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ソフトバンクG、燻る上場廃止…経営リスクとして有報に「孫正義社長の不測の事態」明記

文=編集部
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孫正義氏のツイッターより

 ソフトバンクグループ(SBG)は6月23日、東京・港区海岸の東京ポートシティ竹芝で定時株主総会を開催した。2021年3月期決算で国内企業として過去最高となる約5兆円の純利益を計上した。

 ウェブを通じて遠隔で出席した孫正義会長兼社長は冒頭、「ここ数年、ソフトバンクとはなんぞやと多くの人に問われた」と切り出した。「事業家としての孫正義は好きだが、投資家としては好きじゃないと言われることもあった。単なる投資家ではないと思っているが、どんなふうに説明すれば良いか、モヤモヤと鬱憤が溜まっていた」と話した。

 世界のAI(人工知能)関連企業へ相次ぎ出資している現在の経営方針を「情報革命の資本家であると定義したい」と表明。投資額を上回る資金の回収だけを目指す投資家とは次元が異なると説明した。孫氏は、「19世紀の産業革命下では、蒸気機関を発明したジェームズ・ワットらとともに、開発資金を投じたロスチャイルド家の存在があった」とした。

 そして、「21世紀の発明家に相当するのは(米アップル創業者の)スティーブ・ジョブズなどの起業家だ。ソフトバンクはAIを使った情報革命の資本家になる」と“孫節”でまくし立てた。「(ソフトバンク・ビジョン・ファンド<SVF>の)投資先の約260社はほとんどがまだ利益を出していないが、リスクをとって最も大きな資本を提供している自負がある」と力説。

 最近の孫氏の出資戦略には「事業家から投資家へ変節した」との批判が常につきまとうが、孫氏は「投資家と資本家は似て非なるものだ」とし、自身の考える両者の違いを明確にした。「投資家が目指す正義はお金をつくること」としたうえで資本家の「もっとも大切な物差しは未来を創ることだ」と再定義した。「ロスチャイルドら資本家が、その礎をつくったように、人々の未来を創ることが一番の使命と感じている」と強調した。

株主と大きな溝

 質疑では、下落傾向が顕著な株価や株主還元に関する質問が相次いだ。SBG株は3月16日に1万695円の年初来高値をつけたが、現時点では3割近く安い。21年3月期の連結純利益は過去最高だったが、今期に入り投資先の企業の株価が冴えない。「過去最高の純利益を発表して以降、時価総額が10兆円近く目減りした。短期と中・長期の株価対策、今後の業績見通しを教えてほしい」と投資家から疑問が投げかけられた。

 SBGはここ数年、投資事業の指標として保有株式価値から純負債を引いた時価純資産を意味する「NAV(ネット・アセット・バリュー)」を採用している。「毎日NAVを計算して見ているが、1日で2000億~3000億円も動くこともある。多いときは5000億円や1兆円などと、あまりにも変動が大きく、業績予想を出すのは不適切だ」とした。

「NAVを重視したことで、投資で高値づかみになっているのではないか」との批判も出た。これに対し、氏は「短期的には上がったり下がったりするが、長期的な視点で見てほしい」と答えた。そのうえで、「NAV以外に資本家となったSBGをはかる適切な物差しがあるのかと問い返したい」と反論。「NAVは資本家にとって一番重要な指標だ」と改めて主張した。

 孫氏はSVFについて「本当にけちょんけちょんに言われていた。利益が薄くなり、髪も薄くなったとかー。いや、そこまでは言われていませんかね」と述べたうえで、「利回りが43%となり、誇れる状況になった」と胸を張った。自社株買いを求める声には「常に重要な選択肢のひとつ」と応じ、「株式分割も選択肢のひとつとして検討する」との考えを示した。

 足元の株安と時価総額の減少は、20年に発表した総額2兆5000億円の自社株買いが終了し、追加の自社株買いが示されなかったことが目先筋の投資家から嫌気された結果といわれている。「下がりすぎ。時価純資産に対して50%以上割安な現在の株価は、買いのチャンスだ」と訴えた。

