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野村直之「AIなんか怖くない!」

「デジタル秘書」化するAI、セキュリティ対策に浸透…メール誤送信防止にも活用

文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員
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「gettyimages」より

 昨年2020年はやむなく中止となった恒例の「Interop Tokyo 2021」が、4月にリアル会場(幕張メッセ)とオンラインで併催されました。実用化されたばかりのインターネットの基盤技術を展示する大がかりなイベントです。ShowNetという名のこの期間専用の高速大容量ネットインフラも提供され、さまざまな実験的なネット環境が提供されています。メタデータ社も出展する100%オンラインの「マーケティング・販促サミット」もVR技術を駆使して5月12-14日に開催ですが、その名の通りインターオペラビリティ(相互運用性)を前世紀から推進してきたInteropはさすがに格上でした。

Interop Tokyo 2021の講演 ~村井純教授の前倒しDXの好機!発言など

 Interopは日本のインターネットを牽引してきたという自負のあるイベントです。筆者が初日の懇親会に参加した年には、森田健作千葉県知事(当時)が「Tokyoの看板ですが千葉県のイベントなのでどうぞよろしく!」と気合いを語っていましたが、中心は、日本のインターネットの父ともいえる、慶応大学・村井純教授です。今回の基調講演ではコロナ禍はDXを20年前倒しに実現する絶好のチャンス!と語りました。

 オンライン講演は、メインのInterop Tokyo 2021が120本、併催のDigital Signage Japanが 19本、Location Business Japanが 18本、APPS(アプリ)Japan 2021が10本となっています。 4月30 日時点では受付ページもまだ残っています。5月12日頃まで視聴可能なようですので、ぜひ眺めてみてください。合計157本の講演動画サムネイルを眺めると、コロナ禍でのテレワークを安全に行うためセキュリティ関連の講演が目立ちます。演題にDX(デジタルトランスフォーメーション)を含む講演が32本、AI(人工知能)を含む講演も8本あります。AIがデジタル社会の基盤に根付いてきたことをうかがわせます。

OK-03      人工知能(AI)が提供するスマートで快適なセキュリティとは? 既存のテクノロジーでは実現できないゼロトラストとゼロタッチの世界

C1-01      経営者にとってのIoT/AI戦略 ~製造業の先端事例~

KA1-02      デジタル&AIが牽引する、0炭素クリーンエネルギーの新たな未来

H1-07      テレビ局におけるAI活用事例

G2-01      WiFiを使った空間検知技術「WirelessAI」について

KB2-05      巨大グローバル企業がエンドポイント対策を自律型AIプラットフォームに切り替えている理由とは?

A2-07      価値を共創するデジタル変革(DX)のための人工知能技術とコミュニティ ~AI for Society 5.0 ~

B3-06      AI×契約書業務で加速するDXとこれからの法務

村井純はDXと世界貢献に不退転の決意を表明

 動画一覧ページのページ内検索で「村井純」と入れてもヒットしません。演題、“Now or Never ~DX:今・やる!~”の一部の文字列で検索してください。“It’s now or never!”という英語の慣用句は、「今という好機を逃せば、これほどのチャンスは2度と来ない」を意味します。煽情的な日本語に訳せば、「のるかそるか、今しかない!」。それを「〜DX: 今・やる!」と、まるでターミネーターかブルドーザーのように「今DXを実現するぞ!」とする村井先生の実績と体躯のイメージにぴったりの副題です。

 最初に、まだインターネットユーザーの大半を日米欧が占めていた西暦2000年に、IT基本法ができて、当時の森喜朗首相が所信表明演説でグローバルな貢献、インターネットの世界的課題の解決を日本が担うと宣言したことを振り返ります。 その後、実行戦術をつくる組織として内閣IT戦略本部ができ、2016年には、データ、コンテンツに目を向けたインターオペラビリティ、デジタルによる経済社会の活性化を企図した官民データ活用推進基本法が制定されました。

 しかし、狙いはよくとも、遅々としてDXは進まず、欧米中国に遅れをとった現状を指す「デジタル敗戦」の責任を落合陽一氏に追及されちゃった、とスライドで示して笑いを取ります。ただ、日本も、下りの速度だけ速い非対称ADSLではなく光(SDSL9をいち早く普及させた実績もあると自負。コロナ禍で一気に当たり前となったテレビ会議について、「動画が家から出るんですよ!」と、実は以前から上りが高速なネットの準備ができていたおかげだと指摘。もちろん、インフラだけでは不十分で、「デジタル敗戦」の反省を踏まえてDXを準備していたところに、Covid-19が来襲。「2020年は2年分のDXが2カ月で実現」という声や、かつて東工大のチームの未来予想である「おうち完結生活」は2040年に登場して2050年に普及としていたのが、2020年にできちゃった、と興奮して語ります。

