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多国籍企業が種を独占し農家が破綻する懸念…映画『タネは誰のもの』種苗法改定案に警鐘

文=編集部
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『タネは誰のもの』公式サイトより

 日本の農業生産者にとって、深刻な影響を与える可能性のある法案がひそかに国会で通過しようとしている――。今年6月に継続審議となって国会成立が見送られ、11月上旬にも再び国会審議入りが予想されている種苗法改定案に警鐘を鳴らすドキュメンタリー映画『タネは誰のもの』が完成した。製作陣は農業者や地域で開く自主上映会の主催者を募っている。

 種苗法改正案を巡っては、同法が成立するとグローバル企業が独占する種や苗を購入しなければならなくなる可能性がある自家採種・自家増殖農家と、知的財産権の保護を求める種苗開発農家との間で賛否が分かれている。同映画のプロデューサーを務めた元農林水産大臣で弁護士の山田正彦氏は「同法案の何が問題なのか。法案が成立すると生産者にどのような影響ができるのか。メディアはほとんど報じていない。拙速な法案成立は日本の農業を取り返しのつかない禍根を残す可能性がある」と呼びかけている。

種子法の廃止、種苗法の改正で多国籍企業がタネを支配する懸念

 コメや大豆、麦といった主要作物について、優良な種子の安定的な生産と普及を“国が果たすべき役割”と定めていた種子法が2017年に廃止された。同法は都道府県による普及すべき奨励品種の選定や、その原原種および原種・一般種子の生産と安定供給に都道府県が責任を持つことが定められていた。

 一方で政府は、農研機構や都道府県などが種苗を管理している状況が、国際的な競争力を阻害していると判断。種子法を廃止し、さらに種苗法を改正することによって日本の農業改革を行おうとしている。

 こうした政府の動きに着目し、農業生産者の目線でこの問題をどう考えればいいのかについて、『お百姓さんになりたい』『武蔵野』『無音の叫び』などを手掛けた農業ドキュメンタリー監督の原村政樹氏が監督、撮影、編集を手掛けた。

 東京大学大学院生命科学研究科の鈴木宣弘教授、東日本大震災を機に鹿児島県種子島に移住したサトウキビ農家の矢吹淳さん、栃木県大田原市の有機農家古谷慶一さん、岡山県岡山市の林ぶどう研究所所長の林慎悟さん、埼玉県三芳町の江戸屋弘東園の伊東蔵衛さんら研究者や、同法案に対して様々な立場をとる生産者を取材。同法案成立が及ぼす影響を分析、考察している。

登録品種の自家採種に許諾料が必要になり農家が破綻?

 映画では、日本の農家は種や苗を買ってきて栽培し出荷することを繰り返すパターンと、栽培、出荷後に特に優良に育ったものから種をとって自家増殖し、足りない分のみ種や苗を買い足すパターンの2種類があることを説明する。例えば、ホウレンソウや小松菜は種、イモは種イモ、サトウキビは芽から増やすことができる。既製品の種子や苗は、どこの土壌でも同じように作物が育つわけではなく、生産者が収穫するごとに自分の田畑に適した種を選別して「自家増殖」を行うことによって、品質や供給量を安定させているという。

 しかし、現行の種苗法改定案では、登録品種について農家がこれまで通り自家増殖するには許諾が必要になる。つまり、種苗の販売を開発者や権利を持っている企業が独占できるようになるのだという。許諾料は開発者が自由に決めることができるため、毎回種苗を購入して育てることになれば、経費がかさみ、生産が立ち行かなる農家が続出する可能性があると指摘する。

 一方で、こうした背景には種苗育成農家が、多額の経費をかけて開発したものが多くの生産者に自家増殖されてしまうと開発費が回収できなくなるという問題もいわれている。登録品種の海外流出も近年、騒がれていることもあり、国内では知財を守るという立場から法改正を促進するべきとの意見も大きいが、これに関しては既存の法律で充分に対処できるという見解も紹介している。

 劇中、サトウキビ農家の山本さんは「近隣の農家に種苗法改正案の話をすると、『そんなバカな話はない。自家増殖を禁止するのは農業をやめろというのと同じだ』と信用されない。アメリカのシンクタンク帰りの官僚たちはサトウキビや安納芋がどのように育てられているかを知らず、知的財産しか頭にない。現状の農家のためにやっているのか、いったい誰のためにやっているのか。日本でサトウキビが壊滅しても(アメリカで余っているトウモロコシを輸入して砂糖を作れば)いいんだという人がいる気がしてならない」と嘆く。

