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私が電通に製作費“7割中抜き”され企画を握り潰され、濡れ衣着せられクビにされた実話

構成=編集部、取材協力=ジャンクハンター吉田/ゲームコラムニスト
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電通本社(西村尚己/アフロ)

 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い経済的な損害を受けた中小企業やフリーランスに最大200万円を支給する持続化給付金事業で、一般社団法人サービスデザイン推進協議会(サ協)から事業の97%の再委託を受けた広告大手の電通が、人材派遣のパソナやIT業のトランスコスモスに業務を外注していた問題。電通、サ協は8日、相次いで会見し、この問題を釈明した。会見で、電通の榑谷典洋副社長は一連の再委託は「われわれができ得る限りの品質を追求するためだった」などと説明し、同社の通常業務より低い1割の利益率だったと弁明した。

 榑谷副社長は同日の会見で、事業の利益率について「経産省のルールで管理費は10%か電通の一般管理費率の低いほうで計上するようにと指導されている。我々の一般管理費率は10%を超えているので、今回はルールに則り10%とした。われわれが通常実施している業務に比較すると低い営業利益になる」と述べた。

 インターネット上では、数百億円の公共調達事業を丸投げすることで1割の利益を確保することが適正なのか疑問の声が広がっている。そんななか、元プロレスラーでゲーム・映画コラムニストのジャンクハンター吉田氏が8日、Twitter上に電通に関する自身の体験談を投稿し、大きな反響を呼んでいる(以下参照)。電通はこれまでどのようなビジネスモデルで利益を上げ社会に影響を与えてきたのか。吉田氏の体験をあらためて聞いた。

【吉田氏の証言】

 2000年春ごろ、テレビ東京系のゲーム情報番組『64マリオスタジアム』や『マリオスクール』、その後継番組『マジック王国』の番組制作に携わっていました。いずれの番組も任天堂の一社提供で、われわれ制作側とスポンサーの任天堂の間を電通関西(編注:電通関西支社の略称)が仲介する体制をとっていました。『64マリオスタジアム』を制作していた番組制作会社が任天堂となんらかのトラブルを起こしたため、『マリオスクール』の制作にあたって私を含む製作スタッフは新たに制作を請け負った制作会社「テレビマンユニオン」に合流し、番組づくり手掛ける複雑な経緯でした。

電通7:制作3の予算配分だった

 当時、任天堂の主力家庭用据え置きゲーム機だった「ニンテンドー64」は、ソニーの「プレイステーションシリーズ」に大きく水をあけられていました。任天堂の株価も下がり、同時に番組の視聴率も伸びず最悪の暗黒時代でした。山内社長の息子は「ジュニア」とアダ名がつけられ、電通で働いていた縁もあったため、任天堂から電通関西は製作費を受け取り、そこからわれわれに予算が配分される仕組みでした。そういう背景から、「極力お金掛けない番組づくりを」といつも電通から言われていました。

 予算がなければ出演料が高額なゲストは呼べないですし、企画案の種類も制限されます。しかも電通関西から降りてくる予算は、毎週木曜18時半~19時の放送時間帯の番組にしては驚くほど少ないものでした。一番費用が掛かっていたのが五反田のCG合成会社のスタジオと渡辺徹さんと声優の石川英郎さんだったと思います。そんな状況だったにもかかわらず、電通関西からは常々、「視聴率が伸びないのは番組の企画が弱いからではないか?」などと批判されていました。

 制作スタッフは電通関西の下請けなので直接任天堂へ話ができず、ダイレクトに企画が通せませんでした。電通関西の責任者が参加する全体会議が月1ぐらいであり、山ほど企画書を出しても、「山内さんが面白くないとおっしゃっている」と電通関西側に却下されました。

 そんなある日の番組会議で、電通関西のI氏が書類を椅子の上に忘れていったことがありました。ブリーフケースから機密書類と思われる書類が剥き出しのまま置かれていて、覗き見しなくても何が書かれているか、わかってしまったのです。

 なんと任天堂から電通関西が貰っている予算のうち、たった3割しか制作費を落としていなかったことが判明しました。7割も中抜きです。せいぜい5割の半々だろうと思っていのですが、それが違った時のショックはまだ業界青二才な自分にはショックでした。

 収録現場に毎回来るわけでもなく大して仕事もしてないのに7:3の割合にはどうしても納得が行きませんでした。むしろ3:7だろと。それ以降、大手広告代理店のやり方に疑問を抱くようになりました。任天堂が番組にこんな予算出してくれていたのに、「予算がない」というのは嘘だったんです。

