安倍政権、米の安定供給を放棄…専門家の議論なし、突然の種子法廃止が波紋
これはまさに唐突で不可解な、そして先の見通しなしに断行された愚かな振る舞いで、将来に禍根を残すといえるのではないか――。
4月14日、民間の参入を阻害しているとして、稲、麦、大豆の種子生産を都道府県に義務付ける主要農作物種子法の廃止法が国会で成立。来年4月1日に同種子法が廃止されることになった。
この“廃止劇”の第一の問題は、もっとも重要である廃止理由や経緯が明確ではない点にある。つまり物事を進める上で不可欠な「5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)」が不明なのだ。ここでは、何がなんでも民間での種子開発を推進したいという意図に基づく強引さが際立ち、後味の悪さだけが残った。
そして最大の問題は、同種子法廃止によって、消費者の生存に必要な稲、麦、大豆の安定的供給を図るための、優良種子の生産・普及に支障をきたしかねないという点にある。さらに、外資系企業参入や遺伝子組み換え稲などの登場で、食料安全保障の根幹、つまり食の安心・安全の基礎が揺らぐリスクも高まる。これは国民・農家の財産であり、数少ない遺伝資源の確保という国の責務を放棄するという点からみても、極めて無責任な態度ではないか。今回はその問題を整理して報告したい。
地域品種の存続が危機に
廃止法案成立前の4月10日、東京・永田町の国会前での種子法廃止反対のデモに続き、衆議院第一議員会館で「主要農作物種子法廃止で日本はどう変わるか」と題して、講演会・意見交換会(主催:全国有機農業推進協議会、日本の種子<たね>を守る有志の会)が開かれ、200人ほどが参加した。
冒頭、その呼びかけ人の一人、山田正彦・元農林水産大臣(弁護士)は、次のように危機感を露わにした。
「(政府は、)廃止法案をいきなり出してきた。種子法が廃止されれば、モンサントなど外資系の参入や遺伝子組み換え稲などの問題で、大変なことになりかねない」
講演会で講師の西川芳昭・龍谷大学経済学部教授は「種子が消えれば、食べ物も消える。そして君も」との研究者【編注1】の言葉を紹介し、こう強調した。
「遺伝資源は人類共通の遺産であり、国民が何を食べ、農家が何をつくるかを決める食料主権は、基本的人権のひとつだ。ところが、種子法廃止に当たり、食料主権についてはまったく議論されていない」
「種子法で、地域に合う稲などの品種が育成されてきたが、地域品種の種子生産は量が限られ、民間企業の参入は収益上、考えにくい。種子法廃止で都道府県が関与しなければ、地域品種が存続の危機に直面する」