申込殺到…沖縄電力、住居屋根の太陽光パネルを無償で設置、電気代割引で停電は蓄電利用
余剰電力価格の高騰による発電所を持たない新電力の倒産が相次ぐ中、沖縄電力株式会社(とその関連会社の沖縄新エネ開発株式会社、以下「沖縄電力」と記)が面白い取り組みを始めた。
その名も「かりーるーふ」というサービスだ。太陽光発電は広大な土地が必要になり、電力会社にとっては土地買収が一番のネック。しかし沖縄電力は、太陽光発電をする土地をタダで手に入れる方法を考え出したのだ。
本州の電力会社では、実験的な取り組みは難しいが、沖縄という小回りの利く狭い環境と土地柄を活かした取り組みだ。また2011年の東日本大震災の影響で、日本の電力事情は大きく変わり、思うように二酸化炭素(CO2)の削減が進んでいない。電力各社は「2050年のCO2排出量ゼロ」を目指して「再エネ主力化」(太陽光や風力、水力発電)「火力発電のCO2 排出削減」を掲げており、沖縄電力もその一社だ。CO2削減が進まない原因は、原子力発電所の運転停止により、その代替えとして稼働率の高くなった石炭・石油発電所が影響するところが大きい。
こうして安定した電力の供給を確保しながら、CO2を削減しなければならないという矛盾に囲まれ、電力供給とCO2削減、安価な電力と原発問題の四面楚歌といってもいいだろう。
こんな現状に風穴を開けるかもしれないのが沖縄電力。原子力発電所を持たず、川も少ないため水力発電もない。でも沖縄という狭い地域から、今後日本の電力事情がどのようになるのかを、いろいろな取り組みから見てみよう。
自宅の屋根を電力会社に貸して電気代を安くする「かりーるーふ」のからくり
新築住宅の屋上に太陽光パネルを設置して、発電した電気を電力会社に売って利ざやを得るというブームが起きたのは10年ほど前。現在は売電価格が下がり利益が出ないため、自宅で発電した電力は自宅で使うという方向に切り替わった。しかし、既存の大手電力会社である沖縄電力が打ち出した電力プランは少し違う。
なんとかCO2削減をしたいだけに、太陽光発電の普及は急務。しかし太陽光発電は、広大が土地が必要になるわりには発電量が少ないのだ。逆にいえば、石炭発電所と同等の発電量を確保するためには、その何倍もの土地が必要になり、その土地代が膨大になる。
そこで沖縄電力が考えたのは、「個人宅の屋根をタダで借りる代わりに、電気代を安くします」という「かりーるーふ」というサービスだ。一戸一戸の屋根は小さくても、多くの世帯に協力してもらえれば、土地代なしで巨大な太陽光発電施設を構築できる。太陽光発電に必要なパネルや蓄電池、その他の付帯施設は一切無料で工事費もタダ。その代わりに、発電した電力は無償で電力会社に譲渡してもらうというものだ。
逆に屋根を提供した世帯は、電力を割引価格で購入できるというメリットがある。さらに台風の多い沖縄地方だけに、停電時には自宅の太陽光や蓄電池に溜めてあった電力が使えるため、たとえ停電などが起こっても、自宅の停電用コンセントから電気が取れるというものだ。
沖縄電力の試算によれば、エコキュートやIHコンロに買い替えオール電化なども併用すると、年間約5万円の光熱費の節約になるという(LPガスから切り替えで4人家族を想定)。
人気上々で申し込みを中断中! 個人用とちょっと違う点も
沖縄は台風の通り道のため、本土とは住宅事情が少し違う。本州のような木造の三角屋根を持つ住宅ではなく、コンクリートでできた平たい屋根を持つ家が多い。それゆえ屋根を特に強化することなく、太陽光パネルをしっかり設置ができる。
さらに台風の通り道なので、停電時に電力確保できるという点もあってか、4月サービスインに際して1月末の先行予約をスタートしたところ、申し込みが殺到し、現在予約を中止しているということだ。
なお、一般的な太陽光発電と違い、発電した電力はすべて沖縄電力のものとなるため、室内に発電状況や電力売買の情況を表示するHEMS端末は付いていない。これについては、将来的に沖縄電力のウェブなどで発電状況などを可視化できるサービスを開始するということだ。
