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三菱UFJは貸金庫窃取、野村証券は顧客宅に放火、東証と金融庁は不正取引…

文=Business Journal編集部、協力=森岡英樹/金融ジャーナリスト
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三菱UFJ銀行の店舗(※本稿内容の店舗とは無関係です)

 三菱UFJ銀行の店頭業務責任者(すでに懲戒解雇)が顧客約60人の貸金庫から計十数億円に上る資産を窃取するという事件が発生した。セキュリティ管理が厳格なメガバンクの貸金庫で、なぜそのような事態が起きたのかが注目されている。7月には野村証券の元社員が顧客の自宅で食事をもちかけ、食べ物に薬物を混入させて放火したうえで現金約2600万円を奪うという事件が発生したほか、10月には東京証券取引所の社員によるインサイダー取引の疑いが発覚。さらには同月には金融庁職員(出向中の裁判官)によるインサイダー取引の疑いが公になるなど、コンプライアンスに厳しいはずの金融業界で職員による不正がたて続けに起きている。その背景について専門家は「効率化による人員減少や中途採用者の増加、社員の勤務先への帰属意識の低下など複合的な要因が影響している」と指摘する。

 三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスが合併して2005年に発足した三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)。商業銀行、信託銀行、証券会社、カード会社、消費者金融会社、資産運用会社などを傘下に持つ総合金融グループであり、連結総資産は約404兆円(2024年3月末時点)を誇る国内1位の金融グループ。24年3月期の純利益は過去最高の1兆4907億円で国内金融グループ1位であり、同期決算の純利益ベースでは1位のトヨタ自動車に次いで国内2位。中核の三菱UFJ銀行の預金残高は国内トップの約200兆円と名実ともに国内トップバンクの座にある。

信頼を逆手に取るかたちで悪事をはたらく

 そんな同行で信じられない事件が起きた。支店の店頭業務責任者である行員が、練馬支店(22年に統合された旧江古田支店を含む)と玉川支店の貸金庫を開けて、顧客の資産を窃取。20年4月~24年10月の約4年半の間に計約十数億円に上る資産を窃取していた。同行はすでにこの行員を懲戒解雇している。同行は2支店以外の全店の貸金庫について同様の被害が発生していないかの緊急点検を実施し、同様の被害は確認されなかった。また、同様の方法による被害が発生しないよう必要な手当を実施済みだという。

 同行は、貸金庫は顧客に無断で開扉することができないよう厳格な管理ルールを定め、第三者による定期チェックの仕組みも導入していると説明しているが、一般的に現在では銀行支店の貸金庫は、顧客がカードキーと暗証番号を使って複数のセキュリティチェックポイントを通過し、個室で貸金庫を取り寄せ、保有するキーで開ける形態がとられている。支店内にもマスターキーが保管されているが、行員であっても顧客に無断で貸金庫を開けることはできない。

 金融ジャーナリストの森岡英樹氏はいう。

「銀行は外部にファックスを送る際に二重チェックが必要であったりと、業務プロセス・ルールが非常に厳格に定められており、顧客の貸金庫から資産を窃取するという行為は、たとえ店頭業務責任者に複数の協力者が行内にいたとしても、かなり難しいです。現在は内部で不祥事があった際に企業は隠すよりも公表するという流れになっており、今回も同行が自発的に公表したかたちになりましたが、他にも同様の事例がしばしば起きているのかといわれれば、起きていないと思います。金融庁による検査に加えて、各銀行は行内でも自主的な検査を定期的に行っており、行員が不正行為に走りにくい環境となっています。

 可能性として考えられるのは、この行員が顧客から厚い信頼を得ていて、『すべて自分に任せてください』などと言って貸金庫の鍵などをすべて預かっており、それを使って窃取したという形態ですが、それも現実的にはハードルが高いでしょう。銀行預金をはじめ、顧客の資産を行員が窃取するというのは非常に困難ではあるものの、悪意を持った人間が抜け道をついてやろうと思えば、それを銀行が100%防ぐことはできないでしょう。銀行は社会からの高い信頼に基づいて運営されている存在なので、その信頼を逆手に取るかたちで悪事をはたらこうとすれば、できてしまうケースはあるかもしれません」

銀行への帰属意識が薄れてモラルが低下

 本件や野村證券の事案のほか、10月には金融庁に出向中の裁判官が業務で知った企業の内部情報をもとに株取引を繰り返すインサイダー取引を行っていた疑いで、証券取引等監視委員会が金融商品取引法違反容疑で調査を行っていることが発覚。同月には、東京証券取引所の社員が未公表のTOB(株式公開買い付け)情報を公表前に親族に伝え、親族が不正に株取引を行っていたとして監視委が調査をしていることが明らかとなった。金融業界でこうした不正は増えているのか。

「以前と比べて金融機関の職員による重大な犯罪・不正行為は増えているという印象があります。まず、業務の効率化に伴い一支店あたりの人員は減少して一人当たりの業務量が増えており、加えて中途採用で入行してくる人も増え、転職がより当たり前になっているため、一人ひとりの行員の銀行への帰属意識が薄れてモラルが低下しているという背景があると感じます。大手銀行の利益が過去最高水準になっている今、金利も上昇して稼げる環境ができつつあり、銀行で働く行員の業務はますます忙しくなっていくでしょうから、不正行為が発生する余地が大きくなりつつあるといえるのではないでしょうか。銀行の業務ルールや検査は基本的には性善説に立っており、その抜け道をつくような不正が増えれば、ルールを大きく見直す必要も出てくるかもしれません」

(文=Business Journal編集部、協力=森岡英樹/金融ジャーナリスト)

森岡英樹/金融ジャーナリスト

森岡英樹/金融ジャーナリスト

1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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