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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」

横浜・林市長、コロナ禍でもカジノ建設ゴリ押し…住民投票を否決、民意を無視し騙し討ち

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
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中谷一馬衆議院議員

「新型コロナウイルスの感染が拡大し、終息の見通しが立たないなかで、不要不急の三密事業であるカジノ誘致を民意に反して強行するなんてどうかしている。今、優先すべきは、どう考えても“カジノ誘致”より“コロナ対策”だろう」――。横浜市港北区・都筑区を中心に活動する立憲民主党の中谷一馬衆議院議員はこう憤る。

 横浜市会は8日の臨時会本会議で、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致の賛否を問う住民投票の実施条例案をたった3日の審議で否決した。最大会派「自民党・無所属の会」と「公明党」が住⺠投票には反対し、市はこれまで通り誘致に向けた準備を進めていく方針だという。

反対世論多数も騙し討ち

 カジノ建設の是非を住民投票に問う動きが出ること自体、反対が多かったということだ。2017年7月の横浜市長選当時、共同通信社の出口調査の結果では、61.5%の人が誘致に反対で、誘致に賛成の人はわずか16.3%だった。横浜市が2018年に募集したパブリックコメントでも94%が否定的で、市⺠の反対多数は明らかだった。

 3期目の当選がかかっていた林文子市長は、当初は「持続的な発展のために必要」と前向きな姿勢を示していたものの、地元企業グループや市民団体からの反発を受け、2017年7月の市長選を前に「白紙状態」であることを宣言。選挙での争点化を避けて、当選を果たした。

 その後、林氏は議会で「白紙から態度を決める場合は市民の声を聞く」と明言した。それにもかかわらず、2019年4月の統一地方選挙、2019年7月の参議院議員選挙を終えた直後の2019年8⽉、それまでカジノの争点化を避け続けていた政府与党と共に、騙し討ちの形でIR誘致の意向を表明した。

「林氏による表明は、2019年の国会においてカジノ管理委員会が設置されるという状況にせかされ、横浜市民に対して十分な説明責任を果たさないまま、カジノ誘致を強行しようとする不誠実極まりないものでした。私は政治家として、林⽒が平然と市⺠を欺き、嘘をつき続けていることに対して⼼の底から軽蔑します。⼀横浜市⺠としても、市⺠の切実な想いを露⾻に無視をして、⼀部の利権者の意向を尊重しようする姿勢に怒りを禁じ得ません」(中谷氏)

地元民意より菅首相の顔色ばかり窺う林市長

 危機感を持った多くの市民により市民団体「カジノの是非を決める横浜市民の会」が結成され、IR誘致の賛否を問う住民投票を目指し、住民投票条例制定の直接請求に必要な約6万2500人分の3倍以上となる19万3193筆の署名を集めることに成功した。これは、横浜市が明治22年(1889年)に市制施行されてから132年で最多の署名数だ。署名の提出を受けて林氏は横浜市会に住民投票条例案を提出した。冒頭の市会本会議での否決は、この流れの中のことだ。

 この約20万の署名が集まった住民投票実施について、林氏は「意義を見出しがたい」との反対意見を述べた上で、住民投票が実現し反対が多数となったら誘致を撤回する考えを示していた。中谷氏は「したたかだな」と感じたという。

「制度的には林氏がIRを誘致しないと決断すれば中止できます。にもかかわらず、市会に判断をゆだねる格好をとった。この形にすれば、投票が行われるかどうかは横浜市民に選ばれた市議からなる市会の責任ということにできる。今の市会の多数派はカジノ推進派の自公なので、否決されれば、“自分はあくまで住民投票が行われて反対多数だったら止めるつもりだったんですけど、議会でそう決まったので仕方ないですね”という体で、市会に責任転嫁しながらIR誘致を強行できるというわけです。市民の声を聞くと言っていた林氏が署名に現れた反対の民意を受け止めることをせずに、菅義偉首相など政権与党の顔色ばかり見ている。市民の軽視も甚だしい」

 菅氏は地元横浜選出で、市会議員時代から「影の市長」として市政を牛耳ってきた。林氏との関係も密接で、昨年9月の首相就任時には菅氏に「期待することも大きい」とのコメントを出している。これまで選挙協⼒を存分に受けてきた林⽒が菅⽒に頭が上がらないのは言うまでもない。

ハマのドンもお怒り

 19年の統一地方選挙で選挙公報にカジノ誘致の賛成を示して当選した横浜市会議員は、86人中ただの1人もいない。すなわち、自民党・公明党の議員は選挙の際には当確に影響が出そうなカジノ誘致という最重要テーマへの態度を隠した上に、住民投票でフェアに決めることすら拒否をした。こうした暴挙は、市民の代表である議員としての自覚と誠実さは皆無であるといわざるを得ない。

「約20万もの反対署名が集まった以上、市⻑も議会も本来は真摯に受け⽌め、公平公正に対応すべき事案です。そもそもカジノ誘致はギャンブル依存症の問題だけでなく、政権与党が強調している経済効果もカジノ関係事業者が“こんなに儲かりまっせ”と都合の良く切り取った情報を喧伝しているものであり、マイナスの経済効果には全く触れられていません。

 現に韓国では、2兆円のギャンブル産業の売り上げに対して、実体経済の生産性低下などにより8兆円の社会的コストがかかっていることが大問題になっています。国際的に見ても、コロナ禍のニューノーマルに対応したオンライン・ゲーミングが主流となる時代において、旧来型の三密カジノは壊滅状態。コロナ禍の対応が最優先に求められるなかで、カジノ誘致に無駄な予算や人的リソースを投じるのは明らかにおかしい」(中谷氏)

 今回の住民投票否決を受けて、横浜市へのカジノ誘致は8月の市長選が天王山となりそうだ。かつては菅氏を手厚く後援した地元有力者で「ハマのドン」こと藤木幸夫横浜港ハーバーリゾート協会会長は、昨年末の会合でカジノ絶対反対の立場を改めて強調し、「自民党は全員アウト。私が落とします」とIR誘致を推進する市長、議員を落選させると言明した。林氏は四選に向けて出馬する意向を表明してはいないが、菅氏のおひざ元でのIR誘致がかかった市長選だけに注目を呼ぶことは間違いない。

コロナより博打の菅政権

 菅氏は昨年末、IRの整備に向けた基本方針を決定した。コロナ感染者が全国的に増加した時期だけに、「コロナより博打か!」などとネット上で批判が相次いだ。IR法案⾃体、審議⾃体が異常に短く、法案成⽴を仕切った秋元司衆議が収賄などの容疑で逮捕・起訴された「いわくつきの案件」だということは周知の通りだ。かつて横浜進出を狙っていたカジノ⼤⼿のラスベガス・サンズも撤退を表明している。

 菅氏は推進の旗を振ってきただけに、なんとしてもIR誘致にこぎつけたい思惑があるのは明らかだが、もともと反対が強かった上にIRを取り巻く情勢は激変している。コロナ対応の不備から支持率低迷が続く菅氏だけに、ゴリ押しすればするほど政権の支持率は低下する一方だろう。菅氏にはぜひカジノ誘致の再考をお願いしたいものである。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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