また、自宅で発電した電力は割引価格で購入が可能だが、それ以上に電力を使う場合は通常料金で電気を購入する必要がある。足りない場合のスイッチの切り替えなどは一切ないので、電気を使う上での煩わしさはまったくない。しかし太陽光で発電した電力量と沖縄電力から購入した電力量を知る必要があるため、自宅に電力メーターが2つ付くことになる。これについての機器代や工事費も一切無料なので安心だ。
さらに停電時の電力供給は、停電時にのみ有効になるコンセントが1個増設される。つまり停電すると家のコンセントすべてから電力が取れるわけではなく、増設した停電時専用コンセントからのみ電力が取れることになる。なので停電時にも冷蔵庫を動かしたい場合は、コンセントを差し替える必要がある。
契約期間は15年間で、以降も継続するかどうかの選択が可能。契約打ち切りにした場合、太陽光発電設備の撤去や配線の復帰などが必要になるが、これらの費用も沖縄電力が責任を持って無償で行うという。継続の場合の価格設定は現時点では未定となっている。とはいえ沖縄電力によれば「屋根をお借りして発電するので、お客様に一切のご迷惑をかけないようにする」とのことだ。
なお近年、中国製の安価な太陽光パネルを使った設備も多いが、かりーるーふで使われている施設一式はパナソニック製で、15年という長期間におよぶ使用でも問題ないとしている。
火力でも石炭や石油よりCO2排出量が少ないLNG発電
沖縄だけでなく日本全国で主流になっているのは、石油や石炭を燃やし、その熱で蒸気を作りタービンを回転させ発電機を回す火力発電所だ。長年の改良により、もくもくと煙を出すとはなくなり、エネルギー効率も高くはなっているが、燃料の石油や石炭を燃やしたときのCO2排出量は非常に多い。
近年は液化天然ガス(LNG)の火力発電に切り替わりつつあり、LNGのなかでも特にエネルギー効率のよいコンバインドサイクル型のLNG発電にシフト中だ。通常のLNG火力は、天然ガスでつくった高圧の蒸気で発電機につながったタービンを回転させていた。しかしタービンを回転させたあとでも、かなりのエネルギーを持っているが、ほとんど廃熱として捨てられていた。
この捨てられていた低圧蒸気を再利用して、低圧用の小さいタービンを回転させエネルギー効率を良くしたものがコンバインドサイクル型だ。
沖縄電力も2012年からコンバインドサイクル型LNG火力を導入し、LNGタンカーが着岸可能な発電所を稼動させている。現在沖縄本島には、石油火力が2カ所、石炭火力が2カ所(離島はおもにディーゼル発電機)が稼動しているが、これらをCO2排出量が半分程度になるLNG火力に切り替えたいとしている。
とはいえ設備費も期間もかかるため、そのつなぎとして設置が簡単な太陽光発電「かりーるーふ」だ。つい先日の4月20日には、小泉進次郎環境相が記者の囲みインタビューにおいて「30年まで時間がないなか、“屋根置き”といわれる自家消費型の太陽光が切り札だ」と述べている。
本州の火力発電所も沖縄同様に大半が石油か石炭を燃料にしている。例外的に東京電力と中部電力の合弁会社のJERAはほぼLNG化が完了し、東京湾を囲む火力はほぼ9割、中部電力管内も7割程度となっている。
オールジャパンとしても、沖縄電力のように個人宅の屋根を借りて発電するというサービスが普及するかもしれない。
LNGの熱を徹底的に使うことで、さらなる効率化
LNGはCO2削減にとって大きな武器になることは確か。また、発電所は電力会社だけでなく、大型のショッピングモールや病院、公共施設などでも使われている。規模こそ小さいが、これまでは主に重油や軽油などが使われていた。これらもLNG化できれば必然的にCO2排出量を抑えられる。
しかしLNGを使うには問題がある。石油系であれば金属タンクに貯蔵しておけばいいだけの話だが、LNGの貯蔵にはマイナス165℃程度の冷凍機と、高圧に耐えられるタンクが必要になる。さらにLNGを輸送するためには、同等の性能を持つ専用の車両が必要になる。
そこで沖縄電力では、顧客をサポートするためにLNG化のソリューションも提供している。その代表がLNG発電所からほど近くにある圏内最大級のショッピングモール「イオン」、その隣にある大きな病院、近隣に面する公共体育館とスポーツジムへのLNG貯蔵と天然ガスを供給するための「天然ガス供給センター」だ。ここでは高圧低温で貯蔵しているLNGを気化させて、天然ガス(都市ガス)として供給する。