 また、東大の鈴木教授は、開発者から権利の管理を委ねられた米国のモンサントや中国のシンジェンタなどの多国籍企業がアジアや南米で種苗の権利を囲い込み、独占してきた歴史を紹介。そのうえで、「日本政府がグローバル種子企業のためにいろいろな便宜給与を連発しているかが問題になってくる」と指摘し、「タネを制するものは世界を制するということで、タネを自分のものにして、それを買わないと生産できないし、消費もできないようにしたいため、種子法が廃止され、農業競争力強化支援法第8条第4項で、農研機構や地方自治体が持っていたタネを民間企業に渡しなさいということまで決めてしまった」と危惧する。

原村監督「育種・自家増殖両農家、互いが納得できる法改正を」

 種子法の廃止に対し、北海道や山形県など22の同県は種子条例を制定。農業県を中心に政府の方針に反する動きが拡大しつつある。試写会で原村監督は今回の作品に対して次のように語った。

「今年の2月ごろ、種苗法の法改正の動きが騒がれ始めました。た。法改正は良くないという意見と、必要だという意見が真っ向から対立しています。確かに、自家採種している農家の人にとってみれば、大きな打撃です。一方、種苗開発者にしてみれば、『待っていました』ということになります。

 どちらも言い分としては、『なるほど』と思います。そこで、この作品では、理屈で対立するよりも、実際に作物という命をタネから育てている人たちが、どういう人たちで、どういう思いをこめているのかを知ってもらおうと考えました。

 『種苗法を改正しない方がいい』というプロバガンダ映画にはしたくなかった。まず農家の人たちがどういう思いをもっているのか。そういう彼らの心を伝えたいと思いました。

 撮影を始める前、私自身、種苗法はなかなか理解できませんでした。正直、扱うのが怖かった。僕の力では、これを表現することは難しいと思っていました。

 農水省はホームページなどを使い、種苗法を変える必要性をまことしやかに説明しています。それを読むと、『そうだよね。この法律は変えなければいけないよね』と思ってしまいます。

 しかし、農業現場の人たちの話を聞いていくうちに、農水省が説明していることは、かなり嘘があることがわかってきました。今の私は100%ではないけれども、種苗法は危ないと思っています。

 ただ、この映画の中ではっきり結論を出さなかったことが一つあります。多国籍企業にタネを渡ることに関し、『そういう危険性がある』という表現を使いました。今まで、南米とかアジアとかの途上国でタネが囲い込まれてきた経緯をみると、今回の種苗改定案はそれと似ているということ。断言はできません。

 劇中、最も素晴らしかったのは、林さんというブドウ育種生産者の方の話です。かれは種苗法改正案に賛成の立場です。しかし、『もし外国の大企業にタネを独占させられるような方向があるのであれば、自分は反対する。本当かどうかわからないけれども、今後自分で確かめてみる』と言っていました。自分自身でわからない問題を、自分の中で確かめるとおっしゃっていたんです。

 こういう考え方ができる人がいるということに感動しました。どちらか一方に、賛成するとか、反対するとかではなく、まず自分の力で真実を確かめてほしい。そのうえで、種苗法を改定するのであれば、育種農家も自家増殖農家もお互いが納得できて、対立するのではない改正をしてほしいと思います」

山田プロデューサー「まずタネとは何かを知ってほしい」

 一方、プロデューサーの山田氏も次のように訴える。

「これまでは種子法があったから、安全で安心なタネを生産者に提供することができていました。ところが政府は農業競争力の向上を謳い、農研機構の育種知見などを民間に提供するという法案を通しました。当時の国会審議で、『こうした公共の種は海外の利用者にも提供するのか』との質疑に対し、齋藤健農水副大臣(当時)は『(TPP協定は内外不差別なので)当然です』と答えています。

 種子法が廃止される際、私が農水省の課長に、『今後、自家採種を禁止するのか』と聞いたら黙っていました。そして、今回の種苗法の改定です。11月の初めから、衆議院で種苗法改正案が審議されます。同法案は閣議決定の時点で施行日が12月1日と定められています。このような拙速な審議は通常全くありません。

 こうした国会の動きに対して、与論町議会、札幌市議会など60カ所以上の市町村議会から国会に対して意見書が出されています。

 本来であれば、自身の支持基盤である農業者に大打撃を与える可能性がある法案です。与党の農水族の国会議員にとって一大事のはずですが、多くの議員は『首相官邸が決めたことだから』と及び腰になっています。皆さんには与野党限らず、地元の国会議員のところにこの問題が大変大事な問題なので、『慎重に審議をしてほしい』と要望を出すことをお願いしたいです。そのためにはこの映画でまず、タネとは何かを知るきっかけになっていただければと思います」

 山田氏らは上映料金1万円で自主上映会の主催者を募っている。連絡先は一般社団法人心士不二、03(5211)6880。

(文=編集部)

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