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野村証券の元社員、顧客宅に放火・強盗か…証券会社の自宅訪問営業のリスク

文=Business Journal編集部、協力=森岡英樹/金融ジャーナリスト
野村証券の元社員、顧客宅に放火・強盗か…証券会社の自宅訪問営業のリスクの画像1
野村証券(「Wikipedia」より/Kakidai

 野村証券の元社員が顧客の自宅で食事をもちかけ、食べ物に薬物を混入させて放火したうえで現金約2600万円を奪った疑いが持たれている。広島県警は強盗殺人未遂と現住建造物等放火の容疑で梶原優星容疑者を逮捕した。かつてより減ったものの、証券会社では現在でも自宅訪問営業は広く行われているが、その営業スタイルに潜むリスクはないのか。また、証券会社は富裕層・準富裕層をはじめとする多数の顧客リストを作成・保有しているが、強盗事件の続出が社会問題化するなか、悪意を持った社員が金銭目的で自社の顧客リストを業者に流出させると、事件を誘発してしまう懸念はないのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 被害にあったのは広島市に住む80代の夫婦で、放火に気が付き逃げて無事だった。「FNNプライムオンライン」などの報道によれば、梶原容疑者は業務外で複数の顧客から資金を集めて投資を行っていたが損失を抱えたため、損失を埋めるために犯行に至った疑いがあるという。すでに野村証券は梶原容疑者を懲戒解雇した。

「金融機関の社員は業務で知り得た企業の内部情報などに基づいて個別株の売買などを行うことは法律で禁止されているが、会社の規則で許された範囲で投資を行うことは可能。証券会社にいれば自然と入ってくる情報は一般の人に比べて段違いに多いし、専門的な金融知識も豊富なので、直接的に個別株の売買をしなくても、一般投資家と比べれば有利になる。特に大手である野村は個人としての業績が良ければ20~30代でも数百万円単位のボーナスを得ることもあり、業務外でそれを元手に他の人からも資金を集めてひと儲けしようという発想になってしまうのも無理はない」(証券会社社員)

ウェルスマネジメントへの注力

 今回の事件は対面型の自宅訪問営業を利用したものといえるが、インターネット取引が普及した現在でもこのスタイルの営業が多いのか。金融ジャーナリストの森岡英樹氏はいう。

「現在、金融機関はウェルスマネジメント(個人資産を包括的に管理・運用するサービス)に力を入れており、個別株だけでなく未上場の小型株、複雑な仕組債、金などさまざまな商品の提案をしたり、節税の相談にのったり、ときには『こんな絵画があるんですが買いませんか』といった話までします。こうした話は対面ではないと難しく、対象となる顧客には高齢者や中小企業のオーナーなどが多いため、営業担当者が自宅に訪問するというかたちになります。そしてネット専業の証券会社では手掛けられない分野でもあり、既存の大手証券会社にとってはネット証券会社と差別化が図れて稼げる分野であるため、こうしたプライベートバンク的なサービスに力を入れています」

 証券会社社員はいう。

「地方の土地持ちや高齢者、中小企業経営者などお金を持っている人のなかには対面での会話を好む人が多く、以前より数は減ったものの自宅訪問営業が重要な営業チャネルとなっています。大手もネット証券をやってはいますが、小粒のお客が多いのも実情なのに対し、富裕層は信用してくれると大きな額の取引をぽんと任せてくれるので、営業担当者にとっては効率良く成績を上げられるという旨味があり、大手証券のリテール部門はまだまだ対面営業や電話営業に頼っている面が強いです。ちなみに、さすがに個別宅への飛び込み営業は減りましたが、電話営業での新規顧客開拓というのは今でも結構多いです」

 10月31日付「日本経済新聞」記事によれば、みずほ証券は電話などで顧客に商品提案するダイレクトコンサルティング事業部を立ち上げ、25年度には100人規模にまで拡張する計画だという。

自宅訪問営業のリスク

 今回の事件では、自宅訪問営業のリスクが浮き彫りとなったかたちだが、他にも懸念点はないのか。

「普通の富裕層は資産運用、その上の超富裕層は保有している資産をいかに減らさないかという資産防衛への興味が高いですが、どちらの層が相手であっても、証券会社の営業担当者は『現在どういう資産状況なのか』を把握する必要があります。そうすると顧客側は、タンス預金など表に出せない資産を営業担当者に把握されることになるので、のちのちそれが裏目に出てしまうというリスクはあるかもしれません。また、証券会社ではルール上、特に顧客が高齢者である場合などは十分な判断能力や金融リテラシーを持っているのかをチェックすることになってはいますが、営業の現場でどこまで厳密に行われているのかはわかりません。顧客に認知症の兆候などがある場合は、問題が生じる可能性も出てくるかもしれません」(森岡氏)

 証券会社社員はいう。

「営業担当者が高齢の顧客の自宅を頻繁に訪問して取引をさせ、それを知った顧客の家族からクレームを受けるといったレベルのトラブルは珍しくはないです。大手証券会社だからという理由でコロッと信用してしまい、高リスクの商品を購入して大きな損失を被ってしまうというケースも少なくないです」

 ここ最近、高齢者宅などを狙った強盗事件が相次いでいるが、悪意を持った証券会社社員が金銭目的で自社の顧客リストを業者に流出させ、それが犯罪グループに渡ることで強盗を誘発してしまう懸念はないのか。

「実際にそのような事例があるのかは分かりませんが、証券会社は顧客の預かり資産や納税状況などのデータに基づいて高額な資産を持つ人をリストアップしているので、そのようリストが外部に流出してしまうと、流出させられた人がさまざまな被害を被る懸念はあるでしょう」(森岡氏)

(文=Business Journal編集部、協力=森岡英樹/金融ジャーナリスト)

森岡英樹/金融ジャーナリスト

森岡英樹/金融ジャーナリスト

1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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