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高浜原発再稼働、国の「原発マネーファシズム」に麻痺した福井県…事故なら関西全域に影響

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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3月20日に高浜原発前で稼働中止の申し入れをする中嶌哲演氏(右)

「約束」はフクシマから10年で反故となった――。

 運転開始から40年以上経過している福井県の高浜原発1、2号機、美浜原発3号機について、杉本達治県知事は4月28日、「再稼働に同意する」と発表した。すでに県議会は再稼働に同意している。「フクシマ」以後に改正された原子炉等規制法で原発の運転は初稼働後40年を上限と決めていたのが、あっという間に反故にされたのだ。福井県の動きに合わせたように、鹿児島県の川内原発(薩摩川内市)も40年越えの運転へ検討に入った。

 政権内部では「2050年までに二酸化炭素(CO2)排出ゼロ」のスローガンを錦の御旗に、原発再稼働どころか増設を目論む自民党の議員連盟が発足した。原発について経産省は、30年に国内総発電量の2割程度の「ベースロード電源」とするが、もはや「メイン電源」に戻す勢いなのだ。

 杉本知事は稼働の条件として、使用済み核燃料処理の県外候補地を国が提示することを求めてきた。しかし難航するなか、使用済み核燃料の処分問題を棚上げして再稼働を認めてしまった。「関電も覚悟があり、国も主体的に取り組む。一定の状況になった」などと白々しい説明をしたが、国から新たな巨額の交付金を提示され、ダボハゼのように飛びついただけである。

 4月21日から28日まで再稼働反対を訴えて断食していた「原発設置反対小浜市民の会」の代表である中嶌哲演氏(79・小浜市の名刹明通寺の住職)は言う。

「老朽原発3基の再稼働を拙速に望んでいたのは、決して美浜・高浜町や福井県ではありません。焦っていたのは関西電力と国です。特別重要施設の工事遅れのために高浜原発は6月9日、美浜原発は10月に停止することを、関電は規制委員会から命じられている。仮に高浜1号機を動かしても1週間程度になる。関電と国は今後の老朽化原発再稼働のためにも、若狭の3基の先行例を急いだのです」

 札束で面を叩けばなんとでもなるとばかりに、国は再稼働について1発電所当たり25億円もの新たな交付金を県に示していた。

「4月6日に国が美浜・高浜に最大50億円の交付金を提示した途端、杉本知事も県議会も同意へ向けて走ったのです。若狭や関西、中京の住民の不安や安全よりも、関電と国のスケジュールを重視したのです。現場主義を掲げる杉本知事は、県議会の全員協議会で関電と国に対して請願者などの声を反映した質疑を7時間も熱心に聞いてくれていたのに」(中嶌氏)

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高浜原発前での再稼働反対行動(3月20日)

小さな町ばかりに原発を11基も押し付け

 交付金漬けで麻薬依存症のようになっている地元自治体。筆者には「またか」という印象しかない。環境団体「グリーンアクション」のアイリーン・美緒子・スミスさんは「事故になれば琵琶湖が汚染されて関西の暮らしや経済に甚大な被害をもたらす。その重い責任を福井県知事は負えるのか」と話す(4月29日付朝日新聞)。しかし、もはや知事の責任だけを問えばいいのではない。再稼働に合意した県議会の議員や知事を選んできたのは、福井県民なのである。

 強く原発反対を訴えてきた人は別として、大事故が起きたとき、責任を問われるべきは福井県民ではないのか。国が喧伝してきた安全神話を信じたために犠牲になった福島県の人たちとは違うはずだ。福島第一原発の大事故が起き、神話など崩壊してから10年間、それでも今なお、原発経済に福井県民は賛成したのだから。大事故が起きて福井県民に「助けてくれ」と言う資格があるのだろうかとすら思う。福島県の被災者を取材していた時は、彼らにシンパシーを感じていた筆者だが、福井県の立地自治体などの人たちには正直、共感を持てないでいる。

 これを吐露すると中嶌氏は「神戸の粟野さんに切り返すようですが」と前置きして、次のように語ってくれた。

「国や関電は大飯町や高浜町など小さな町ばかりに原発を11基も押し付けて、その電気は大阪や神戸の人たちが使うんです。若狭の小さな街には金をばらまいて反対できないようにしてきた。これはまさに『原発マネーファシズム』ですよ。国内で国や関電、大都市が若狭地方を『植民地化』してしまったんです」

 ファシズム、植民地など、温厚な中嶌氏の口から激しい言葉が飛び出したのだ。

「もんじゅの事故以後に投じられた110億円、プルサーマル実施への60億円、30年超の運転にかかる100億円の延長に今回の50億円があった。フクシマも同じような交付金漬けになっていたが、あの惨禍で原発マネーの意味したものを福島県民は骨身にしみて感じたでしょう」(中嶌氏)

忘れられる「フクシマの惨劇」

 裏返せば、私たちは惨禍が起きなくては原発マネーの本質を理解しないのだろう。国は、なるたけ狭い範囲を懐柔してしまえば再稼働できるようにしたい。最大でも県単位だ。京都府や滋賀県などが加わらないで決めたいのだ。中嶌氏は「立地自治体だけの同意だけで原発を稼働できるのがおかしい」とする。さらに「国は、立地地域の将来へ向けた共創会議(仮称)を立ち上げて6月に初会合を開き、秋に結論を出すとしていたのに、それも待たずに再稼働を認めてしまった」と批判する。

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高浜市の集会で再稼働阻止を訴える中嶌哲演氏(3月20日)

「フクシマの惨劇」はどこへやら、の「いけいけ原発」の現状について中嶌氏は強く危惧する。

「昨日(4月28日)はあんな判断が出たのに、反対集会には選り抜きの活動家だけ30人しか集まらなかった。もう、日本は『フクシマ以前』の状態なんですよ。福島の大事故の前は、現地で反対の声を上げればさまざまな嫌がらせをされてできなかった。しかしフクシマ後の2、3年は現地も頑張り、大阪や東京など都市部の人たちもデモなどで頑張ってくれた。それが今は嘘のように引いてしまったんです。

 福井の立地自治体の人はお金で麻痺してしまった上、反対運動への圧力も強い。しかし大都市圏ではそういうことはない。原発事故で琵琶湖が汚染されれば、1500万人の関西の人の水源が消えてしまうんですよ。自分たちのこととして再稼働反対を訴えてほしい。神戸や大阪の人なら、わざわざ福井にまで来なくても、福井県知事や議会にはがきを出して訴えることもできるんですよ」

 そう言いながらも中嶌氏は集会で福井の人たちに「関西の人たちに迷惑をかけていいのですか」と強く訴えたのだ。筆者はたまに現地でのデモに参加して満足し、ハガキ1枚出したこともなかった。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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