河野太郎防衛大臣が6月12日に自身のTwitterで「ステロイドを使うななどといまだに言ってる人がいるが、アトピーの標準治療にはステロイドを使う。標準治療を拒否しておかしな療法でアトピーを悪くした人はごまんといる。気をつけよう」と呟いた。
このツイートは3万以上のリツイートと13万以上の「いいね」をつけた。子供の頃からアトピーの治療をしているという河野大臣は、これまでもSNS等でステロイドについて言及している。自身の公式サイトで、以下の発言も見られる。
「アトピーの治療に使うステロイドを副作用が強く、治療に使うべきでないかのような報道をマスコミが繰り返したことがありました。その結果、ステロイドによる治療をあきらめ、わけのわからない(つまり医学的根拠の無い)治療法がもてはやされることになり、それを信じてアトピーをさらに悪くした人が結構いました。アトピービジネスという言葉までできたほどです」
河野大臣が言うように、『医学的根拠を持たないアトピービジネス』は後を絶たず、藁をも掴む思いの患者に健康被害をもたらす“インチキ医療”も少なくない。
「ステロイドは怖い」というイメージは、事実と異なるということを読者に伝えたい。
ステロイドバッシングを煽ったマスコミ
ステロイドが怖いといったイメージをつくったのは、マスコミである。1990年代に、当時の人気番組が1週間にわたりステロイドを取り上げ、さらに人気アナウンサーが「ステロイドは危険だ」と視聴者に語りかけたことがある。その後、マスコミによる“ステロイドバッシング”が続き、それに伴い“脱ステロイド療法”が話題を集め、根拠のない民間療法などが氾濫した。こういったステロイドにまつわる歴史が、現代においても「ステロイドは怖い、使いたくない」といったイメージを先行させることにつながっているのだろう。
アトピー性皮膚炎治療のスタンダード
「ステロイドは怖い薬」はインチキ医療の常套句ともいえるが、医療の常識からすれば、ステロイドはアトピー性皮膚炎治療のスタンダードである。アトピー性皮膚炎の患者を多く治療する麹町皮ふ科・形成外科クリニックの院長、苅部淳医師にステロイド治療について聞いた。
「ステロイドについて『危険』『副作用が怖い』と言う方が多いですが、そもそも副作用のない薬はありません。しかし、副作用をできるだけ少なくする使い方を目指すことも、処方する医師と患者双方の大切な役割です。副作用があるから使わないというのは、正解ではありません」
治療の際に、強いステロイドに対し不安を抱く患者もいるが、その薬を使うのは治療上の意味があるためで、医師の指示に従うことが必要だと言う。
「ステロイドは弱いものを長期間処方するよりも、むしろ強めのもので短期間に効果を得て、徐々にレベルダウンしていくと、結果的に使用量が少なく済みます」
しかし、症状が改善したからといって自己判断による中止は悪化を招く恐れもある。
「“ステロイドの使用を止めるとリバウンドがある”というのは、完全なウソではありませんが、だからこそリバウンドが出ないよう、徐々にレベルダウンしていきます。ステロイドを適切に使用しないと、慢性的な湿疹が悪化して取り返しのつかないことになります。ご自身で判断するのは絶対に避けて、皮膚科の専門医に必ず相談してください」
ステロイドの強さと正しい使用量
前述したように、強いステロイドに抵抗を示す患者がいるが、ステロイドの強さを使い分けることには意味がある。ステロイド外用剤は、5段階の強さに分類することができ、「使用する部位・皮膚の薄さ」によって適するステロイドの強さは異なる。そのため、患部と症状によってステロイドの強さも適正に使い分けることが必要である。
また、使用量も重要だ。ワンフィンガーチップユニット(1FTU)と呼ばれる単位がある。これは、大人の人差し指の先から第一関節まで薬を乗せた量で、チューブタイプの軟膏やクリームでは、1FTUは約0.5グラムに相当する。この1FTUは、大人の手のひら2枚分の面積(体表面積の約2%)に塗るのに適した分量の目安といわれる。
ステロイドの副作用
ステロイドを怖い薬という背景には、副作用についての誤った認識もある。なかには、ステロイドの使用に伴い肌が黒くなるといった話を信じている人が少なくない。だが実際には、炎症が続くことなどで色素沈着を起こすのであり、ステロイドで肌が黒くなるわけではない。皮膚炎が悪化したり長期化すれば色素沈着が起きやすく、回復には時間がかかる。ステロイドを正しく使い、早期に治療するほうが肌をきれいに保つことにつながるといえる。
ステロイドは、正しく使用すれば安全で有効な薬である。根強く残るステロイドバッシングに惑わされないことを願う。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)