「老後に家賃収入」「貯金ゼロでも買える」に踊らされ…マンション投資で自己破産も
「老後には2000万円必要」という金融庁の報告書で不安になった人たちは、今もさまよい続けている。私のメールボックスにも、金融機関や投資会社から「人生100年時代」「老後破産」「不動産投資は効率良く資産を増やせる」「不労所得」とタイトルがついたセミナーの案内が次々に届く。「ああ、こういうセミナーに行く人たちが危ない投資商品を買ってしまうのか」と心が痛む。
20代がワンルームマンションで自己破産するまで
賃貸不動産オーナー向けの無料雑誌「Uchicomi Times」(Vol.24)の記事に、「投資用ワンルームマンションを買った人が、ローンが返せなくなるケースが増えている」とあった。20~30代の会社員が自己資金ゼロで家を買い、投資で毎月発生する赤字分を給料から払えなくなり、債務の任意整理や自己破産に至るケースがあるという。なぜ、このような事態が起こるのか。そのプロセスを推理すると、以下のようになる。
1. 20~30代でも老後が不安になり、マネーセミナーに行く。
2. 「ワンルームマンションを買うと老後に家賃収入ができて安心」と聞く。
3. 「すごくいい物件がある。あなたの収入でも十分買える」と勧められる。
4. 家賃収入やローン返済のシミュレーションを見て、これならいけそうだと思う。
5. 貯金がないため、勧められるまま100%ローンで買う。
6. 購入には、マンション代金以外に100万円ほどかかるので、この分もローンを借りる。
7. 家賃収入よりローン返済が大きいので、毎月数万円のマイナスになる。
8. 固定資産税など、予定していなかった支出も発生して驚く。
9. もともと貯金がなかったため、毎月数万円の持ち出しにたえられず赤字になる。
10.しばらくカードローンでしのぐが、すぐ限度額いっぱいになり、借りられなくなる。
11.住宅ローンもカードローンも返済できなくなる。
12.自己破産せざるを得なくなる。
では、こうしたひどい目に合わずに、不動産投資で老後に備える正しい方法を考えてみよう。
1.ローン100%はだめ。必ず頭金を入れる。20%以上が目安。
2.退職までにローンを払い終える。
3.業者から買わず、オーナーチェンジ物件を市場で買う。
4.自分が住みたい、我が子を住ませたい物件を選ぶ。
5.管理はしっかりチェック。
100%ローンはだめ
株式、外貨、不動産。どんな投資にも共通するのは、ローンを借りての投資はリスクが大きくなるということ。投資の王道は「負えないリスクは取らない」こと。このセオリーは不動産投資でも常識だ。ところが、「ワンルームマンション投資は100%ローンが常識」と考える人が増えている。ここ5年ほどの現象で、昔から不動産投資にかかわっている人たちは驚いている。
2000万円のワンルームの例で見てみよう。わかりやすくするために単純化するため、あくまで参考としてとらえてほしい。
例:価格: 2000万円 購入時の諸費用:100万円
家賃:月8万円(年96万円) 毎年の経費:18万円
・ケース1:現金で買う → 年78万円のプラス
年96万円の家賃収入から18万円の経費を引いて、年78万円の収入。投資額2100万円に対する利回りは3.7%。定期預金に預けても0.1%の利息しかつかないから、はるかに有利。年78万円の賃貸収入が老後にあれば確かに心強い。
・ケース2:頭金30%(600万円)で買う → 年16万円のプラス
頭金600万円と諸費用100万円で、現金投資額は700万円。1400万円のローン(2%・30年)の返済額は年62万円。
家賃収入96万円 - 経費18 万円 - ローン返済62万円 = 16万円
年16万円のプラス。700万円を預金しても利息は1万円もつかないから、ずっと有利だ。
・ケース3:100%ローンで買う → 年15万円の赤字!