「株主還元が他社より低いが、配当性向を引き上げる考えはあるか」と問われ、孫氏は「株主還元には、配当と自社株買いの2つがある。この10年間、何度も自社株買いを行ってきた。配当と自社株買いを足した株主還元はかなり高い。これからもセットで還元していきたい」と模範解答をしたが、「自社株買いばかり気にされるのはちょっと悲しい」と、思わず本音を吐露した。

 孫氏と、自社株買いによる株主還元を求める株主との間に大きな溝が生じているとの印象を深くした株主総会となった。

 総会の終盤では、19年末で社外取締役を退任したファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏について言及した。冒頭で触れた「事業家としては好きだけど投資家としては好きじゃない」と言われたのが柳井氏からだったと明かした上で、「ユニクロの経営に専念したいということだった。投資家としては好きじゃないというのは、柳井氏の本音かもしれない」と寂しそうに、この話題をしめくくった。

 最後に「60代で引き継ぐ」との考えを示していた後継者問題を問われた孫氏は、80歳を超えた今も投資家として現役のウォーレン・バフェット氏を例示しつつ、「69歳を過ぎても社長をやっているかもしれないし、会長として経営にかかわるかもしれない。後継者選びは最重要な仕事のひとつだ」と答えた。

 株主から、「配当性向を30%に定める議案」と、「無配とする議案」が修正動議として出されたが、いずれも否決。人事を含めて会社提案がすべて承認された。しかし、社外取締役に選任された米系法律事務所モリソン・フォースター東京オフィス代表のケン・シーゲル氏に対する賛成率は69.77%にとどまった。シーゲル氏は13年のソフトバンクによる米スプリント(現TモバイルUS)買収など巨額M&A(合併・買収)の法的助言に携わってきた。同氏に関しては、議決権行使助言会社が「利益相反」を理由に選任に反対するよう推奨していた。氏の賛成率は97.92%と相変わらず高かった。

 孫氏は“令和のロスチャイルド”として情報革命に大きな足跡を残すことができるのだろうか。

米ウィーカンパニーへの巨額投資

 豆腐屋のように「1丁(1兆円)、2丁(2兆円)と数えられるようになる」というのが孫氏が創業当時に語った夢であり、この夢は“正夢”となった。「SBGの高収益はアップルに代表される米国の巨大IT企業と性格を異にする」(アナリスト)と指摘されることが多い。投資頼みで、地に足がついた企業活動による利益ではないという見方だ。

 SBGの高収益は「砂上の楼閣」といった厳しい見方をするアナリストもいる。投資先次第で業績に大きなブレが生じる。シェアオフィス「ウィーワーク」を運営する米ウィーカンパニーの巨額投資に失敗したことは記憶に新しい。コロナ禍で世界市場で株価が下落した影響を受け、20年3月期連結決算は15年ぶりに最終赤字となった。

 最近でも、英金融サービス企業のグリーンシル・キャピタルが経営破綻し、SBGにどれほどの損失が出るかと懸念されている。

 SVFの2号ファンドの投資社数が急増していることを懸念する声もある。1号ファンドと比較すると1件当たりの投資金額は少なくなっており、損失が出るリスクを分散している。ウィーワークが経営危機となった折には追加支援の決断を迫られたが、今後の基本方針として「救済融資はしない」ことに決した。スタートアップ企業に対する投資では「経営破綻」の4文字がつきまとうが、1社ごとの投資額を絞り込むことでリスクヘッジを図っているのだろうか。

 SBGの有価証券報告書には「孫正義をはじめとする当社グループの経営陣に不測の事態が生じた場合は、SBGの活動全般に支障が生じる可能性があります」と書かれている。孫氏の長期政権のリスクが露わになってきた。「孫さんが体調不良になっただけで株価が急落するのではないのか。SBG株は買い増しにくい」と考えている個人投資家も多い。

 上場を維持したまま長期政権を正当化するのは、かなり難しくなってきた面は否めない。そうなると非上場化が一つの選択肢になる。6月23日の株主総会でも上場廃止については「コメントすべきではない」とした。

(文=編集部)

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