電通に握りつぶされた企画提案書

 しかも、任天堂の山内社長がダメ出しをしているという話も、山内社長、電通関西、われわれで食事会をする機会があり、その際に崩れました。

 食事会で山内社長から、視聴率問題で叱咤された際、「キミたちから上がってくる企画が少なすぎるんだよ。もっとたくさん出さないと!」といわれたのです。山内さんの言葉に疑問を抱いたので、「僕らはこういう企画を自信持ってたくさん出していたんですけど山内さんがお気に召さなかったようで」と、たまたま持参していて企画提案書を山内さんへ見せたんです。そしたら山内社長は「おもしろい。こういう企画をなんでやらなかったんだ」ということになりました。

「何かの手違いで企画提案書が提出できてなかったようで、すみません」と逆に番組の企画を任されていた私から謝ることになりました。企画書を読む山内社長からは「これぐらいならば成立する予算はうちから捻出しているんだから、ボツになったのが、もったいないのばかりじゃないか!」と再び説教されました。

 つまり、電通関西側に出した企画提案書は山内社長にほとんど回されておらず、「山内さんが面白くないと言ってる」発言そのものが嘘だったことがと判明したのです。しかし、その食事会には電通関西の担当者もいたので(彼は真っ青な顔していましたが)、彼の顔を潰すわけいかないため渋々フォローするしかありませんでした。

 その食事会で山内社長からは「視聴率5%を3月の初週で達成しなかったら打ち切りにするけど、次はゲームの番組をやめて私の大好きな手品の番組にするから」と告げられたので、私はもうこの時点でリストラだろうと覚悟しました。

突然の番組降板と謎の2ちゃんねるへの書き込み

 『マリオスクール』を代表して『TVチャンピオン』(テレビ東京系)のゲーム王選手権に出演した放送日が、皮肉にも番組の最終回になりました。翌週から『マジック王国』という、初めて任天堂の看板ゲームソフト『スーパーマリオ』の冠を外した30分番組がスタートすることになりました。スタッフそのままでこの手品番組を作ることになり、私は毎週3分ぐらいに縮小された枠でゲーム紹介を担当することになりました。

 山内社長は「ゲーム番組は終了する」と言っていたので、新作紹介枠を設けることに違和感はありましたが、どうやら電通関西は山内社長のご機嫌取りをするべく、ジュニアが初プロデュースするゲームボーイアドバンス(GBA)専用ソフト『伝説のスタフィー』を強固なIntellectual Property(IP)にするためつくられた枠であることがわかりました。

 電通はスタフィーをドンキーコング、マリオ、ポケモンなどに続く21世紀のIPにするつもりで、水面下で動いていた秘密プロジェクトで、一切外部にもらさず星形のキャラを先行で披露していく戦略だったようです。

 番組の中でさりげなくスタフィーをスタジオ内に置くなど、山内さんのご機嫌取りに私たちも加担させられる形になりました。

 ある日の会議で私は「この番組構成で新作ゲームの紹介が、マジシャンが手品披露した後でインサートされるのって誰が喜ぶんですか? ゲーム紹介だけが浮いてるんで、やめたほうがいいんじゃないですか?」と自らリストラしてくれと言わんばかりの発言をしました。

 それに対し、電通関西の責任者I氏は次のように激高したのです。

「ジュニアが初めてプロデュースする『スターフィッシュ』というゲーム(当時のワーキングタイトル)が控えているから新作紹介枠作ってるんだよ! この枠なくなったらキミだって仕事なくなるだろう?」と、いかにも仕事を与えてやっているんだという態度でした。

 これまで電通関西側とはたびたび衝突していたのですが、この時ばかりは一触即発ムードでした。彼としては山内社長の提灯持ちなので、自分に反対する奴は許せなかったのだと思います。あまりにも腹が立ったので、テレビマンユニオンのプロデューサーに「メキシコへプロレスの武者修行行きたいので1カ月休んでいいですか?」とお願いすることになりました。

 プロデューサーからOKが出たこともあり、担当していたゲーム紹介コーナーを4週間分作り込んでメキシコにわたりました。現地の生活になじみ始めた頃、突如プロデューサーから携帯電話へ国際電話が入ったのです。「任天堂の山内社長が吉田君に対し激怒している。早く日本へ帰ってきてくれ」と。意味がわかりませんでした。

 帰国が4日後に迫っていたので予定通りに日本戻った翌日、プロデューサーに「全体会議前に二人きりで話がある」と呼び出しされました。パソコンの画面を見せられて「この書き込みは吉田君……が書いたはずないよね? 僕はキミを信用して信じているから突如呼び出したんだけど」と言うのです。

 モニターには『2ちゃんねる』の「任天堂スレッド」にスタフィーの情報が書き込まれていました。

 私は「手元にPCもないし、メキシコになんてネットできるインフラがなかったからこの書き込み日時から特定してもらっても、あきらかに俺じゃないですよ。もしかして2ちゃんねるにネタを漏洩させたと疑われてます?」と聞きました。