 過去にうまくいった日本のDXの例として、2011年7月のテレビ放送のアナログ停波をあげました。従来の設備、機器が使えなくなる一斉の強制が良かった面は確かにあるでしょう。これに対して、学校でのオンライン授業が米ニューヨーク州ほどスムーズに立ち上がらなかったのは、準備はできていたけれど、根拠法が「対面と紙またはオンライン」のように選択肢を残してしまったからだと指摘。一斉に切り替える覚悟ながら「誰も置いてきぼりにしない」「北風と太陽でいえば太陽の政策を」「目標年月日をまた決めよう」として、温室効果ガス排出量を2050年に正味で「ゼロ」との首相表明に世界が反応したのを「成功」と評します。

 筆者は、温室効果ガスの正味「ゼロ」については、禁断の老朽技術=原発を担ぎ出す言い訳に使われそうで警戒していますが、それはともかく、デジタル政策2021 基本法提言で再び「インターオペラビリティ」「世界標準制定を担う」とし、デジタル庁の役割を単なる国内DX推進ではなく、人類の健康と夢に責任をもつ「地球省」を自覚すべし、とぶち上げたラストには感服しました。元気が出ます。

道具に徹したAIの素晴らしさ

 さて、AIとITインフラ、基盤技術です。これまで全国各地の講演で、AI=道具という認識を徹底するために、高精細なアップコンバータが深層学習AIの典型的な応用例だと考えてほしい、と言い続けてまいりました。フルHD動画を4K動画などにアップコンバートして、自然で高精細な映像をつくる技術について、拙著『人工知能が変える仕事の未来』の第8章「新サービスの開発が始まる」に書いた内容を少し長いですが引用します。

<AIを用いたサービス、あるいはAI的なサービスの分類です。

①「ご利益・メリットが従来は人間によるサービスからしか得られなかったもの」

②「手法(アルゴリズムのタイプ)が最近流行のAIのもの」

③「機能や入出力が知的な感じがするもの」

・・・ ・・・ ・・・

 ここでは、ディープラーニングを用いた問題解決でありながら、①にも③にもまったく該当しない例として、「アップコンバータ」を挙げてみたいと思います。

 これは、テレビ画面、動画像のアップコンバート、すなわち高解像度化のことです。かつてはDVD画質(SD)をハイビジョン画質(HD)にアップコンバートしたり、リオ五輪の少し前あたりからハイビジョン画質を4K解像度にアップコンバートする高画質テレビが売れています。縦横2倍ずつ、合計4倍の画素数にするのに、ひとつの画素を単純に4つにコピーしてその位置に置くだけでは、輪郭のボケた、いわゆる「眠い」画質になります。輪郭線は、2次微分係数から求まるので、そのあたりだけ4画素の一部だけ明暗のコントラストを付ける、などの数式による方法や、ある範囲でランダムに掻き混ぜてシャープ感を出すなどの手法もあります。

 これに対して、ディープラーニングがかなり自然で良い画質を実現できることがわかってきました(たとえばクラウドで試せるwaifu2x)。生データから特徴を抽出できるだけでなく、より大きなデータを出力層にもってきて学習させることもできるディープラーニングは、原理的には、森羅万象の部分画像の低解像度版と高解像度版のペアを用意し(高解像度版のデータさえ大量に生成できれば、それを縮小した低解像度版は自動的につくれます)、ディープラーニングに学習させることで、高解像度の元の絵が「推定」され、合成される、というわけです。

 まったく知的な感じも人間味もない機能で、ハードウェア、LSIチップが機械的に処理しているのだろう、と思う人が多いですが、こんなところにも最近のAIの手法(アルゴリズム)が応用されているのは興味深いと思います。多彩なAIの応用法があるのであり、基本的には道具にすぎないのだ、という認識を得るのにも好適です>

 深層学習=ディープラーニングは、単純な数式では到底表現できないデータ変換を行うことができます。大量の複雑なパターンの特徴をそのまま捉え、分類名などに変換したり、より大きなデータを生成したりすることができるのです。アップコンバートに限らず、クレジットカードの使用履歴のパターンから、盗難カードの不正利用を推定するなどは、その典型です。やっとセキュリティの話題となりました!

