新型コロナウイルスのパンデミックの下、日本に食糧危機が迫ってきている。各国において大規模な移動制限と物流混乱が起こり、食料輸出国において自国の食料確保を優先するために食料の輸出制限措置が広がっている。その動きは、小麦ではロシア、カザフスタン、ウクライナ、インド、米ではインド、ベトナム、カンボジアなどにおよんでいる。4月1日には、FAO(国際連合食糧農業機関)、WHO(世界保健機関)、WTO(世界貿易機関)の事務局長が連名で、「食料品の入手可能性への懸念から輸出制限のうねりが起きて国際市場で食料品不足が起きかねない」と警告の声明を発表した。
さらに各国で行われている新型コロナウイルス感染防止のための移動制限が、外国人労働者に大きく依存している欧米の農業に脅威を与えている。米国では、昨年25万人以上の外国人労働者が農業に従事していた。欧州でも旧東欧諸国からの労働者が農業に従事している。移動制限によって外国人労働者が農業に従事できなければ、欧米では作付けが、南半球のオーストラリアでは収穫作業が困難になりかねない。このままでは世界の食料生産が低下しかねない。まさに、食料自給率37%の日本に食糧危機が迫ってきている。
このようななか、3月31日に政府は、農業の基本法である食料・農業・農村基本法に基づき、5年に一度改定する新たな食料・農業・農村基本計画を閣議決定した。計画の焦点は、37%と過去最低を記録した食料自給率をどのように設定するかであったが、新たな計画では10年後の2030年に45%という目標を設定した。
食料自給率は、5年前の基本計画でも45%が目標値となっていたが、下がり続け、2018年には37%にまで低下。先進国で最低の食料自給率となっているが、今回の目標値設定に際しても、その低下の原因については、まったく究明されなかった。それどころか、食料自給率低下の原因として指摘されているメガ食料輸入自由化について、是正するどころか、それを前提とした基本計画としている。
さらに、農地面積は、現在の439.7万haが10年後には414万haと減少、農業就業者は現在の208万人から10年後には140万人と3割減少との見通しで、日本の農業を支える農地と農業就業者の縮小を前提としている。
関税撤廃が国内農家を脅かす
では、そのようななかでなぜ食料自給率を10年後に45%にするという目標を立てられるのか。それは、主要品目の以下の生産努力目標を見ればわかる(左は現在の数量、右は目標値)。
・飼料用米:43万トン→70万トン
・小麦:76万トン→108万トン
・大豆:21万トン→34万トン
・野菜:1131万トン→1302万トン
・果実:283万トン→308万トン
・生乳728万トン→780万トン
・牛肉33万トン→40万トン
・飼料作物:350万トン→519万トン
要するに農地も農業就業者も縮小するが、農産物は増産できるという能天気な予想に基づいて、食料自給率が10年後に45%になるという、まったく根拠のない想定なのである。IT技術を活用するスマート農業によってそれを可能にするとしているが、高齢化している農業従事者でスマート農業を活用できる人は限られている。
さらに、日本農業を取り巻く環境は、メガ食料輸入自由化で野菜も果実も関税撤廃され、肉類や乳製品も関税の低減が連続的に進むことになり、圧倒的価格差のある輸入農産物の輸入拡大による農産物価格の下落で、農業経営の継続が困難になる事態を迎えている。
このような実現不可能な食料自給率目標を掲げて国民に誤った安心感を与えることはやめて、目前に展開しつつある食糧危機に真正面から対峙して、食料確保や、離農と高齢化が進む農業の緊急的なテコ入れに取り組むべきである。
(文=小倉正行/フリーライター)