 プロデューサーは「そうなんだよ。電通関西のI氏が吉田しかこんなこと書き込む奴はいないって鼻息荒く山内さんに伝えているようで、山内さんは激怒しているって話が出てるんだよ」と疲れたように話してくれました。

 IPアドレスを調べればわかる話です。当時のメキシコに日本語IMEが入ったPCはネットカフェにはありませんでした。そのうえで、プロデューサーは「メキシコ行ってる吉田君のわけがないって山内さんにも伝えたんだけど、どうやらI氏は吉田君を番組から降ろさせようとクビにしたがっているんだよ。これは間違いなく電通側が吉田君をハメた陰謀だと思っている」と言ってくれました。

 プロデューサーを困らせたくなかったので結局全体会議に出る前に自ら降板しました。9月まで残り3カ月分、番組をつくる予定でした。プロデューサーは「これは僕が吉田君を守れなかった責任なので自腹で3カ月分払わせてくれ」と漢気を見せてくれました。

 お金も仕事もなかった無名の若手時代でした。プロデューサーの漢気に感動し、自分も人の上に立ったらこういう人間になろうと思いました。一方で、電通関西のI氏は「2ちゃんねるを常時チェックしている暇人ではないのか」という謎が残りました。

電通のネット監視チーム

 『マリオスタジアム』時代から嘘ばかりついて、上から目線で見下してくる電通関西とはそりが合わなかったので、番組を降りたことで気持ち的にはスッキリしました。しかし、任天堂の山内社長からは誤解されたままだったのだけは許せませんでした。ところが番組をクビになってから数週間後、プロレス好きという共通項があって親しくさせて頂いていた電通本社のS氏から電話があり、衝撃的な事実を知ることになりました。

 S氏は私が山内社長からクビにされたことに驚いて、番組に対し社内ヒアリングをし、何があったのか調査したので話がしたいというのです。

 S氏は「電通的には任天堂がCMや雑誌広告等含め超大口のスポンサーなので、山内さんのご機嫌を取らないといけないから特に担当していたIは必死だったんだろうけど、今回の件はやりすぎていたと思う」とのことでした。

 つまり、スタフィーの情報漏洩事件で吉田が日本にいない隙を見て2ちゃんねるにI氏が自分でスタフィーの情報を書き込んで、それを吉田のせいにし、山内社長へ報告。そしてクビにさせるという単純極まりない自作自演を行なっていたということでした。

 S氏にどうしてそんなことがわかったのかを伺うと、「電通は2ちゃんねるを2000年から脅威に感じ始めたと同時に、秘密裏に自演書き込みをして印象操作を行なっているチームがある」というのです。そこからの情報でI氏が自作自演を行ったということがわかったというのです。

 ネット上で印象操作しているチームは、ほぼ24時間体制で稼働していたそうです。2ちゃんねる以外にも当時はネット掲示板が隆盛していた頃だったので、それをすべて網羅していたといいます。自分たちが企業から請け負っているPR案件を非難批判させないよう、または好印象を持たせるよう、複数人で印象操作するという仕事で、社内だけのインハウスで展開していたそうです。

 最近、ネット上で指摘されている「政府与党がフリーランスマッチングサイト・ランサーズに印象操作の仕事を依頼していた」という疑惑と違い、アルバイトなど外部の人間を雇うわけではないので、社内でもその組織の存在を知る人は少なかったということでした。

 掲示板文化だった20年前のエピソードですが、今のSNS文化とは違って、当時は匿名の便所の落書きみたいなものを信用する企業が多くいたということです。何が行われていたのしても、テレビ制作側は電通に基本逆らえません。CM=広告やタイアップを引っ張ってきてくれる営業マンが電通なんですから当たり前です。

 電通がどれぐらい中抜きしているかを、番組を作っている側は通常では一切知り得ません。メディア支配なんて簡単にやれてしまいます。S氏からは自民党の広報PRも担っていると当時伺っていて、政治にも首突っ込んでいるんだと驚いた記憶があります。S氏は10年ちょっと前に電通を退職しました。「電通を辞める人間は良心が残されている」と言っていました。

 彼が辞める前、最後にオファーされた仕事が任天堂ゲーム機「Wii」のウェブサイト用に掲載する原稿でした。たった2000文字で18万円のギャラを頂戴しました。総額20万円の仕事だったそうです。S氏は「電通は個人商店みたいなもので、自分たちで数字を決めることができる。原稿を確認するだけの仕事なら1割でいい」と言っていました。売上至上主義で、少しでも自分たちの利益をねん出して、現場に負担を強い、社内の出世レースを勝ち上がっていく社員がいる一方、中抜きしない電通マンもいます。その案件を最後に電通とは完全に切れました。

(構成=編集部、取材協力=ジャンクハンター吉田/ゲームコラムニスト) 

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