「正直者がバカを見るシステムですね」
持続化給付金を受け取るために、申請を行った社長は言った。中小企業に最大200万円を支給する持続化給付金の事業は、経済産業省がサービスデザイン推進協議会なる団体を通じて、749億円で電通に委託され、そこからさらに405億円でパソナに外注されたことが明らかになっている。
取材に応じてくれたのは、大手旅行代理店や大手旅行サイトの仕事などを請け負う編集プロダクションの経営者だ。新型コロナウイルスの感染拡大によって観光業は大打撃を受け、仕事は激減した。そこで持続化給付金を申請することとした。
「持続化給付金の給付対象となるのは、前年同月比で50%以上減少している場合。3月を見ると昨年の収入が約650万円で、今年は約300万円でした。54%減少しているので、これは大丈夫だと思いました」
前年の総売上(事業収入)-(前年同月比が-50%となった月の売り上げ×12カ月)という計算で、減少した月の売り上げから今年の総売上を推定し、減少額を出す。減少額のうち200万円を上限として給付されることになる。
「前年の総売上は3259万円だったんです。3月の売り上げの300万円×12カ月だと、3600万円で、341万円も上回ることになって、給付金はもらえないということになります。ああ、ダメかと放り出したんですけど、しばらくして冷静になって考え直しました。うちは書籍やムックも請け負ってるんで、月ごとの売り上げにかなり増減があるんですね。
前年3月の約650万円はかなり収入の多い月だった。それと今年の3月の収入約300万円は、まだそれほど減少していない時期だったんです。4月の売り上げ予測表を見ると約100万円。昨年4月は約267万円なので60%以上の減少です。算定式に当てはめると、3259万円-(100万円×12カ月)=2059万円。満額の200万円がもらえることになります。2020年のどの月を選んでもいいことになっているので、売り上げの少ない月を選ぶほうがもらえる額は多くなります。
うちのように月ごとの収入の増減が多い場合は、選んだ月の前年の売り上げがたまたま少ない月だったりすると50%減にならないので、その点でも注意が必要です。こういう細かなことは持続化給付金のサイトに行っても書いてないし、相談窓口でも教えてくれないでしょう。ある程度、知恵の働く人じゃないと当然もらえるはずの額をもらえないということになります」
持続化給付金申請の必要書類は、通常の場合は以下の3つ。
1.2019年(法人は前事業年度)の確定申告書類
2.売上減少月の売り上げ台帳
3.給付金を振り込む通帳のコピー
「これを見て、え? 法人にも確定申告書類ってあるの? 決算書じゃないの? と戸惑いました。税理士に聞いたら、決算書の束の中にある確定申告書別表、法人事業概況説明書のことだったんです。これは税理士に聞かないとわかりませんでした。銀行から融資を受ける時に決算書を出すことはけっこうあるんですけど、その中に確定申告書類があるっていうのは、けっこうわからない人はいると思います。
そこまでクリアすれば、持続化給付金の公式ホームページで<申請する>ボタンを押して、仮登録して送られてきた確認メールに従って本登録して、必要事項を入力。金額を入力していくと、自動計算で給付額は200万円と出て来ました。必要書類を添付して、<申請>ボタンを押すと、『ご申請ありがとうございました』と書かれた完了ページが出ます。ここまで30分ほどです」
申請が殺到してサーバーダウン?
