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日立製作所、グローバルロジック買収は“革新的AI企業への脱皮”の象徴…大艦主義と決別

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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日立製作所 HP」より

 世界経済のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が加速する環境下、日立製作所が、自社の企業文化(カルチャー)を根本から変革しようとしている。その変革は、重電(ハード)を重視した“大艦巨砲主義”的な事業運営から、社会・産業インフラ分野でのソフトウェアを重視した企業文化へのシフトだ。3月末に日立が米グローバルロジックの買収を発表したのは、その象徴だ。

 企業にとって重要なことは、人々の生き方=文化がビジネスモデルを支えるということだ。日立にとってグローバルロジック買収の狙いは、成長力の強化だけではない。そこには、ハード重視の企業文化にソフトウェアの発想をより多く組み込む狙いもある。それによって、日立は、より良い管理体制の構築やメンテナンスの提案によって顧客企業などとより長期の関係を築き、付加価値を獲得したい。

 これまでに日立が進めてきた社会・産業インフラ分野におけるソフトウェア事業への「選択と集中」は、グローバルロジックの買収によって一気に加速するだろう。他方で、ハードを重視してきた組織の風土にソフトウェアが持ち込まれることによって、組織の不安心理が高まることも想定される。グローバルロジックの買収によって日立経営陣がどのような企業カルチャーを醸成し、さらなる成長の実現を目指すかに注目したい。

企業文化の変革を支えるトップの決意

 日立は、自社の文化を、総合電機メーカーとして重電などハードウェアを重視したものから、社会・産業インフラ分野でのソフトウェアを重視したものへと根本から変えようとしている。それを支えているのが、経営者の意思決定だ。

 創業来、日立は産業用のモータや変圧器をはじめ、重電分野での機器の製造を手掛けてきた。その後、日立は家電分野にも進出し、総合電機メーカーとしての地位を築いた。その競争力が大きく揺らいだ要因の一つが、2008年に発生したリーマンショックだった。2009年3月決算、日立は7873億円の最終赤字に陥った。

 事業体制を立て直すために、日立は子会社から川村隆氏をトップに呼び戻した。川村氏のもとで日立は総合電機メーカーから社会・産業インフラとソフトウェアの結合を目指す選択と集中を進めた。選択と集中のバトンは、その後の日立トップ(中西宏明氏と東原敏昭氏)へと引き継がれ、今日に至る。

 つまり、日立にとって最も重要だったことは、過去の事業体制、あるいは過去の成功の体験にこだわることなく、失敗を恐れずに変化への対応を積極的に進めるトップ人材の存在だ。2000年代に入り、日本企業を取り巻く環境は大きく変化した。中国や台湾、韓国など新興国経済の工業化の進展によって、日本企業が得意としてきた「すり合わせ」の技術を用いた垂直統合型の家電生産は、アップルのiPhoneの組み立てに代表されるような「ユニット組み立て型」に移行した。リーマンショックの発生によって世界経済は大きく混乱し、日立など日本企業への逆風は一段と強まった。それに加えて、リーマンショック後の世界経済では、スマートフォンやSNSの普及によってデータの重要性が急速に高まった。

 その状況下、日立トップは従来の発想では生き残れないという危機感を強め、新しい日立を作らなければならないと意を決した。日立は、重電分野(ハード)に偏った事業ポートフォリオを見直して主要上場子会社の売却を進めた。日立は得られた経営資源を、社会インフラや産業用機器の分野における人工知能(AI)などの活用に向けて再配分している。

グローバルロジック買収の狙い

 米国のIT企業であるグローバルロジックの買収は、日立が進めてきた社会・産業インフラ分野でのソフトウェア開発力を強化し、さらなる競争力の発揮を目指すという決意を象徴する意思決定だ。それは、グローバルロジックの事業内容から確認できる。端的に、グローバルロジックは、世界のあらゆる企業がDXへの取り組みを進め、それを基盤としたエコシステムの創造をサポートするIT先端企業だ。DX技術を用いた事業戦略の立案、ユーザ体験の創造や改善、そのためのコンテンツやソフトウェア開発、さらには研究・開発の請負いやプロジェクト管理サポートなど、DXの導入と推進のすべてをカバーしている。

 そうした要素を日立は買収によって獲得し、自社のITプラットフォームである「ルマーダ」と結合させることによって、より迅速かつ満足度の高いサービスなどを顧客に提供する。それによって、例えば、日立は自社の鉄道システム(車両や運行システム)やエレベーターを用いる顧客企業に対して、より良いタイミングで部品の交換や保守点検を行い、より円滑かつ効率的な設備運営を支えることができる。見方を変えれば、DXの活用には社会の持続性を高めるというベネフィットがある。それは、マイクロソフトが小売大手のウォルマートなどのDXをサポートして成長を実現していることからも確認できる。

 企業にとってのDXの重要性は、米中の対立の先鋭化によって一段と高まっている。米国は中国の覇権強化を食い止めるために、半導体や高容量バッテリー、医薬品、レアアースなどのサプライチェーンを見直し、自国を中心とした供給体制を確立しなければならない。世界各国の企業にとって、米国や中国の政策に対応して機動的にサプライチェーンを再編して生産体制を確立することの重要性は一段と増す。そのためにDX技術の導入は不可欠だ。コロナ禍の発生もそうした変化を加速させている。

 つまり、日立にとって現在の環境は社会インフラや産業面でのソフトウェアビジネスのさらなる成長を目指すチャンスといえる。それが、グローバルロジック買収と日立金属の売却の背景にある。

重要性高まる新しいカルチャーへの人々の習熟

 今後も、日立は選択と集中を続けるだろう。世界経済全体で、DXに加えて水素技術の活用への取り組みの加速など、社会と経済全体の環境が加速度的に変化している。その変化に対応するために、日立はさらなる事業の変革を重視する。今日、収益を得ている事業が将来的な売却の対象として扱われ、より成長期待の高い分野へ生産要素が再配分されていく展開が想定される。

 そのために日立に求められることは、特定の機能を持つ製品を販売して収益を獲得することに慣れた人々が、新しい事業運営にしっかりと習熟する環境を整えることだ。私たちは、モータやエレベーターなど製品の動作を目で見て、その機能を直感的に理解することができる。その一方で、日立が重視するソフトウェアの機能は、直接見ることが難しい。それは、ハードとソフトウェア分野の違いの一つだ。それに加えて、成長分野への選択と集中が進むことによって、事業ポートフォリオは入れ替わる。

 かつて日立は重厚長大な分野を中心に事業を拡大し、終身雇用と年功序列の雇用慣行を続けた日本を代表する企業だった。ある意味では、リーマンショックまでの日立には、“わが国の社会と経済の縮図”というべき側面があったように思う。

 しかし、今日の日立が目指す企業のカルチャーは、それとは大きく異なる。日立は自らのポートフォリオを大胆に入れ替えることによって、非連続かつ加速化する世界経済の環境変化に対応しようとしている。日立の経営陣は、ハード重視、かつ、どちらかといえば安定を重視した従業員の意識を変え、データの分析などソフトウェア(人々の考え方)をベースとする新しいカルチャーを醸成しなければならない。それが、社会インフラや産業分野でのDXプラットフォーマーとしての日立の競争力のさらなる発揮を支える。

 成長事業の強化に加えて、ハード重視からソフト重視への企業カルチャーの変革および醸成という観点からもグローバルロジックの買収は日立にとって重要だ。社会インフラ分野などでのソフトウェア創出力と収益力の向上に加えて、日立経営陣がどのように人材を育成し、個々人の強みのさらなる発揮を目指すか、今後の取り組みに注目したい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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