2000万円のマンションを自己資金ゼロで買うと、諸経費100万円を加えてローンは2100万円。年間の返済額は93万円に。
家賃収入96万円 - 経費18 万円 - ローン返済93万円 =-15万円
年15万円の赤字になる。
ここで「年15万円くらいのマイナスなら払えるさ」と考えるのは甘い、危険だ。思わぬ出費、予想していなかった減収、けがや病気、家族の事故。お金が回らなくなるきっかけは人生にいくらでもある。
コロナウィルスによる影響でも、残業代やボーナスがカットされ、収入が減る人たちが増えている。毎年持ち出しになる投資ははとても危険だ。
【ルール1:必ず頭金を入れる】
マンションを買う時、「貯金がないから頭金ゼロ」というのは危ない。今まで貯金ができなかった現実は、マンションを買っても変わらない。毎月の赤字分が積み上がり、カードローンの金利分で雪だるまのように膨らんでいく。老後に備えようと始めた投資が、20~30代の生活を破壊してしまう。老後どころではなくなる。
繰り返すが、いちばん大切なルールはこれ。現金収支がプラスになるだけの頭金を入れる。自己資金の目安は、物件価格の20~30%。物件の利回り、ローンの金利や期間によって少しずつ違ってくる。2000万円の物件を買うなら最低400万円の現金を準備したい。
不安が強いとリスクを過小評価してしまうから注意
不安が強いほど買いたい気持ちが高まる。買いたい気持ちが強いと、リスクを過小評価してしまう。マンション販売業者ではなく、専門の第三者、独立系のFPに相談することをお勧めする。
頭金を入れるべき理由はもうひとつある。いろんな理由で、10年以上は持つはずだった物件を3年や1年で売ることになるかもしれない。人生はいろいろあるから。2000万円(+諸費用100万円)で買った物件を1年後に売ろうとしたら、売値が1700万円というのはよくある。1年後のローンはまだ2040万円ほど残っているので、売ると340万円+各種手数料計70万円として400万円超の持ち出しに。この分を現金で用意しなくてはいけない。でも貯金はない。どうする。どこからか借りられなければ、身動きがとれなくなる。
毎月のマイナスで生活を圧迫されないためにも、万一、早目に売ることになったときのためにも、頭金を入れるのは必須なのだ。
20~30代では頭金を出せないことが多いので、私のところへFP相談に来る方には不動産投資は勧めていない(相続などでまとまった現金が入った場合は例外)。とすると、投資できるのは、40代以降で手持ちの現金に余裕がある人となるが、ここで次の注意事項。ローンは退職までに返し終えること。45歳で30年ローンで買うと、ローンの返済終了は75歳になる。年金生活になる65歳から、老後資金の足しにしたいのなら間に合わない。しかし、売主は毎月の負担(ローン返済額)を小さく見せたいので、30年ローンや35年ローンで勧めてくることが多い。
2000万円のマンションをローン1600万円で買う時、30年ローンと20年ローンでは返済額が年71万円、年97万円となる(金利2%)。先の通り、家賃収入が年96万円、経費が年18万円とすると、30年ローンなら年7万円の黒字、20年だと年19万円の赤字。長いローンのほうが目先は楽だが、65歳から74歳までの10年間、前者はマンションからの収入がほぼゼロ、後者は年78万円のプラスと運命が別れる。以上は家賃収入が変わらなかった場合だが、実際には建物が古くなるにつれ家賃も下がることが多い。
「老後のための資産づくりに」「老後資金の足しに」と考えるなら、65歳までに返済を終えるプランにすることが絶対だ。
勧められるままでなく、自分で資金計画を
今回解説した「頭金を入れる」「65歳までにローンを払い終える」という投資の基本は、投資物件を勧める業者から提案されることはまずない。貯金がない人、収入が低い人にできるだけ高額の物件を買ってもらうためには、頭金なしで最長ローンで販売するほうがいい。
物件を勧めるのもローンを提案するのもプロ。立ち向かう会社員投資家、あなたは素人。まず勉強し、その上で第三者専門家の助けを借りないと、自分に合う投資をすることは難しい。でも難しいからこそ、学び、調べ、アドバイスを受け、投資をする価値がある。
次回は、「業者から買わずオーナーチェンジ物件を市場で買う」「自分が住みたい、我が子を住ませたい物件を選ぶ」「管理はしっかりチェック」という項目について解説しよう。
(文=中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー)
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