イオンではガスエンジン発電機を使い一部電力を自分でまかなっている。停電になった場合は、そのまま施設内の非常用発電機として作動する。また、エンジンの廃熱は回収され、冬の暖房に利用されるのだ。もし熱量が足りない場合は天然ガスを燃焼して熱量を補う。一方、冷房は、電力を使って冷凍機を稼動して全館に送風するというわけだ。
病院は天然ガスを使った発電・非常用の発電機として使い、廃熱は温水ボイラーに回し給湯に使われる。また天然ガスを使った冷暖房にも使われている(その仕組みはややこしいので「ガス吸収冷温水機」で調べていただきたい)。またスポーツジムでは、温水プールの熱源としても使われている。
那覇から車で2時間ほど離れたリゾートホテルでも、実験的な試みがされており、エネルギーコストを30%カットできたとしている。とにかくお湯の需要が多いホテルでは、業務用のヒートポンプ給湯器(電気を使いエアコンと同じ要領でお湯を沸かす)や、エコキュートを導入。さらには太陽熱温水器なども利用している。また、温泉を使った低温地熱発電を導入したり、空調以外にも自然の風を積極的に取り入れるなどして、コスト削減だけでなく「沖縄の自然との共生」も目指しているという。
このように沖縄電力では、自社の使う発電用のLNGだけでなく、地域の小さな発電機の改善を促し、発電時の廃熱もうまく利用することで、より効率のよい発電・熱源ソリューションを提供しているのだ。
東京電力が発電用に購入したLNGを使い都市ガスも販売している。これは東京湾を囲むJERAのLNGパイプラインを使い、発電用のLNGの一部を一般家庭に売り出しているためだ。いわば沖縄電力の「天然ガス供給センター」の巨大版といえる。ガスと電気を融合させると、より効率良いエネルギーとなるのは確かなようだ。
風力発電や太陽光発電の課題は電力の安定化
海に囲まれ風に恵まれている沖縄なら、さぞかし風力発電が有効に使われているだろうと思いきや、実はまだ実験段階だという。その理由は台風だ。微風でも発電機が回せるほど大きな羽を持つ風車は、台風の風をモロに受けると破壊されてしまうためだ。そのため強風を安全に受け流せるようにした上で、強風や無風の時にも電力が供給できるように、発電した電力をいったん蓄電池に溜めて、安定した電力が送れるようにするための研究を行っているという。
太陽光発電もしかり。夜や悪天候時には発電できないため、かりーるーふでは各家庭に蓄電池を設置して安定供給できるようにしている。本州の電力会社各社も、やはり安定した電力を供給するための蓄電システム、新しい蓄電池などの研究をしているのだ。資源エネルギー庁の「エネルギー白書」によれば、中間目標の2030年の電源構成比を、次のよう掲げている。
つなぎとしての天然ガス(LNG)を徐々に再生可能エネルギーでカバーしつつ、原子力発電の再稼動で石油と石炭発電を抑え、CO2を削減しつつ、エネルギーの安定供給を図ろうという考えだ。
電気代の高騰と4月から値上げの再エネ発電賦課金
今年3月報道では、電気代の高騰が報じられた。値上がりの根本はLNG価格の高騰だ。急速な発展を続ける中国のLNG消費量が増えた上に、世界中の船便がコロナ禍で通販などの物流で増加し、輸送費そのものも高騰している。
自国のエネルギーが乏しい日本においては、安価な電力を安定して供給するためには、よりいっそうの再エネの推進が重要課題となる。
4月から電気代の「再エネ発電賦課金」が値上がりするが、これは地熱やバイオマス(動植物由来の資源を使った)発電の開発に加速度をつけるための研究開発費の意味合いが強い。しかも賦課金の額を決めるのは政府なので、税務署に納めないものの税金に近い。
ここまで沖縄電力の取り組みをベースに、日本のエネルギー事情まで視野を広げてきた。「再エネ発電賦課金」の値上がりを機に電気代の節約について考える方も多いと思うが、賛否両論ある原子力発電も含めて、10年先の2030年の電力事情も併せて考える必要がありそうだ。
(文=藤山哲人/体当たり家電ライター)