てを購入するチャンスは今後いくらでもでてくるのである。

 新築マンション業界の思惑とは異なり、意外と消費者は世の中の動向を良く観察しているのかもしれない。これまで日本人は中古よりも新築住宅を好む特性があると言われたが、どうやらこの「新築信仰」が都市伝説となる日も近いようだ。

(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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