安い食べ物の「正体」…レトルト食品を温めて出すだけの飲食店に行く愚かさ
飲食業界でいえば、客と無機的なやり取りしかできない店は、売り上げが伸ばせなくなっています。すなわち、マニュアルに書かれた、通り一遍の応対が通用しなくなっているのです。大した技術もないスタッフが厨房に入り、レトルト食品を湯煎や電子レンジで温めるだけの食事を平気で出すような店は、これからどんどん淘汰されるでしょう。また、そうあるべきだと筆者は思います。
ここで大事なのは、消費者と顧客の違いです。商品やサービスを提供する側も、される側も、消費者と顧客の違いを考えなければなりません。ファストフードやファミレス、チェーン店の居酒屋を利用するということは、自ら顧客となることを放棄し、消費者という立場を選択するのにほかなりません。店側が発する、「顧客ではなく消費者でいてほしい」というメッセージを受け入れ、その企業に一票を投じる行為といえます。
そしてそれは、店側が客を単なる消費者として扱うのか、はたまた大事な顧客として接するのかという違いでもあります。カードにポイントを貯める行為は、顧客になることとは本質的に違います。ポイントカードへの加盟店が増え、ポイントを使える範囲が広くなったとしても、その企業グループに対する客のロイヤリティが高まるとはいえないのです。
安心して食事ができるようになるために
食という分野は、極めて実生活に密着した身近なものであるからこそ影響も大きく、単なる消費者であるか顧客となるかについて、明確に差が出ます。
このところ筆者がひしひしと感じているのは、私たちは食に他人とのつながりを求め、意味のある人間関係を見いだそうとしているのではないかということです。スーパーマーケットをはしごして、1円でも安い食べ物を買い求めるという方々は永遠に存在すると思いますが、軸足は少し違うところに移ってきていると強く感じるのです。筆者がここ数年続けてきた、生産者とのつながりを大事にし、顧客の支援の下に生産物を直送するという小さな事業や、昨年末に上梓した『「安い食べ物」には何かがある』(三笠書房刊)に注目が集まるのは、偶然ではないと思っています。
高齢化が進む社会においては、飲食店や小売店など、生活の多くの部分を占める食にまつわる産業は、明らかにほかの産業に先んじて変革が求められます。消費者を増やすという単純な発想から離れ、顧客を育て、顧客と共に成長・発展していくという発想を持たない限り、その企業の未来はないといっても過言ではありません。
このたび、某大手百貨店のトップに就任した知人には、そのことを理解したうえで一刻も早く窮地を脱して業績を伸ばしてもらいたいと思うと同時に、親しくしていただいている各飲食店経営者の方々にも、ご理解を賜りたいと切に願います。そして、私たち自身が消費者という立場を捨て去り、自らを顧客と位置付ける勇気を持たなければいけません。それができてはじめて食の安全が確立でき、私たちが本当に安心して食卓を囲むことができるようになると思うからです。
(文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事)