コンテンツセキュリティも重要

 先述のInterop Tokyo 2021の講演で、「OK-03 人工知能(AI)が提供するスマートで快適なセキュリティとは?」と、題名で直接、AIによるセキュリティに触れているものもあります。副題中の「ゼロトラスト」とは、「社内(ネットワーク内)は安全」という前提で境界を守るやり方では守れなくなった現状を踏まえ、「すべてのトラフィックを信頼しないことを前提とし、検査、ログ取得を行う」という【性悪説】のアプローチです。

 どうやって、ネットを出入りする膨大なすべてのやりとり(トラフィック)をチェックするのでしょうか? 量的にも、365日24時間対応しなければならないという意味で、人が全部見ていられるなんてありえません。また、人間は月~金曜の昼間8時間の勤務中も、疲れたり飽きたりして見落としが生じ、一定の基準で絶対ぶれずにチェックし続けたりはできません。そこで、AIの出番です。

 外部からの攻撃、あるいは社内に侵入したマルウェアがトロイの木馬として社内ネットで行動開始したときには、人間の動作に起因するトラフィックとは異なる異常な動きを見せます。パスワードを破るのに辞書を引いたり、ランダムに数千万回トライするなどの攻撃は検出しやすいといえますが、そうなると敵もさるもの引っ掻くもの、巧妙に自然な動きにみせかけようとします。しかし、マルウェアのさまざまな膨大な挙動パターンを学習させたAIなら、人間の管理者が見破れない攻撃も検出し、アラート(警告)を発したり、攻撃を遮断したりすることができます。

 では、メール本文、文章の中身に問題があったらどうでしょうか? これについては、ベイズ推定などの技術で迷惑メールを切り分けることが行われています。精度は100%にはまったく及びませんが、大半のユーザーがお世話にならざるを得ない状況です。いたちごっこが続きますが、今後とも、AIの類で精度向上(取りこぼしなく、また正当なメールを間違えて迷惑メール扱いしない)への努力が求められます。

 メール文章のようなコンテンツをAIにチェックさせるセキュリティ対策は、受信用ばかりではありません。メール送信時に、間違った相手に送信をしないようにするメール誤送信防止にも、自然言語処理が役立つようになってきました。例えば、私が構想してメタデータ社で開発した「5W1H抽出API」を使うと、個人情報を伏字にしたり仮名にしたりするだけでなく、RPAやVBAで簡単なマクロ、スクリプトを書くことにより、メール誤送信防止にも役立てることができます。

「デジタル秘書」化するAI、セキュリティ対策に浸透…メール誤送信防止にも活用の画像2

 図は、マイクロソフトOutlook で新規メールを書いて送信しようとしている画面です。送信ボタンを押すと、宛先中の姓名と、本文の先頭8行以内の姓名を5W1H抽出APIで検出。ここでは、宛先(To:)欄には、松田圭子とあるのに、メール本文先頭では、白石圭子様、となっているのを自動検出し「一致しません。(それでも)送信してもいいですか? はい(Y) いいえ(N) 」というダイアログボックスを表示しています。

 これにより、時にビジネス・メールの誤送信で競合に機密情報を送ったりする取返しのつかない悲劇が起こる確率を激減させることができるでしょう。このような身近なところにも、あたかも「デジタル秘書」のように、AIが浸透し始めています。

野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)

AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員。


1962年生まれ。1984年、東京大学工学部卒業、2002年、理学博士号取得(九州大学)。NECC&C研究所、ジャストシステム、法政大学、リコー勤務をへて、法政大学大学院客員教授。2005年、メタデータ(株)を創業。ビッグデータ分析、ソーシャル活用、各種人工知能応用ソリューションを提供。この間、米マサチューセッツ工科大学(MIT)人工知能研究所客員研究員。MITでは、「人工知能の父」マービン・ミンスキーと一時期同室。同じくMITの言語学者、ノーム・チョムスキーとも議論。ディープラーニングを支えるイメージネット(ImageNet)の基礎となったワードネット(WordNet)の活用研究に携わり、日本の第5世代コンピュータ開発機構ICOTからスピン・オフした知識ベース開発にも参加。日々、様々なソフトウェア開発に従事するとともに、産業、生活、行政、教育など、幅広く社会にAIを活用する問題に深い関心を持つ。 著作など:WordNet: An Electronic Lexical Database,edited by Christiane D. Fellbaum, MIT Press, 1998.(共著)他


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