申請したのが5月6日。13日にメールが来た。そこには「申請内容・添付に不備がありましたので修正してください」と書かれていた。
「振り込みの連絡だろうと喜んだので、え? と思いましたね。見てみたら1つは自分の凡ミスで、4月の売り上げだったのに『5月』と入れていたんですね。ちょっと慌ててたのかもしれません。5月上旬の申請なんで5月の売り上げが確定しているはずもなく、まったくの対象外の月です。自分のミスなんで文句は言いづらいですけど、こういうのは申請時にシステム的にエラー表示が出てくれないのかなとは思いますね。凡ミスなんでその場で修正できることですから。
ネット通販なんかでクレジット決済する時に、間違って期限切れの年月とかを入れたら、その場ではねられるじゃないですか。このAIの時代にどうなってるんだろう? 何百億ももらってる電通やパソナは何やってるんだと思っちゃいますね。
もう1つは『売上台帳として認められない画像が添付されていました』というもの。どこが不備なのか具体的な指摘はないので、自分で考えるしかありません。2019年4月の売上は合計額だけ記していたんですが、入金のあった取引先を記して、別表にしました。念のために損益計算書も添付しました」
しばらくすると、申請フォームが変わった。赤枠で囲まれているため、「赤紙」と呼ばれているという。そこには「確認が終了した際には、給付通知を発送させていただきますので、通知が到着するまでお待ちください」と書かれていた。
「そこから、ひたすら待つだけです。この手の申請って、受付完了から審査中、審査完了、確定もしくは不備とかって、3~4段階で進捗状況が出ますよね。そういうのはまるでなくて、赤紙のままなんです。LINEやコールセンターへの問い合わせは、個別状況については教えてくれないので、待つだけです。
申し込みから20日後の5月26日に、振り込みがありました。その後に、振り込みの通知が来ました。弊社の場合は給付金が受け取れたわけですけど、心配なのは、初日の5月1日に申請が殺到してサーバーダウンしてしまったと言われていることです。データの一部が残っている人には連絡が行っているようですけど、まるごとデータが消えちゃった人はどうなるんでしょう。2週間ほどで連絡が来るはずなのに、1カ月以上経った6月になってもまだ連絡が来ない人がいるようですから。再申請はしちゃいけないことになっているので、途方に暮れていると思います。経産省が恥を忍んで、『データが飛んでしまったので、再申請してください』って言えばいいだけの話なんですけどね。
一方で持続化給付金の申請ってザルです。うちは念のために、損益計算書も添付しましたけど、それは本来必要がありません。売り上げ台帳はエクセルで作っても手書きでもいいんですけど、入金に関する裏付け書類は要らないので、いくらでも偽造できます。確定申告書も原本の紙コピーとかならまだしも、ウェブ申請なので画像で撮影して出してもいいしスキャンでもいい。不正受給に関しては、法人名の発表や刑事告発まで含めた罰則がありますけど、果たしてきちんとチェックできるんでしょうか。
不正受給でなくとも、受給してから計画倒産するという会社もけっこう出てくると思います。スピードが必要なんで、ある程度ザルなのは仕方がない面もあると思います。だけど一方で、5月1日のサーバーダウンでデータが飛んじゃったと思われる人たちは、手続きは延々と進まず、一方で再申請はダメだと言われて困っているわけです。正直者がバカを見るシステムですね」
パソナは回答せず
委託を受けた電通や、発注を受けたパソナはどんな業務を行っているのか。問い合わせてみたところ、電通からは以下の回答があった。
<一部報道にありますように、当社は、中小企業庁が一般社団法人サービスデザイン推進協議会に委託した持続化給付金事業の一部業務について、同協議会から再委託を受け業務執行に当たっております。執行に当たっては、経済産業省が定めるガイドライン「委託事業事務処理マニュアル」を順守しております。
なお、本事業における当社受託業務は次のとおりとなります。事業運営においては多くの企業・団体の協力を得、9000名以上の体制で業務を推進しております。
・本事業に関する各種広報業務
・給付金申請の審査業務
・全国465カ所(6月から541カ所)における申請サポート会場の設置及びその運営業務
・約350名体制のコールセンターの設置及びその運用業務
・電子申請システムの構築とその運用業務
・スマホ申請も可能なホームページの構築とその運用業務
上記ガイドラインでは、委託業務の精算に係る事項について定められており、事業予算額が当社に支払われるとは限りません。ガイドラインに基づき、業務完了後、業務実績に応じて精算を行います。そのため、当社への支払額は、未定です。
当社は、本事業の重要性に鑑み、引き続き迅速に対応できるよう、全力で取り組んでまいります。
何卒、ご理解とご支援のほど、よろしくお願い申し上げます>
この業務が、電通が受け取った額と見合うものなのかどうかは、今後の調査が必要となるだろう。パソナからは期限までに回答はなかった。
(文=深笛義也/ライター)