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陸上自衛隊の実践能力を支える「富士トレーニングセンター」とは

新刊JP
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※画像はイメージ(新刊JPより)。

 有事の時に、国民や国土を守る自衛隊。しかし、当然ながら自衛隊には実戦経験がない。「自衛隊ってどのくらい強いの?」という疑問を持つのが自然だろう。


 この疑問を考える一つのヒントが自衛隊の訓練にある。

 

■陸上自衛隊の連隊が壊滅させられた「訓練」


 ひと口に「国を守る」といっても、必要とされる能力は多岐にわたる。他国からのミサイル攻撃から国土を守るには精度の高い防空システムが必要だし、万が一他国の部隊が日本の市街地に侵入した場合を想定して接近戦での戦闘能力も磨き上げなければいけない。仮に他国の部隊に国内のある場所を占拠されたとしたら、その場所を奪還するために、その場所に侵入し、相手を攻撃する能力も必要だろう。


 陸上自衛隊第40普通科連隊長を務めた経験を持つ二見龍氏は、著書『自衛隊最強の部隊へ-戦法開発・模擬戦闘編: 敵の戦闘重心を打ち砕く”勝つため”の戦い方』(誠文堂新光社刊)で、陸上自衛隊がこれまでどのように「実戦」での戦闘能力を高めてきたかを明かしている。


 かつての陸上自衛隊の実戦での戦闘能力が端的に表れているのが、富士駐屯地にある「富士トレーニングセンター(以下、FTC)」での訓練だ。FTCには全国の駐屯地の普通科連隊と戦う相手役として「評価支援隊」という部隊があり、各地の普通科連隊はより実戦に近い訓練を行うことができるという。


 「より実戦に近い」というのは、裏返せば普段の訓練は実戦とは遠いということでもある。二見氏によると、陸自の普段の訓練で重視されるのは「指揮官が自分の部隊を自由自在に動かせたか、あるいは隊員は苦しい状況の中、頑張っているかどうか」。実戦で必要とされる相手部隊の情報収集などは重視されない。その結果、指揮官は形や体裁を整えることを重視してしまい、訓練はあらかじめシナリオが決まっている「劇」のようになりがちだったという。


 こうした訓練に慣れている部隊がFTCの「評価支援部隊」と戦うとどうなるか。


 訓練は各部隊がFTC「評価支援部隊」の陣地に接近し、攻撃を仕掛けるという想定で行われた。空砲の射撃とともにビームが発射され、命中すると損耗が付与される交戦装置を使って行われるのだが、ほぼすべての部隊が短時間で壊滅させられていたという。


 作戦活動で必要なはずの「敵についての情報収集」が、普段の訓練ではなおざりにされているため、その役目を担う「斥候」が鍛えられていないのに加え、「シナリオ通り」の訓練に慣れすぎて、不慮の事態に対応する力が養われていなかった。陸自の各部隊は、自分たちの手口を熟知している相手に対して、ほとんど無力であり、部隊が相手からの攻撃で混乱した時に戦局を立て直す術がなかったのだ。


 ただ、陸自の中にはこうした現状に危機感を持つ面々もいた。


 彼らは各所で連携して「どの部隊が一番強いか」を決める戦闘競技大会を企画した。これが陸自にとってのターニングポイントになったようだ。各部隊が、陸自の教範から離れて、「勝つための戦法」をそれぞれに研究する土壌が育っていった。


 たとえば、第一回の大会では、ほとんどのチームは陸自の教範にある「戦力の集中」という原則に基づいた作戦を決行したが、その原則の逆をついて、敵部隊を包囲するように各隊員を分散させたある部隊の作戦行動に歯が立たず、敗れ去った。


 その結果を分析し、この部隊の作戦を打ち破るための議論と訓練が行われた結果、次の大会ではより優れた部隊が現れた。こうして、実戦的な訓練を通して、教範にこだわらない「本当の強さ」を追求するようになっていったのだ。



 本書では、形式的な訓練から脱し、本物の戦闘で生きる能力を身につけることに目覚めた陸自の取り組みが、元自衛官の手で明かされている。自分たちの課題をどう発見し、対処していくか。または、勝てる戦術をどう組み上げていくかという点で、陸自の取り組みはビジネスとも共通するところがある。多くの人にとって気づきがある一冊だ。
(新刊JP編集部)


※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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