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木村誠「20年代、大学新時代」

高等教育無償化、専門学校の約4割が対象外…本当に支援が必要な学生は“置き去り”に?

文=木村誠/教育ジャーナリスト
高等教育無償化、専門学校の約4割が対象外…本当に支援が必要な学生は置き去りに?の画像1
「gettyimages」より

 この4月から、大学や短大、高等専門学校(4、5年制)、専門学校といった高等教育機関を対象とする無償化が始まる。4人家族の例で、年収約380万円未満の低所得世帯の学生を中心に、高等教育機関の授業料や入学金などを実質的に減免(無償化)する新制度だ。

 この無償化は、「授業料や入学金の減免」と大学生活費をまかなう「返済不要の給付型奨学金の支給」の2本柱である。4人世帯の目安で年収約270万円以下の住民税非課税世帯は、授業料減免と給付型奨学金の金額の上限まで利用できる。また、約300万円もひとつのボーダーになっている(図表参照)。

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「高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針の概要」(文部科学省)より

 対象は新入生だけでなく、在学生も利用できるが、成績などの具体的条件は次回に詳しくレポートしたい。今回は、高等教育機関はすべて無償化の対象になるわけではないので、その条件についてアプローチしたい。

無償化の対象になるための4つの要件

 文部科学省などが提示した無償化の対象となる大学などの要件は、次の通りだ。

(1)実務経験のある教員による授業科目が標準単位数(4年制大学の場合、124単位)の1割以上、配置されていること。ただし、学問分野の特性などにより満たすことができない学部などについては、やむを得ない理由や、実践的教育の充実に向けた取組を説明・公表することが必要。

(2)法人の「理事」に産業界などの外部人材を複数任命していること。

(3)授業計画(シラバス)の作成、GPAなどの成績評価の客観的指標の設定、卒業の認定に関する方針の策定などにより、厳格かつ適正な成績管理を実施・公表していること。

(4)法令に則り、貸借対照表、損益計算書その他の財務諸表などの情報や、定員充足状況や進学・就職の状況など教育活動に係る情報を開示していること。

 この要件のうち、当初は特に(1)や(2)の実務家教員の授業割合と外部理事に産業人などを複数登用することが大学側の反発を呼んだ。自主性を貴ぶ大学教育にとって、不当な介入というのだ。

 この無償化プランが2017年に公表された後、毎日新聞が全国の国立大学にアンケートしたところ、回答した72大学のうち、賛成10%、反対72%、その他18%であった。また、私立大学団体からも批判が出た。伝統と校風を軽視し、大学の自治を揺るがすというのである。

「実務家教員と外部理事の登用」の是非

「実務家教員と外部理事の登用」は、文科省が何かにつけて大学側に注文をつけるときのキーワードである。20年からスタートした専門職大学でも実務家教員は重要要件とされているが、文科省がその明確な定義を示すことができていないといわれる。

 現状でも、大学の理工系学部に取材に行くと、名刺の裏に以前勤めていた企業名が書かれていることが多い。大学のホームページの教員紹介でも同様だ。学科によっては実務家教員が相当数を占め、最近では実務家教員養成をうたう学校まで登場している。実務経験がないポスドク(博士研究員)が、うまく実務家教員にカモフラージュする方法なども噂されている。現状では、実務家教員が大学の実践的教育にどれだけ寄与しているのか、学部学科を超えて客観的な共通理解があるとは思えない。

 また、学校法人の外部理事に産業人を登用するという条件にも同じことが言える。過去、政府の教育関連会議などで民間企業の産業人が主張したと言われる法科大学院制度による法曹人口増や大学院の拡充施策は、実現して間もなく行き詰まり、見直しを迫られた。ともに、大学院に進学する学生の将来の活路整備を軽視したためだ。産業人は経済や企業の視点を優先させ、学生たちのことを真剣に考えていないとしか思えない。

私立大は866校が無償化の対象に

 結果的に、要件の確認が済んで無償化の対象となった大学(短大も含む)の割合(19年12月20日時点)は非常に高かった。合格したのは、国立82校(100%)、公立106校(100%)、私立866校(100%)となっている。ただ、私立大学の場合は897校あり、31校が未申請だ。そのため、要件の確認割合は未申請を含めると96.5%となっている。

 前述の(4)にかかわる、経営に問題のある大学に関しては、次のような確認要件であるが、比較的客観的である。

(1)法人の貸借対照表の「運用資産-外部負債」が直近の決算でマイナス

(2)法人の事業活動収支計算書の「経常収支差額」が直近の3年間の決算で連続マイナス

(3)直近3年間で連続して収容定員充足率が8割を切っている

 この、いずれにも該当する場合は適用しない。すなわち、債務(負債)超過で3年間赤字で収容定員充足率が8割未満という高等教育機関である。

 こういうと、8割未満の定員割れの私立大はけっこうあるはずだ、という声もありそうだが、この3条件に当てはまる大学は意外と少ない。定員割れについても、収容定員の減員申請をして充足率の分母を少なくし、充足率を上げるという離れ業もある。

専門学校の約4割が無償化の対象外

 忘れてはならないのは、専門学校に進学する生徒だ。全国で2713校ある専門学校(高等専門学校は除く)に関しては、申請が1696校、要件確認校が1689校と確認された比率は高いものの、未申請を含めると全体の62.3%にすぎない。残りの37.7%の専門学校に入学した学生は、たとえ年収の条件が当てはまったとしても、無償化の恩恵を受けられないのだ。

 専門学校の生徒というと、一般的に学力的に大学に行けない生徒というイメージで語られるが、なかには家計が厳しいので短期間で職業能力を身につけたい、という生徒も少なくない。そのような生徒こそ、無償化の対象にふさわしいのではなかろうか。

 現在、私立専門学校(高等専門学校を除く)の在学者数は約57万4000人である。未確認の専門学校は比較的小さな学校であろうが、地方では地元の国公立大に合格できない受験生は、地元には希望する私立大が少ないため、近くの専門学校を選ぶ傾向もある。その場合、志望の対象が無償化から外れた専門学校というケースもあり得る。

 この専門学校における38%弱の要件未確認校の存在は、将来的に高校生が進学先を選ぶ上でも大きなトラブルの元になると思う。

(文=木村誠/教育ジャーナリスト)

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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