医療費負担、75歳以上も2割に引き上げ…「現役並み所得」判定の公平性維持難しく
昨年12月19日、全世代型社会保障検討会議の中間報告が発表された。同会議は、同年9月に設置されたもので、持続可能な「全世代型」社会保障の在り方について検討が重ねられていたのだ。
今回の中間発表に盛り込まれたのは、75歳以上の医療費負担の見直しなど、医療・年金・労働等について「生涯現役」を後押しする政策が中心となっている。予定では、2020年中に改革法案を国会に提出。可決すれば、団塊の世代が75歳になり始める2022年度以降、一定の所得がある75歳以上の医療費負担が「1割」から「2割」に引き上げられ、高齢者の経済的負担は確実に増す。
今回の中間報告を踏まえ、近年の公的医療保険(以下、医療保険)の改正の流れを整理しながら、前編・後編に分けて、今後の医療費負担の行く末と対策を考えてみたい。
社会保障制度改革の中間報告の内容は?
まず、中間報告に盛り込まれたのはどのような点なのか。主な改革の内容は、以下の通りである(図表1参照)。
このうち大きな焦点とされたのが、医療に関する改革案である。75歳以上の後期高齢者について、病院の窓口で支払う自己負担割合の引き上げが明示されている。そもそも公的医療制度の医療費は、年齢や所得によって自己負担割合が異なる(図表2参照)。
現行制度では、69歳未満の現役世代は「3割」なのに対し、原則として、70~74歳は「2割」、75歳以上は「1割」である。だがすでに70歳以上でも、「現役並み所得」世帯は3割負担だ。改革案が実施されれば、75歳以上の後期高齢者も、現役並み所得がなくとも、年金収入などが一定以上ある場合は「2割」負担となる。具体的な施行時期や所得基準などは、厚生労働省が検討を行う。
なお、70~74歳について「1割」から「2割」に引き上げられた際、改正後も、予算を投入し実施が凍結されていた。本来なら、2006(平成18)年改正によって、2008(平成20)年4月から「2割」に引き上げられるはずだったのだ。それが特例措置により2014(平成26)年3月まで1割に据え置かれていた。
しかし、これによって70~74歳の負担が前後の世代に比べ低くなるという状況が生じたため、同年4月以降、新たに70歳に達する人から2割とし、すでに70歳になっている人は1割に据え置かれた。国としては、70歳から「2割」に慣れている高齢者であれば、75歳以降も負担が変わらない状況を受け入れやすいのでは、という狙いもあるのだろう。
75歳以上は約7%が対象!「現役並み所得」とは?
では、この「現役並み所得」とは、どの程度の収入がある場合を指すのか?
現役並み所得の判定基準は、国民健康保険・後期高齢者医療制度のいずれも、原則として課税所得(年金収入-年金控除(120万円)-所得控除(基礎控除など))が145万円以上ある人が該当する。同一世帯の配偶者(妻)も現役並み所得者に含まれる。
しかし、この基準だと、70~74歳の被保険者について、その被扶養者が後期高齢者医療制度の被保険者となることで、扶養から外れ、収入が変わらないにもかかわらず、現役並み所得者と判定されてしまうケースが出てくる。
そこで、2009(平成21)年1月から、判定基準が変更となり、被扶養者であった人との年収の合計が520万円に満たない旨を保険者に申請すれば、現役並み所得者とは判定されず1割負担となる措置が設けられている(なお、単身世帯は383万円未満)。
厚生労働省の資料によると、後期高齢者医療制度の被保険者のうち現役並み所得に該当するのは約7%。ただ、同省では、現役世代の平均的な年収(夫婦2人世帯)を386万円としている。となると、現在の判定基準では、現役世代よりも収入のある高齢者の自己負担割合が低くなってしまう。まさに、こちらを立てれば、あちらが立たず状態だ。
筆者の私見では、相対的に現役世代よりも高齢者のほうが医療機関を受診する頻度は多いだろうし、何でもかんでも現役並み所得だから負担も等しくというのはどうかとも思う。とはいえ、今の現役世代(とくに40代~50代)は、収入も伸び悩み、子どもの教育費や住宅ローン返済の二大支出を抱え、老後のための貯蓄すらままならない。日々の生活をヤリクリするのが精一杯で、経済的余力のない、いわゆる“金融資産ゼロ世帯”が増加しているのも現実だ。
いずれにせよ、今後、改革案で提示された2割の所得の線引きに合わせて、現在の現役並み所得の判定基準も見直される可能性もあるだろう。基準の内容を注視していきたい。
続いて後編では、高齢者医療制度の変遷と対応策についてご紹介する。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)