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木下隆之「クルマ激辛定食」

販売員がいない米テスラの車をネットでポチッと買ってみた…数年間一切連絡なく、ある日突然連絡が…

文=木下隆之/レーシングドライバー
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テスラ「モデル3」(「Wikipedia」より)

 米テスラの販売手法は、これまでのスタイルを大きく覆す。例外なき慣習としてきた輸入代理店網を省略し、販売員を置かず、営業もしない。手厚い歓待で客をエスコートすることはない。そもそも広告もなく、ましてダイレクトメール(DM)でのアプローチさえもしないのだ。

 さらに驚くことに、試乗車もない。試乗車がないから、購入を考えている客は走り味を試す機会がないまま、1000万円を超えようというクルマを買うことになるのだ。

 テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、EV(電気自動車)を「走るスマホ」と考えている。それゆえにクルマの概念をことごとくぶち破り、その商法はスマホを売るがごとき単純なものとなっているのだ。だが、スマホでも販売員はいるし、販売代理店もある。

 そもそも「モデル3」のコクピットにはタブレット以外に表示するものはなく、操作系も最低限必要なものに限定されている。ステアリングやアクセルペダルは組み込まれているものの、オーディオや空調といった、本来あるべきスイッチ類は省略され、すべてタブレット型のタッチ画面で操作するのである。

 発進するためのイグニッションキーもボタンもない。スマートキーを持ったドライバーがモデル3に近づくと自動で解錠され、シートに座ればいつしか電源が入る。ギアをセレクトすれば、あとはアクセルを踏み込むだけなのだ。ゴルフ場の電動カートに近い。そしてクルマから離れれば、自動で施錠される。これほどにクルマとしてのスタイルを変えてしまった。スマホよりも自動化が進んでいるのだ。

 それは販売スタイルも同様で、これまで馴れ親しんできた売り方を徹底的に否定する。というのも、実際に私はモデル3を先行予約している。まだ生産態勢が整わず、それどころかクルマの開発も完了していなかった数年前に、インターネット経由で申し込み、カード決済した。通販で雑誌を買うような気軽さで、高額な自動車を購入したのである。

 だが、それから数年間、一切の連絡がなかった。高額なクルマを予約したのに、確認の連絡はなかった。DMはもちろんのこと、クリスマスカードすら届かなかった。

 生産態勢の進捗状態を知るためには、自らつてを頼って懇意にしている関係者に連絡をとるしかなかった。連絡のないまま数年待たされたあげく、日本でモデル3のデリバリーが開始されたことを知ったのは、テスラからの直接連絡ではなく、ネットニュースの報道からなのである。てっきり販売店から案内が届くのだろうと期待していたから驚いた。

「お待たせいたしました」の言葉もなく、ようやく案内がきたのは今年1月。すでに日本のユーザーにデリバリーが開始されているとネットで知ってから数カ月たっている。

徹底的にコスト削減し価格抑制

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テスラ「モデル3」(「Wikipedia」より)

 テスラが販売手法をここまで変えてきたのには理由がある。販売代理店を経由するリスクや、販売員の営業コストを省略し販売価格を抑えるためだと、公式にはいわれている。

 一般的な商流は、メーカーが輸入代理店にクルマを卸し、その時点でメーカーは資金を回収が完了する。販売代理店は、メーカーから購入したクルマをユーザーに販売しなければ資金を回収できない。そのタイムラグがコストとなる。テスラは、そのコストを嫌い、直接お客に販売する手法を採用したのだ。しかも先行予約で、15万円の手付金を要求して、である。

 ユーザーと密接な販売店もなければDMやクリスマスカードを贈る販売員もいない。すべてをアマゾンで書籍を買うような販売手法としたのには、そんな裏がある。

 これが新時代の販売手法なのかと思う。クルマさえシェアリングやサブスクリプションの対象となる時代である。ネットでポチッと購入する時代になっても不思議ではない。だがその一方で、マイカーを所有し、愛車として接してきた昭和のクルマ好きには淋しさが漂う。

 日本人にとってクルマは財産に等しい大きな買い物だから、販売員と深い付き合いをし、人間的な信頼関係を築いてから契約書に押印するという段取りを求める。クルマのEV化は、そんな販売方法も変えてしまうというのか。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

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