NHKのニュース番組『おはよう日本』に出演した日本産婦人科医会の前田津紀夫副会長の発言が物議を醸している。番組では「新型コロナウイルス感染症拡大の影で、“予期せぬ妊娠”への不安が若い世代に高まっている」として、緊急避妊薬の導入をめぐる日本国内の課題を取り上げた。
避妊の失敗や性暴力などを受けた女性が“予期せぬ妊娠”を防ぐために、WHO(世界保健機関)が誰もが安く簡単に入手できることが望ましいものとして必須医薬品に指定している。日本国内では、処方には医師の診察が必須である点を番組では指摘した。そうした状況に対して、中絶経験のある女性たちや薬局での購入に賛成する産婦人科医、性に関する相談に応じている支援機関などでつくる団体は今月21日、薬剤師関与のもと薬局で緊急避妊薬を購入できるよう厚生労働省に要望書を提出したことも紹介した。
こうした動きに対し、前田副会長は番組で次のようにコメントしたのだ。
「日本では若い女性に対する性教育、避妊も含めてちゃんと教育してあげられる場があまりにも少ない」
「“じゃあ次も使えばいいや”という安易な考えに流れてしまうことを心配している」
性教育が足りていないのは若い女性だけなのか?
性教育が足りていないのは「若い女性」だけなのかという疑問が湧く発言だ。前田副会長の発言に対して、Twitter上では以下のような批判の声が相次ぎ、29日正午現在、関連するツイートは約2万9000件に達した。
「緊急避妊薬も内服での中絶も海外では当たり前の選択肢だということ、私たちは知らされることすらない」(原文ママ、以下同)
「“性教育が不十分だから安易に緊急避妊薬に流れる”とは、、?”性教育が十分なされれば自分の意思で緊急避妊の選択をとれる人が増える”だと思う。予期せぬタイミングでの妊娠を防ぐための知識があり、行動を起こせることを”安易”とは何ごと?」
「とりあえずそういうことは『外で出せばOK』『生理中は妊娠しない』『事後コーラで洗えば大丈夫』と思ってる男性を撲滅してから言ってほしい」
必要とするすべての女性が安心して入手できるようにするべき
番組に出演した厚労省に要望書を提出した産婦人科医の遠見才希子氏は29日、自身のブログで以下のようにこの問題を指摘している。
「緊急避妊薬は安全性が高く約90カ国で薬局販売されています。
日本にはその選択肢がありません。必要とする全ての女性が安心して適切かつ安全に入手できるように、現行の診療体制に加え、薬局で薬剤師さんから購入するという“選択肢”を増やすこと”を求めています。
新型コロナウイルス危機下においても、避妊や家族計画は健康を守る上で不可欠で基本的な権利であること、緊急避妊へ確実にアクセスできるようにすること、という声明はWHOやFIGO(国際産婦人科連合)など世界中から発表されています。日本では、この1年でオンライン診療解禁やジェネリック発売など大きな変化がありました。そして今、新型コロナウイルスという大きな問題が立ちはだかり、性暴力や妊娠不安の相談増加が表出しつつあります。
世界スタンダードへさらに大きく変わっていくなら、まさに今しかないと思います」
一方、厚生労働省関係者も今回の前田副会長の発言に以下のように困惑する。
「前田副会長の発言に関しては、コメントはできません。ただ国としては男女ともに適切な性教育をどう実施するのかについて近年、検討が重ねられてきたことを強調させていただきたいです。
まったくの他人による性暴力から、家族や友人、交際関係にある男性などから性被害を受ける事例に至るまで、いわゆる“予期せぬ妊娠”の問題は極めて深刻な状態と認識しています。ただこうした事例は明確な犯罪にあたる可能性が高く、妊娠のリスクだけではなく、被害にあわれた方が負傷していたり、他の疾病の罹患リスクがあったりするので、緊急避妊薬の処方も含めて医師の診察が必要になっています。
また『特定の医薬品を乱用するかもしれない』という利用者の倫理やモラルの問題は、緊急避妊薬に限った話ではありません。そこには当然、男女の性差や年齢は関係ありません」
いずれにせよ女性だけに妊娠のリスクを押し付けるわけにはいかない。男性も含め、国民的な議論が必要だろう。
(文=編集部)