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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシックのライブコンサートもネット配信へ…世界中で視聴可能、ファン層拡大の可能性も

文=篠崎靖男/指揮者
クラシックのライブコンサートもネット配信へ…世界中で視聴可能、ファン層拡大の可能性もの画像1
「Getty Images」より

 新型コロナウイルスの感染を抑えるために発出された日本の非常事態宣言は功を奏した感がありますが、とりわけ国民全体が“ステイホーム”を心がけていたことが大きいでしょう。しかし、もし同じ状況が、インターネットが広まっていない30年前に起こったとしたら、企業のリモートワークや、学校のリモート授業も不可能だったわけで、やはり会社や学校に出かけなくてはならなかったはずです。しかし今は、会議までもがインターネットでできるのです。

 10年前に創業し、ビデオ会議システム「ZOOM」を提供している米ズーム社は、新型コロナウイルス感染拡大により、世界中の多くの人たちが外出制限を受けたことで利用者が急増しました。米CNNによると、2020年2-4月期は、売上高が前年同期比169%増の3億2800万ドル(約350億円)にもなったそうです。今回の外出自粛を機に、ZOOM会議を始めた方々も多いと思いますが、世界の企業で現在、ZOOMを使用しているのは26万5400社に上り、前年比354%の伸びだったそうです。

 ZOOM飲み会やZOOM同窓会をはじめとして、普段も会うこともできない遠隔地の友人たちと再会するチャンスにもなっていますし、将来は現地に行かなくては機会がなかった米ハーヴァード大学や英ケンブリッジ大学の教授の講義を、日本に居ながらにして受けることができるかもしれません。

 音楽界も現在、自治体が徐々に自粛を緩和しているなかで、劇場やホールも営業できる段階まで来ましたが、まだ入場制限があり、チケット収入減が大きな問題として立ちはだかります。われわれ音楽家にとって生活の糧であるコンサートをすること自体が赤字となり、経済的困難をつくり上げてしまいます。

 そんななか、東京都が始める新しい企画が話題になっています。それは現在、活動の場を失っているアーティストや舞台スタッフを支援しようと、無観客公演や入場者数制限した公演を、都のウェブサイトにて無料動画配信した場合に200万円支給するというものです。これにより、赤字の心配をせずにコンサートを開催できますし、インターネットを通じて、多くの音楽ファンに楽しんでもらうことができます。

 もちろん、これまでもNHK交響楽団や読売日本交響楽団のように、母体の放送局で生放送や録画放送をしていたオーケストラもありますが、今回の試みは、すべての団体に門戸が開かれているので、オーケストラをはじめとしたさまざまな演奏団体が自由にパフォーマンスできることになります。そしてそこには、世界中の人々に瞬時に情報を発信できるインターネットの存在が大きく役割を果たしているのです。

クラシックのライブコンサートを家でも楽しめるように

 さらに、それをもっと広げて将来の音楽ビジネスを先取りする企画も考えられ始めています。ひとつの例として、クラシック音楽事務所最大手のジャパン・アーツが始める「Japan Arts Live Streaming+」シリーズがあります。同事務所に所属する超一流アーティストのライブコンサートを、通常では考えられない1000円程度の低料金で、家にいながらにして聴くことができるのです。アメリカでのオリンピック放送をはじめとして、スポーツ界では有料放映が盛んですが、クラシック音楽では新しい試みです。

 ジャパン・アーツの二瓶純一社長は、こう語っています。

「これはコロナ期間の単なる中継ぎ企画ではなく、新しい時代にも持続可能なプロジェクトにすることを目指しています。お客様が来場するライブ&遠隔地(世界各地)からもオンラインで観覧できるネット配信、というハイブリッド型モデルです。

 今は無料動画があふれていて、本当に価値ある映像コンテンツが埋もれてしまいがち。玉石混淆な状態から、だんだん淘汰されて新たなビジネスモデルが生まれればよいなと思います」

 コロナの影響が残る当面は、「無観客コンサートのライブ配信&見逃し配信」でスタートするそうですが、今後の展開が期待できそうです。

 二瓶社長も触れているとおり、現在は無料動画が溢れています。若者を中心に「お金を払って音楽を聴く」という概念が薄らいでいることは、新型コロナが広まる前から考えるべき問題となっていました。インターネットで曲名さえ検索すればたくさんの録音が出てきますし、しかも無料です。音楽家自身も、「今晩、YouTubeで聴いてみる」というのが普通になってきているくらいです。

 個人や団体の表現を自由に発表する目的のYouTubeなので、販売しているCDやDVDをアップするのはもちろん違法ですが、規制をかいくぐって蔓延してしまっています。僕は「やはりライブコンサートに勝るものはない」と断言しますが、それでも「無料に勝るものはない」と言い負かされてしまいます。何よりも、お風呂上がりにビールでも飲みながら、ソファーで自由に音楽を聴く楽しみを持っている人もいらっしゃるでしょう。

 しかし、こんなことを続けていたら、コンサートに来る観客もどんどん減ってしまい、音楽家もコンサートをすることができなくなります。

 ジャパン・アーツの取り組みは、ライブコンサートとインターネット同時配信という、新しいビジネスモデルです。僕の個人的アイデアですが、将来的にはストリーミングのチケットを購入した方はもちろん、ライブコンサートチケットにストリーミング特典をつけておけば、コンサートを観覧したあと自宅に戻り、今度はストリーミングで観て、感動を新たにすることもできるでしょう。

 また、映画のように最初はさっぱり売れなくても上映中に人気が出てくるということは、上演が1回限りのクラシックコンサートではありえないですが、この方式ならば、感動したコンサートを、あとになってから家族や友人にストリーミングで聴かせることができます。その結果、新しい音楽ファンをつくるきっかけにもなるのではないかと思います。

 と思っていたら、日本のジャズの殿堂「ブルーノート東京」に先を越されてしまったようです。ライブ会場の座席数を60%に制限しなくてはならないことを逆手にとり、観客には、いつもよりもゆったりと生ライブを楽しんでもらいながら、ストリーミングでも有料で配信する企画をさっそく始めるそうです。

 本連載記事『クラシックコンサート、最大の魅力は“臨場感”だ!独特な緊張や恐怖が感動を生む!』でもご紹介した、自宅から毎晩無料ライブ動画を配信していらっしゃった小曽根真さんのコンサートからスタートすることになっています。

 今月は、オーケストラも順次再開してまいります。クラシック音楽界も負けていられません。

(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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