三菱UFJ銀行が顧客企業の事業統合などに関する非公開の情報を、同じグループ傘下の三菱UFJモルガン・スタンレー証券とモルガン・スタンレーMUFG証券に流していたとして、証券取引等監視委員会が3社を行政処分するよう金融庁に勧告する検討に入ったという。7日付け日本経済新聞記事などが伝えている。三菱UFJ銀行が顧客企業に対し、証券2社との取引を条件に貸出金利を優遇することなども提案していたという。日本を代表するメガバンクである三菱UFJ銀行は、なぜ違法行為に走ったのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスが合併して2005年に発足した三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)。商業銀行、信託銀行、証券会社、カード会社、消費者金融会社、資産運用会社などを傘下に持つ総合金融グループであり、連結総資産は約404兆円(2024年3月末時点)を誇る国内1位の金融グループ。24年3月期の純利益は過去最高の1兆4907億円で国内金融グループ1位であり、同期決算の純利益ベースでは1位のトヨタ自動車に次いで国内2位。中核の三菱UFJ銀行の預金残高は国内トップの約200兆円と名実ともに国内トップバンクの座にある。
MUFGはもともと証券会社として三菱UFJ証券を保有していたが、MUFGが08年にグルーバルに展開する米投資銀行のモルガン・スタンレーと資本提携したことを契機に、10年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券とモルガン・スタンレーMUFG証券を発足させた。今年1月には機関投資家向けの日本株セールス業務、コーポレートアクセス、執行業務の一部およびリサーチ業務について三菱UFJモルガン・スタンレー証券からモルガン・スタンレーMUFG証券に譲渡された。両社はそれぞれ事業を展開しているが、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は三菱UFJ証券ホールディングス(HD)傘下で、モルガン・スタンレーMUFG証券は同HDの持ち分法適用会社という位置づけだ。
ファイアーウォール規制が蔑ろに
1993年に施行された金融制度改革法により銀行が業態別子会社形態で証券業務に参入することが可能となり、規制緩和が進められ、現在では同一の金融グループ傘下に銀行と証券会社がぶらさがる形態は多い。一方、金融商品取引法では、顧客情報の適切な管理、利益相反取引の防止、優越的地位の濫用防止などを目的としたファイアーウォール規制が定められており、銀行と証券会社が顧客の承諾なしで非公開情報等を共有することは禁止されている。
「企業にとって事業統合や合併、上場準備など経営戦略上の機微情報が発表前に外部に漏れると、計画が狂うリスクが生じる。また、銀行が知り得た顧客の情報が証券会社にながれ、証券会社がその情報をもとに利益を得ようとして行った取引によって、顧客企業と銀行が不利益を被る可能性もある。よって、ファイアーウォール規制が設けられているが、2年前には金商法の改正で上場企業に関するファイアーウォール規制が緩和されるなど、見直しの動きが進んでいる。そのようななかで、三菱UFJ銀行が勝手に甘い判断をして見切り発車的な行為におよんでしまった可能性もある」(証券会社社員)
銀行のモラルとしてアウト
三菱UFJ銀行は顧客企業に対し、証券2社との取引を条件に貸出金利を優遇することなども提案していたとされ、銀行法と金商法に抵触していた可能性がある。
「この行為は2つの点でまずい。まず、銀行は融資などで顧客企業の生存を左右する力を持つ優先的地位にあり、その地位を利用してグループの証券会社を利用するよう圧力をかけていたことになり、『ウチの証券会社を使ってくれないなら、貴社は損することになりますよ』と脅しているようなもの。法的問題以前に銀行のモラルとしてアウトで、極めて悪質だ。また、銀行は一定の条件を満たせば証券の仲介はできるが、勧誘行為は認められておらず、貸出金利優遇をダシにグループの証券会社の利用を迫るというのは、まさに勧誘行為に該当する」(同)
なぜMUFGは不正に走ったのか。
「旧三菱UFJ証券とモルガン・スタンレーの提携がスタートして10年以上たつが、純利益ベースでは野村ホールディングス、みずほ証券、大和証券に遠くおよばない状況が続いている。背後からは2年前の相場操縦事件の傷が癒えて業績が伸びているSMBC日興証券が迫ってきており、数年以内に抜かれる恐れもある。そうしたなかで、なんとか証券部門の業績を底上げしなければならないという強いプレッシャーが、グループ内で生じていたのではないか」(別の証券会社社員)
(文=Business Journal編集部)