
市場参加者の間で、ソフトバンクグループの事業戦略に対する懸念が高まりつつある。株主のなかには、ソフトバンクに自社株買いによる株主価値の向上や、投資の意思決定を監督する委員会の設置などを求める者もいる。
その背景の一つとして、ソフトバンクが出資した米国のシェアオフィス大手、ウィーワークを運営するウィーカンパニー(ウィー社)が上場を断念し、損失が発生した影響は大きい。昨年7~9月期、この損失が響きソフトバンクの連結決算は約7000億円の最終赤字となった。
示唆されることは、ソフトバンクに成長を急ぎすぎた部分があることだろう。同時に、長期的に考えると、先端分野に投資し成長を目指す同社会長兼社長の孫正義氏の発想には、重要かつ有効と考えられる部分もある。孫氏のように成長を目指して大胆かつ迅速に意思決定を下すことのできる企業家も多くはない。
現在、新型コロナウイルスによる新型肺炎の感染拡大など、世界経済のリスクは増えつつある。同社には、強力なリーダーシップを発揮すると同時にリスク管理の体制を整え、さらなる成果を実現することが求められる。
先端分野への投資を重視するソフトバンク
近年、ソフトバンクは投資会社としての性格を強めてきた。具体的に同社は、10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を設定し、先端テクノロジーの開発や、それを用いたエコシステムの拡大を目指す企業への出資や買収を行っている。背景には、人工知能(AI)などの実用化によって、新しい人々の生き方を創出し、付加価値を生み出すことができるとの期待がある。その考えに基づき、世界各国でAIやブロックチェーン、量子コンピューターなどの開発が急速に進んでいる。これは企業だけでなく、国家をも巻き込む競争だ。2018年以降、米中の貿易摩擦が熾烈化した要因の一つには、IT先端分野における大国同士の覇権争いがある。
私たちの日常生活を振り返ると、先端テクノロジーを実用化する企業の影響力がよくわかるだろう。端的に、新しいIT機器、関連サービスの登場は、常識を覆す。たとえば、アマゾンなどのEC(電子商取引)のプラットフォーマーの登場により、好きな時に、好きなところで、必要なモノを買うことができる。それは、IoT(モノのインターネット化)などの技術を用いた物流革命といえる。
また、SNSのテクノロジーを活かすことでシェアリングエコノミー(特定のモノを複数人で共有すること)も普及した。カーシェアやライドシェアなどはその例だ。シェアリングエコノミーは、特定のモノに対する所有権を独占するよりも、そのときどきのニーズに応じて幅広いモノやサービスを利用する権利にアクセスすることを重視する人々の価値観を反映した、新しい経済活動といえる。