
東芝が英投資ファンド、CVCキャピタル・パートナーズの買収提案を拒否する。中堅幹部が取引銀行に買収案を拒否する方針を伝えた上で「CVCには融資しないでほしい」と非公式に要請した。CVCは2兆円を超える買収に乗り出すにあたって、大手銀行の融資や日本政策投資銀行、官民ファンド、産業革新投資機構の協力を想定していた。しかし、政投銀と産業革新投資機構は敵対的買収提案には否定的だ。
永山治取締役会議長(中外製薬名誉会長)もCVCの買収提案には反対している。車谷社長が事実上解任されたため、CVCは詳細な買収案の提示を保留した。CVCは東芝経営陣の賛同と、あわよくば日本政府の黙認を買収が成功するための必要十分条件としていたフシがある。この虫の良いシナリオは崩れ、「CVCは買収提案を取り下げることになるだろう」(M&Aに詳しい外資系証券会社のアナリスト)と見られている。
M&A業界には、「(車谷氏が)永山取締役会議長の底力を見誤った」という説が流布している。4月14日、昼過ぎに経営トップの交代を発表する東芝の記者会見がオンライン形式で開かれた。綱川智氏が社長兼CEOに復帰したことには既視感しかなかったが、永山氏が「CVCの買収提案に冷ややかな態度を見せたこと」と、「綱川社長がワンポイントで早期に交代する可能性があることを示唆したこと」から、東芝のM&Aの行方に、関係者は「一定の方向性を見いだした」(前出のアナリスト)。
永山氏は中外製薬の社長兼CEOとしてスイス製薬大手ロシュの傘下入りを主導した。経営の独立性を保ちつつ、メガファーマのロシュとの協力体制を確立。中外製薬の株価が1万円を超える布石をつくったと高く評価されている。2013年からはソニーの取締役会議長を務め、平井一夫社長兼CEO(当時)をバックアップした。2020年に東芝入り。昨年7月の定時株主総会で永山氏の取締役選任議案は98%の賛成で承認された。
取締役会議長であり、社長の任免を発議する指名委員会の委員長を兼務している。ちなみに車谷氏の賛成票はわずか57%。“物言う株主”が軒並み「ノー」を突きつけた。
買収提案が続々というのはフィクションか
CVCを皮切りにファンドが東芝株に群がったと報じられた。米投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、カナダを本拠とする投資ファンド、ブルックフィールド・アセット・マネジメントなどが東芝の買収を検討していると海外メディアが相次いで速報した。香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが東芝株の「適正価格は1株あたり6200円超」と主張する内容の書簡を送付したことも判明した。東芝に群がるファンド勢が狙っているのは、半導体メモリ大手、キオクシアホールディングス(HD)である。キオクシアは米国の半導体大手2社からそれぞれ買収提案を受けた。