
「新型コロナウイルス(以下、コロナ)のワクチンが出来たら、打つべきでしょうか」
最近、外来診療をしていると、このような質問を受けることが増えた。コロナの感染が拡大し、重症者病床が逼迫しつつある状況で、多くの高齢者が不安を抱いている。最近、画期的なコロナワクチンが開発されたが、安全性が証明されたわけではないらしい。海外では接種が始まっているようだが、どうしていいかわからない。患者の悩みは、こんな感じだ。
では、どうすればいいだろうか。本稿では、この問題を論じたい。結論から言うと、具体個別の対応が必要だ。
まずは、ワクチン開発の現状だ。11月9日、米ファイザー・独ビオンテック連合が約4万3,000人を対象とした第3相臨床試験の中間解析で90%の有効性を報告したのを皮切りに、11月16日には米モデルナが94%、11月23日には英アストラゼネカが70%の有効性を示す中間解析結果を公表した。これはワクチンを打っておけば、感染確率を70~90%程度減らすことができることを意味する。
一連の中間解析結果は、専門家の予想を大きく上回るものだった。知人の製薬企業社員は「誰もこんなに効くと思っていなかったでしょう」と言う。米食品医薬品局(FDA)や世界保健機関(WHO)がコロナワクチンの有効性の基準として設定していたのは50%だった。
何が奏功したのだろうか。それは遺伝子工学技術を活用したことだ。従来のワクチンは、ウイルスを鶏卵や細胞などで培養し、その後、その一部あるいは不活化したもの、あるいは弱毒化したものを接種していた。つまり、ウイルスの病原体成分を満遍なく投与して、免疫誘導を試みていた。
コロナワクチンは違う。ファイザー・ビオンテックとモデルナのワクチンはmRNAワクチンだ。これはmRNAウイルスであるコロナの遺伝子の一部、具体的にはスパイクたんぱく質をコードする部分を注射して、体内でワクチン由来のスパイク蛋白質を発現させ、免疫を誘導させる。体内で免疫を誘導しそうなたんぱく質に絞って、体内で大量に発現させる作戦が奏功したことになる。
mRNAワクチンの問題は体内で不安定なことだ。ファイザー・ビオンテックとモデルナは、mRNAを脂質ナノ粒子にくるむことで、この問題を解決した。一方、アストラゼネカはウイルスベクター(運び手)、ヒトに対しては弱毒性のチンパンジーの風邪ウイルス(アデノウイルス)を利用している。このウイルスが接種された人の細胞に感染すると、細胞内で導入された遺伝子がスパイクたんぱく質を産生する。あとはmRNAワクチンと同じだ。
mRNAワクチンやウイルスベクターワクチンは、コロナのゲノム配列さえわかれば設計は容易だ。手間のかかるウイルス培養を必要としないため、安価に大量生産できる。2021年中にファイザー・ビオンテックは13億回分、モデルナは5~10億回分、アストラゼネカは20億回分(10億回分は2020年内)を供給できるという。コロナワクチンは通常2回接種を要するため、この4社で最大30億人分のワクチンが提供可能だ。こんなことは従来型のワクチン製造法では考えられない。