安い食べ物の「正体」…レトルト食品を温めて出すだけの飲食店に行く愚かさ
減収減益が続く某大手百貨店のトップが、突然辞任するという事態になりました。外国人観光客のいわゆる「爆買い」が消滅し、そのブームに支えられていた売り上げが激減したことが低迷の大きな要因です。ブームが消えたときに備えて、対策を打っていなければ当然、経営に支障を来すことになります。
代わって新たにトップに就任したのは、彼が食品部長時代に、筆者が大変お世話になった人です。温厚な人柄に加えて、先まで見通して戦略を立てられる有能さを併せ持っています。そのため、期待するところが大きいのですが、彼が難しい舵取りを強いられることは間違いないでしょう。
1990年代初頭にバブルが崩壊して以来、百貨店の売り上げ低迷が叫ばれ、かれこれ20年以上になりますが、その間、「爆買い」などの特殊要因を除くと売り上げが伸びたのは、消費税率改定直前の「駆け込み需要」くらいしかありませんでした。その時は、確かに住関連商品などを中心に売り上げの増加率は30%以上という高い上昇幅を示しましたが、それも短期的で、税率が改定されると反動によって大幅な下落に転じました。
コンビニエンスストア業界に目を転じてみても、2011年に起きた東日本大震災の時の、いわば特殊事例のような状況を除けば、決して好調とはいえず、既存店の売り上げを伸ばすのではなく、新店舗を増やすことによる売り上げの積み増しに頼っているといえます。いわば、店舗数を増やすことで前進しているだけで、「歩みを止めたら後退する」「走り続けなければ崩れる」といった危険な状況なのかもしれません。
要するに、「モノが売れない時代」になってきているのです。食という分野に限ったことではありませんが、単に売り上げだけを延ばそうとしても、もう無理なのです。筆者は、飲食の業界で、まざまざとその現実を見せつけられています。「良いモノをつくっていれば、お客は必ずそれをわかってくれ、いつかは売れる日が来る」という考えは、儚い幻想にすぎません。販売する側も、買う側も、新たな消費の形態に移行しつつあるということを意識しなければならないのです。
消費者と顧客の決定的な違い
モノを購入するということは、一種の投票行為ですから、そのモノを製造しているメーカーや、それを販売している企業に対するロイヤリティ(忠誠心)を表しているともいえます。メーカーや販売会社は、購入する人のロイヤリティに誠実に応えているかどうかが問われていると思います。
これまでのように、マスメディアを使っての大規模な広告宣伝が功を奏し、大量に生産したモノを大量に販売できた時代は終焉を迎えたといっていいでしょう。かつては、単に消費者を増やすということに主眼を置いた戦略でした。効率だけを重視して売り上げを伸ばそうとする戦略といえます。
しかし、すべての客が単なる“消費者”であってほしいという考え方は、すでに手垢のついた古いものだと認識するならば、戦略を変えなければならない時に来ていることに気づくでしょう。従来の販売方式の究極は、人間性のかけらもない“ワンストップ型の店舗”です。そこに人間的な交流は期待できません。販売側は、できるだけ消費者からクレームがこないような仕組みをつくり、あらゆるクレームへの対応マニュアルを備えて待ち構えるというスタイルです。それがもはや、限界にきたのです。