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藤和彦「日本と世界の先を読む」

“座礁資産”化する原油、需要減退で価格暴落の懸念…サウジ、宿敵イランに助け求める

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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サウジアラビアの首都リヤド(「Getty Images」より)

 原油需要に関する強気の見方が強まり、原油価格はこのところ堅調に推移している(1バレル=60ドル台前半)。世界最大の消費国である米国の石油製品需要は節目の日量2000万バレルを上回った。ガソリン需要も昨年8月の水準にまで上昇し、航空機向け需要も回復しつつある。

 国際エネルギー機関(IEA)も4月14日、「ワクチン接種が加速し世界経済は改善していることから、今年の世界の原油需要は前年に比べて570万バレル増加する見通し」との見方を示した。IEAはさらに「下期には世界の石油需給が均衡し、需要を満たすために日量200万バレルの増産が必要となる可能性がある」と指摘している。

 しかし、原油需要についての中長期的な展望は芳しくない。IEAは「世界の原油需要がコロナ前(2019年)の水準である日量1億バレルを超えるのは2023年になるが、ガソリン需要は2019年の水準に戻らない可能性がある」と予測している。コロナ前は「世界の原油需要のピークは2030年頃になる」とされていたが、「そのピークが早まる」との予想が相次いでいる(4月10日付日本経済新聞)。

 原油をめぐる環境が悪化している背景に、気候変動問題への危機意識の国際的な高まりがあることはいうまでもない。トランプ前政権とは異なり、バイデン政権は22日から気候変動サミットを主催するなど極めて前向きである。バイデン政権は自らが提案したインフラ投資計画の財源として、化石燃料企業への助成を廃止する計画(今後10年間で350億ドル超の規模)を示している。

 世界の投資家の間では、「原油などの化石燃料は今後『座礁資産』となる可能性が高い」との見方が広まっている。座礁資産とは、社会の環境が激変することにより、価値が大きく毀損する資産のことを指す。化石燃料は、二酸化炭素排出量の大幅削減を余儀なくされる状況になると資産価値が大きく下がると考えられているのである。

 英蘭石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルは15日「今後数十年で温室効果ガス排出削減の動きが進むものの、自社が保有する原油・天然ガス埋蔵量の大半は未開発に終わることはなく、2050年までに生産される」との見通しを明らかにして、このような懸念の払拭に努めている。

サウジアラビアのジレンマ

 原油が今後「座礁資産」化するとの見方は、今後の価格動向に影響を与える。英エネルギーコンサルタント会社ウッド・マッケンジーは15日、「各国政府が足並みを揃えて燃料消費削減を推し進めれば、原油価格は2030年までに1バレル=40ドル前後にまで下落する可能性が高い。2050年までには1バレル=10~18ドルにまで下落する可能性がある」とする衝撃的な予測を示している。

 原油価格が今後長期的に下落傾向となれば、世界第4位の輸入国である日本にとっては朗報のはずだが、手放しで喜べる状況ではない。日本の原油輸入の4割を占めているサウジアラビアが苦境に陥ることが予想されるからである。「ビジョン2030」を掲げて脱石油経済を進めようとしているサウジアラビアだが、足元の状況は経済の原油依存がかえって高まるというジレンマに陥っている。

 サウジアラビアにとっての頼みの綱である国営石油会社サウジアラムコの株価が4月に入り下落している。イエメンのシーア派反政府武装組織フーシ派がサウジアラムコの石油施設に対してミサイル・無人機による攻撃を連日のように実施しているからである。

 サウジアラビアによるイエメンへの軍事介入は7年目に入ったが、戦果を挙げるどころか、フーシ派から手痛い反撃を食らう事態が多くなっている。米国の政策転換に乗じてフーシ派は今後予想される和平協議で自らの立場を有利にするため、サウジアラビアに対して攻勢を強めているのである。

 バイデン政権は発足直後からサウジアラビア主導のイエメン内戦への支援を打ち切り、人権問題を理由にサウジアラビアに対する一部の武器売却の凍結を命じている。サウジアラビア側は「フーシ派の攻撃を未然に防いだ」との大本営発表を繰り返してきたが、フーシ派のミサイル・無人機攻撃に対して自国の対空防衛システムがうまく機能していないことから、新たな高性能対空防衛システムを購入すべく欧米諸国に使節団を派遣したとの情報がある。

サウジとイランの接近

 さらにフーシ派の後ろ盾とされるイランにも「助け」を求め始めている。英フィナンシャルタイムズは18日、「激しい対立が続くイランとサウジアラビアが2016年の断交以来初めて直接協議を4月9日に行った」と報じた。イラクのカディミ首相の仲介によりイラクの首都バグダッドで行われた協議の内容は、フーシ派によるサウジへのミサイルや無人機での攻撃についてである。サウジ側は情報機関のトップが出席したとされており、次回の協議も予定されているという。「バイデン政権をあてにできない」と判断したサウジアラビアの苦渋の決断なのだろう。

 バイデン政権は13日、議会に対し「アラブ首長国連邦(UAE)に最新鋭ステルス戦闘機F35や無人攻撃機を含む230億ドルを超える武器を売却する計画を進める」と通知した。サウジアラビアへの対応とは対照的だが、「米国は中東地域での主要な同盟国をサウジアラビアからUAEにスイッチしようとしている」との憶測が生じている(3月22日付OILPRICE)。

 大産油地帯である中東地域で政情が不安定化すれば、「座礁資産」とみなされつつある原油価格が急騰するリスクがある。くれぐれも「油断」は禁物である。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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