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藤和彦「日本と世界の先を読む」

中国、日本のバブル崩壊直前と酷似…出生数4割減で少子化が深刻、大量就職難民の懸念

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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「Getty Images」より

中国で言論の統制や人権の抑圧が行われていることは事実だが、新型コロナウイルスの流行を抑え込み、コロナ経済危機の克服にも成功したことは率直に認めなければならない」

 2月17日付ニューズウィークはこのように報じたが、コロナ禍で中国が「ひとり勝ち」の様相を呈しているのは事実である。2028年には経済規模が米国を追い抜き世界第1位となると見込まれる中国だが、死角はないのだろうか。

 中国公安部は2月8日、昨年1年間に公安機関に出生が届けられた新生児の数が1004万人だったことを明らかにしたが、この数字は驚きをもって受け止められた。19年に比べて460万人以上、比率にして32%も新生児の数が減ってしまったからである。コロナ禍の影響で世界各地で出生数が減少していることは1月22日付コラムで紹介したが、32%の減少とは驚きである。日本は2%減、台湾は7%減、最もコロナ被害が大きいとされるイタリアでは3%減にとどまっている。

 中国の出生数の減少は昨年だけの話ではない。いわゆる「一人っ子政策」が15年に廃止されたが、16年以降も出生数の減少傾向が続いた。16年に1786万人だった出生数は、「一人っ子政策」廃止後の5年間で44%も激減してしまった。

 昨年の出生数が激減した理由について、中国の専門家はコロナ禍以外のさまざまな要因を論じているが、異口同音に指摘しているのは住宅コストの高騰である。

 中国では20年以上にわたって続いた不動産バブルのせいで、都市部の住宅価格は普通の人々の手が届かないほどの高値になってしまった。中国の場合、独身者が賃貸アパートに住むことは許されても、結婚して賃貸アパートに住み続けることは社会的通念ではほとんどあり得ないとされている(2月16日付「現代ビジネス」)。このため、新婚夫婦はマンションを購入するために多額の住宅ローンを組まざるを得ないが、月収に占める住宅ローンの返済額は5割に達しているという。昨年11月に実施された調査によれば、3分の1が「高い住宅費が2人目の子供を持つことを拒む原因になっている」と回答している。

 都市部の夫婦の生活を大きく圧迫し、彼らに子供を産む意欲を失わせているというわけである。人口統計学者は「『二人っ子政策』の効果が現れるまでには15年を要する可能性がある」と指摘しているが、このような悠長なことがいっていられる状況なのだろうか。

政府、「住宅コスト」抑制へ

 出生数の激減がもたらす少子高齢化の急激な進行は、21世紀に入ってから続いてきた中国の高度成長を終焉させ、世界の覇権国となる夢を奪ってしまうことになりかねない。目先の経済成長のみを重視してきた長年のツケが「少子化」という深刻な現象をもたらしていることに危機感を持った政府は、「住宅コスト」の抑制という重い課題に取り組もうとし始めている。

 中国の金融監督当局は昨年12月31日、「21年1月から銀行の住宅ローンや不動産企業への融資に総量規制を設ける」と発表した。中国でもコロナ禍に苦しむ中小企業を支援するための金融支援を拡大したが、その副作用で投機マネーが不動産市場に流れ込み、大都市を中心にマンション価格が高騰した。

 昨年12月に開かれた中国共産党の経済分野における最重要会議である中央経済工作会議では「不動産バブルは突出した問題である」と位置づけられた。不動産市場の安定に向けて中国人民銀行は、不動産開発業者の負債規模に応じて新規の銀行融資を制限する資本調達規制を全面適用する方針である。

 中国のこのような動きについて、「バブルが爛熟状態での総量規制導入は、30年前の日本の二の舞に、なるかもしれない」との見方が出ている(2月10日付ニュースソクラ)。バブル期の1990年3月末に実施された日本の総量規制は、「金融機関の規模に関係なく、不動産向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑える」という内容だった。これにより翌年地価が弱含みになり、91年12月に規制は解除されたが、解除後も地価下落は止まらず、総量規制が「地価バブル崩壊」の引き金となったと評された。民間債務の対GDP比率が200%、高齢化率が12%を超えた中国のマクロ状況は、30年前の日本と酷似している。

 習近平国家主席は1月29日「中国は『ブラックスワン』や『灰色のサイ』のような事態に備える必要がある」との考えを示した。「ブラックスワン」「灰色のサイ」とは、高い確率で深刻な問題を引き起こすと考えられるにもかかわらず、軽視されがちなリスクのことを意味する。習氏は不動産バブルが崩壊するリスクがあっても、少子化を食い止めるための手立てを強力に講じることを覚悟したのかもしれない。

デフォルト急増の懸念

 しかし不動産バブルが崩壊すれば、コロナ禍で不動産頼みの傾向を強める地方財政に致命的な打撃を与える可能性がある。金融システムで資金需給が逼迫しつつある中国では、今年3月から4月にかけて4000億ドル以上の社債(人民元建て)が償還を迎えることから、今後市場でのデフォルトが急増するとの懸念が強まっている。

 30年前の日本では、地価崩壊が戦後最大の金融危機を招いたが、中国でも金融危機が発生する可能性は排除できない。経済が長期にわたり低迷することになれば、日本で大量の就職難民が生じたように、過去最高人数を更新し続ける中国の大学卒業生の就職に甚大な悪影響を与え、深刻な社会問題になることだろう。

 中国の政治学者は今年2月、「米国は大英帝国崩壊のシナリオを踏襲することになる」とする論考を独誌「シュピーゲル」に投稿したが、長期的な国力を左右する人口動態からみれば、中国が圧倒的に不利であるといわざるを得ないのである。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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