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ラーメン、なぜ“1000円の壁”崩れつつ?高額化で“安い食べ物”という観念薄れる

文=A4studio
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一蘭 HP」より

 日本の国民食といっても過言ではないラーメンだが、1杯に払える値段のボーダーラインは人それぞれだろう。

 2015年にウェブメディア「マイナビ学生の窓口」が“「いくらおいしくてもこれ以上の金額は無理」というラーメンの価格”を社会人401人に調査したところ、最も多かった回答は「1000~1050円」(183人、45.6%)、次いで「800~850円」(33人、8.2%)だった。ラーメンフリークならともかく、たまに昼食や夕食でラーメン店を利用する程度の層だと、心理的に“1000円の壁”を感じてしまうのかもしれない。

 しかし昨今は、とんこつラーメンチェーンの「一蘭」が、昨年10月オープンの新店「銀座一蘭」(東京都中央区)で重箱入りのラーメンを1180円(税込、以下同)で提供していたり、「饗 くろ㐂」(もてなしくろき、東京都千代田区)や「Japanese Soba Noodles 蔦」(つた、東京都渋谷区)といった行列のできる個人店でも、1000円以上のメニューがデフォルトになっていたりする。1000円超えのラーメン自体は決して珍しくないし、むしろ以前より市民権を得ているのではないだろうか。

 そこで今回は、こういった高価格帯ラーメンの現状について、年に600杯前後のラーメンを食べ歩き、過去には人気番組『TVチャンピオン』(テレビ東京系)で“ラーメン王”に輝いた実績を持つ、ラーメン評論家の山本剛志氏に話を聞いた。

ラーメンの海外進出と多様化が“1000円の壁”を崩しつつある?

「“1000円の壁”という言葉は、2000年代の前半からよくいわれていたものです。その日だけの限定ラーメンや、通常よりトッピングを増やしたラーメンであっても、1000円を超えた途端に客から反発が出てくる。そういった話は、ラーメン店の現場からも聞こえてきていました。

 今もまだ、1000円超えのラーメンに対する抵抗感は根強く残っているでしょう。しかし最近は、ラグビーにたとえるなら、各店舗が“1000円の壁”に少しずつモールを押し込んでいる状況です。まだ壁は崩れていないながらも、各店舗はラーメンの新しいあり方にアプローチしており、それが結果的に、1000円超えのメニューとして表れているのだと思います」(山本氏)

 山本氏は、高価格帯ラーメンが浸透してきている背景には、3つの要因があると分析する。

「まず1つ目の要因は、時がたつにつれ、物価が高騰してきていることです。食材は年々高くなっていますし、2000年代以降は、消費税の2度の増税もありました。これらの条件が変わってくると、今までどおりのラーメンを提供しようとしても、値段を上げざるを得ません。

 続いて2つ目の要因は、近年、ラーメン店の海外展開が目立ってきていること。特に欧米では、ラーメン1食で2000円するようなケースもあります。こういうラーメンの食べられ方があるのだと知り、『日本のラーメン店は全体的に安すぎるのではないか』と考え始めた人々が、だんだん増えてきているのではないでしょうか。

 そして3つ目の要因は、一部の店舗が、従来のラーメンでは採用されてこなかった作り方や食材を、積極的に取り入れるようになったこと。一例として、Japanese Soba Noodles 蔦の『醤油Soba』(1300円~)は黒トリュフオイルが味の決め手になっており、もはや既存のラーメンとは別ジャンルといえるくらい革新的です。こうした時流も、ラーメンの値段に影響しているのでしょう。

 世の中にはこれまで、“ラーメン=安くておいしい食べ物”という定義のようなものがあり、もちろん今も、そう捉えている人は多いはずです。その一方で、高いコストや手間暇をかけて作ったラーメンには、また違った領域のおいしさがあります。安くておいしいラーメンは確かにありがたい存在だけれども、贅を尽くしたラーメンというものも、それはそれで理解できる……。作り手のみならず、客の立場からしても、ラーメンの楽しみ方が多様化してきているということですね」(同)

今や、ルームサービスでラーメンが提供されてもおかしくない時代?

 では、近い将来、どのような高価格帯ラーメンがヒットするかという予想はつくのだろうか。

「ラーメン職人の方々は非常に努力をされていますから、私たちのような評論家にも正直、先のことについては見通せない部分があります。強いて言うなら近頃は、タイやノドグロといった、いわゆる高級食材が使われやすい傾向にあるでしょうか。

 また、ラーメンをスープ料理として見ると、煮干や節類の魚介系ラーメンは今なお定番の人気を誇ります。このように、オーソドックスだと思われていたものを1周回って再評価する流れも、今後は起こってくるでしょう。

 例えば、一口に鰹節といっても、手火山(てびやま)と呼ばれる独特の製法で作られているものもあります。他には、そもそも魚介ではない“鶏節”も注目されていますし、それらをラーメンに使うと、また味の表現も変わってくるはずです」(同)

 ちなみに博多発祥のラーメンチェーン「一風堂」は昨年7月、5つ星ホテルの「ザ・ペニンシュラ東京」(東京都千代田区)のルームサービスでも、「マイラーメン」と銘打ったメニューの提供を始めた。

 スタッフが客室でポットから丼にスープを注いでくれ、その後は、木箱に入った全12種類のトッピングを自分好みに組み合わせて食べる。価格は税・サービス料別で3400円と、1000円超えどころではない。しかし山本氏は「ラーメンといえども、ルームサービスで1食が1000円以下というのは考えにくい」と話す。

「これは、ラーメン店が値段をルームサービスの水準まで引き上げたというよりも、ルームサービスを行うホテル側が、ラーメンというジャンルに進出したというのが正解なのではないでしょうか。

 もし10年前でしたら、ザ・ペニンシュラ東京クラスのホテルがラーメン店とコラボレーションするというのは、世論的にもあり得ない話だったかもしれません。ただ、これだけラーメンが海外でも人気を博している時代においては、外国人観光客も泊まるホテルでラーメンを振る舞うというのは、ごく自然なことでしょう。それこそ、この10年間で、機内食でも専門店のラーメンが提供されるようになったくらいですからね。

 一風堂の件で思い出されるのは、落語家の林家木久扇(現木久扇)師匠が1982年に『全国ラーメン党』というものを設立した際、『ホテルのレストランでラーメンを』というキャッチフレーズを掲げていたことです。その頃ラーメンといえば、大衆食堂や屋台などで食べるのが普通だったわけですが、木久扇師匠には『いや、ラーメンは安いところでしか食べられないようなものではない』という主張があったのでしょう。

 図らずも、現代ではラーメンがルームサービスや機内食にも平然と出てくるようになりました。つまりそれだけ、ラーメンという食のスタイルは、世間に広く認知されてきているのだといえます」(同)

 もっとも、高価格帯ラーメンが受け入れられる環境には地域差もあるらしく、山本氏は「メディアの情報は東京を中心に回っており、ニッチなものにも需要が発生するのは、東京ほどの巨大な商圏を誇るエリアだからこそ」と指摘する。

 全国のあちらこちらで誰もが1000円超えのラーメンを食べるような日は、まだまだ遠いのかもしれない。それでもラーメンという食文化は、こだわりの職人たちの手によって、さらなる発展を続けていくのだろう。

(文=A4studio)

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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